【保存版】広報の基本と、KPI設計。振り返りたい内容をプロに聞く
「情報発信だけが広報の仕事ではない」
そう語るのは、自身の肩書を「コネクタ」と名乗り、「人と情報をつなぎ、社会を変える主役を増やす。」をテーマに広報、マーケティング、新規事業の支援、コミュニティづくり、官民連携促進を中心に活動しているkipples代表 日比谷尚武氏だ。
日比谷氏は、2009年に参画したSansan株式会社ではマーケティング・広報機能の立ち上げを担当。そして現在は公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会 広報委員、一般社団法人Public Meets Innovation理事なども務