「リモートだから生産性があがる」コロナ時代にデザイン組織の生産性をあげる3つの施策

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BtoBマーケティングと業務アプリケーションのUI/UXデザインに定評がある株式会社ベイジ。Web戦略立案から制作に必要なクリエイターだけで構成された30名ほどのウェブ制作会社である。

マーケティングも営業も選任がおらず、広告宣伝活動をほとんど行っていないにも関わらず、年間500件近くの問い合わせが来るウェブ業界ではよく知られた人気企業だ。最近、クラウドやシステム開発で有名なクラスメソッド社と資本提携し、代表の枌谷 力氏が同社のCDO(Chief Design Officer)に就任したことでも話題になった。

そんなベイジでも、コロナ禍の影響で2020年3月からリモートワークを導入。現在は9割以上の社員がリモートで働いている。さらに採用活動もリモートで行っており、現在在籍している社員の半数近くはリモート採用で、入社まで直接会ったことがないという。

そんなベイジについて今回、クリエイターが多いデザイン組織ならではのリモートワークのポイントや活用しているツールについて、枌谷氏に語っていただいた。

自分のやり方にこだわるデザイナーだからこそ、新しい取り組みを拒否しないマインドを日頃から育てる必要がある

デザイン組織をリモートワーク化したい経営者やマネージャーは、「過去のやり方に縛られないマインドづくり」「ツールのフル活用」に注力する必要があると考えています。

デザイナーにも様々なタイプがいますが、他の職種と比べても「これまで培ってきた自分のやり方」を重視する傾向が強い職業だと思うんですね。もちろんそれはある面ではデザイナーの良さでもあるのですが、経験や実績がある人ほど、変化に対して直感的に否定してしまう傾向もある。リモートワークも同様で、今までのやり方と変わって仕事の質が落ちる、とまず思うデザイナーは多かったと思います。

そのため、これまでのやり方を変える際に「なぜそうするのか?」をしっかり説明することが大事だと思います。ウェブ制作会社やデザイン会社でリモートワークが浸透しない理由は、なぜリモートワークすべきかをクリエイターたちが納得感を持って理解していないから、ということも多いのではないでしょうか。

ベイジでは、コロナ禍になる以前から、固定概念に囚われず、過去のやり方を時々変えてアップデートすることの重要性を啓蒙してきました。

というのも、Webの世界は移り変わりが早いため、5年単位で技術やデバイス、仕事の進め方が大きく変わるからです。過去に一生懸命習得した技術が5年後はほとんど使ってない、なんてことはざらに起きます。

過去に習得した自分のやり方を重視し過ぎてしまうと、新しいものについていけないということが起こってしまうのです。

特に、そうしたこだわりは、ベテランだけでなく、若いメンバーにも起きます。若い人はWebの移り変わりを身を以て体験していないため、今獲得している自分のやり方がずっと大事なものであるはずだと、執着してしまうのです。

これはクリエイターに限った話ではないとは思いますが、変化に対応できるデザイン組織をつくるためには、固定概念に囚われず変化を受け入れるマインドを育てることが、コロナ禍と関係なくそもそも重要でした。それをうまくやってこれた組織なら、リモートワークにもうまく乗れたことでしょう。

こうした変化をポジティブに捉える啓蒙があった上で、いま使っているツールを変えたり、仕事の進め方を変えたりする際には、「なぜこのツールを変えるのか」「なぜこれまでの進め方を変えるのか」といったことを、全体最適・組織最適の観点から丁寧に説明します。この啓蒙と説明をセットにすることで、大胆にやり方を変えても、ツール等を積極的に活用しながら、仕事の質が維持できるよう工夫できる組織になると考えています。

リモートワークで生まれた問題は、組織がもともと持っていた問題が浮き彫りになっているだけ

デザイン組織のリモートワークの問題として、「新人教育」「クオリティコントロール」「ワークショップなどの創発活動」の3つがよく挙げられます。

時々、「デザイナーはリモートでは育てられない」という話を聞きますが、ディスプレイを指差して指示するような密な指導はリモートワークではできないと思い込んでいるから生まれる発想でしょう。

しかし、画面を指さして口頭で指示するようなことは、リモートワークであっても画面共有で可能です。それでも育てられないのだとしたら、課題はリモートではなく、スキルやナレッジが体系化、言語化できていないことにあるのではないでしょうか。新しい社員が入社するたびに口頭で説明する必要があるため、リモートワークだと教えられない、育てられない、という発想になる。

同じく、「リモートワークだとクオリティコントロールができない」というのは、ただの思い込みであるように思います。むしろリモートワークの方が、画面共有によってデザイナーとディレクターが同じ目線で画面を見れるなど、より適切なフィードバックが可能になるシーンも多いように思います。

ここでも真の課題はリモートワークではなく、フィードバック自体に対するメンバーのマインドセットでしょう。デザイナーに限らず、フィードバックを受ける方は自分が否定されている気持ちになりますよね。このような気持ちを持ったまま、チャットだけでフィードバックをしていると、殺伐とした関係になったり、自分は全く認められていないと自己肯定感が下がる。こうした不和から仕事のクオリティが維持しにくくなる。しかし、フィードバックは仕事の質を上げるために必要で、個人批判ではない、と捉えるマインドが組織の中できちんと根付いていれば、リモート中心のコミュニケーションになってもうまくいくはずです。

そして3つめの、「リモートワークによってワークショップができなくなった」という問題ですが、ツールでも置き換えることができるとはいえ、たしかにリアルのほうがスピーディーにアイデアを創発し、有機的にアイデアが繋がっていく実感があります。

ただこれも、ツールをうまく活用すれば、オンラインのデメリットを吸収した、オンラインならではの創発ができたりもします。たとえばベイジでは、最近のワークショップはMiroとZoomを併用し、デザインの参考イメージをどんどん張り付けながら議論してスピーディーにアイデアを固めていくという、リアルでは実現できない新しいスタイルの創発活動が行われています。

このように、リアルのほうがいいと諦めてしまうのではなく、ツールの特性を理解して工夫しながら、オンラインとリアルを状況に応じて使い分けていけばよいのです。

こういったリモートワークによって発生する問題をあらためて見返すと、教育が体系化されていないこと、フィードバックを受け入れる文化が醸成されていないこと、固定概念に囚われて新しいものを受け付けないことなど、組織が根底に抱えていたより深い問題が洗い出されているだけだったりするな、と感じます。

では、具体的にどのようにして、リモートワークにも対応できる強い組織をベイジはつくっていったのか。3つのポイントに分けてご紹介しましょう。

デザイン組織のリモートワークで大切な3つのポイント

まず最初のポイントが「知見の言語化・体系化」です。ベイジにはプロジェクト管理に関する企画書やレポート、各種ガイドライン、ワークフローを管理するためのチェックシートなど、ドキュメントのテンプレートが約100種類以上存在し、社内Wikiで共有されています。

社内Wikiにはこうした業務ルールだけでなく、デザインに対するマインドセットやスキルアップのノウハウも掲載されており、分からないこと、知りたいことがあれば社内Wikiを見ればたいてい解決できるようになっています。

そして新人のオンボーディングプログラムも、学校のカリキュラムのように体系化されています。一般スキル、専門スキル、実務スキルに分類された約40の科目をクリアすれば新人研修が終わる仕組みになっています。

このように知見を体系化し、言語化していれば、リモートワークであっても生産性の高いナレッジの共有や新人教育が可能になるのです。実際ベイジに入社した方の多くが、この社内Wikiの便利さに言及し、これのお陰で情報格差を解消できている、といったことを発言しています。

なお、リモートワークに移行してからは動画を活用するようになりました。社員を集めて一斉に伝えたいことがあるとき、必ずZoomで録画するようにしています。こうして動画が教育資料になっていくんです。今社内には40以上の動画がアップされていて、ちょっとしたYouTubeチャンネルみたいになっていますね。

コロナ禍以前のオフィスワーク中心の頃は、社内勉強会や社内打ち合わせはフロー型コンテンツでしたが、リモートワークになって、社内勉強会や社内打ち合わせがストック型コンテンツになったというのは実はとても大きな変化だと感じています。録画によって途中退室や欠席も可能になり、何かを伝えるのに時間に縛られなくなったことも大きいですね。

次のポイントは、「フィードバックを当たり前にする文化醸成」です。ベイジのデザイン組織では、リードデザイナーのようなベテランでなくとも、誰もがデザインにフィードバックをしていいという文化をつくってきました

師弟関係のようにベテランだけが若手にフィードバックをする体制は、ベテランの指導力に依存するし、一人で何人も見るため、フィードバックを返す負荷も溜まりがちです。また、クローズドでのフィードバックは組織としてのナレッジになりません。そこで、公開の場でみんなでフィードバックを返していき、他者の経験や失敗も自分事のように経験できるようにしています。

ただ正直、この全員フィードバック文化は、最初はなかなか根付きませんでした。そのため、しつこく何度もフィードバックの重要性を言い続けました。みんなが憧れる著名なデザイナーにも入っていただき、その人からもフィードバックがもらえるようにもしました。このように、組織をつくる人には「しつこさ」が大事であると感じています。

最後のポイントは、「日頃から働き方やツールを積極的に変えていく」ということです。日頃から変化が少ない組織だと、リモートワークのような変化には大きな抵抗を感じてしまうことでしょう。

しかし日頃から、仕事のやり方やツールを変えることに慣れていれば、その抵抗感も最小限に留まります。ベイジは社員の規模が徐々に増えていったこともあり、やり方やツールを変えることは日常茶飯事であり、結果的に変化に強い組織だったように思います。

また、新しい働き方やツールを導入することで、メンバーは「余計な仕事が増えるのでは」「失敗するのでは」「二度と前のに戻れないのでは」という不安を抱えがちです。そのため、取り組む理由をしっかりと説明するとともに、うまく行かなかったら前のやり方に戻そうと伝えることも重要でしょう。

実際にベイジでも、新しいツールを導入してすぐに以前のツールに戻したこともあります。一方で、実際に使ってみると「こっちの方がやっぱりいいね」となることが多くありますから、 頭ごなしに否定せずに「とりあえず試してみる」 というスタンスが重要だなと。

そうした組織風土をつくっておくために、働き方やツールを固定化させずに積極的に変えていくことが日頃から求められるのだと思います。

デザイン組織のリモートワークにオススメの3つのツール

次に、リモートワーク下で実際にベイジが試してみて、いまでも使い続けているツールを3つご紹介いたします。

01. Discord

ベイジでは、ボイスチャットツールである『Discord』をバーチャルオフィスとして活用しています。業務時間中は全員がDiscordのデスクトップアプリを立ち上げている状態になっています。Discord内には、大会議室、小会議室、集中ルーム、リリース部屋、打ち合わせ中、離席中、雑談、ランチといった名前の部屋を設け、業務時間中はどこかの部屋にいることを基本ルールにしています。

大人数で打ち合わせしたい場合は「大会議室に来てください」とチャットを送り、大会議室のチャットルームに集まっているメンバーだけで会話をすることができます。誰とも話したくないときは集中ルームに入り、黙々と作業するといったこともできます。

Zoomとの一番の違いは、常時接続によって、いつでもすぐに話しかけられる環境になっていることです。Zoomだと都度URLを発行して、URLを共有して、参加者はリンクをクリックして参加と、実際に顔が見れるまでのステップが多いため、すぐに話しかけられるような感覚を得ることができません。Discordだと、誰がどの部屋に居るかが可視化されるため、同じ空間で一緒に働いている実感を得られます。

これはまさにバーチャルオフィスであり、ZoomともチャットともUXが明らかに異なっています。リモートワークになって以降に新しく入社したメンバーも、「Discordのお陰で疎外されている感じや孤独感をほとんど感じない」と口を揃えて話しています。

『Discord』を使い、社員とコミュニケーションをとる枌谷氏

02. Backlog

『Backlog』はプロジェクト管理ツールとして日頃から積極的に活用していますが、その中のwiki機能を活用して、社内Wikiを構築しています。

ナレッジ共有ツールの導入にあたって、いくつかのツールを検討しましたが、結果的にはBacklogのwiki機能が更新も閲覧も管理もシンプルで、コストパフォーマンスも高いと判断し、採用するに至りました。個人的には、他のナレッジ共有ツールでも大きな問題はないと思いますが、Backlogを日常的に使っているのであれば、その中のWiki機能を活用するのはオススメです。

編集後記:「デザイン組織こそリモートワーク」これからのデザイナーは場所の制限なく、活動の幅を広げられる

多くの企業でリモートワークの導入が進む中、「リモートだとニュアンスが伝わらない」などコミュニケーションに不安を感じてしまうケースは珍しくはない。

しかし、枌谷氏のお話を伺い、そうした不安はこれまでのやり方に固執しているからこそ生まれるものであり、また知識や経験の言語化を怠っているがゆえの、ある意味  “言い訳” なのだと感じた。リモートワークだからこそできるコミュニケーションにより、生産性を高め、仕事の質を高めていくことができるのだと気付かされるお話であった。

最後に枌谷氏はこう語る。

「リモートワークは、デザイナーに向いている環境だと思います。リモートワークが当たり前になる以前の働き方を正としてしまうと、リモートワークに対してネガティブな考えを持ってしまうかもしれませんが、リモートワークをうまく活用するほど、より効率的だと気づきます。そんなデザイナーを抱えるデザイン組織のマネジメント観点でも、リモートワークは最適な働き方だと思うんですね。

これからのデザイナーは、必ずしも東京などの首都圏に集まる必要はなく、働きたい場所で働くことができるようになり、活動の幅を広げることができるでしょう。クリエイティビティが発揮される場所なら、日本でなくてもいいのかもしれません。

コロナ禍の収束とともに徐々にオフィスに回帰するだろうと言われていますが、ベイジは今後もリモートワークを積極的に活用していく予定です。都内近郊在住などの場所の制限がなくなることで、採用の幅も広がり、さらに強いデザイン組織へと成長するチャンスだと感じています」

枌谷 力
株式会社ベイジ

BtoBサイトの制作と業務システムのUIデザインに強い会社ベイジ代表。およびクラスメソッドCDO(Chief Design Officer)。NTTデータ→制作会社2社→個人事業→起業。デザイン、ウェブ、マーケティング、コンテンツ、SNS、採用、組織マネジメント等、幅広いテーマで活動。本職はデザイナー。登壇&執筆多数。

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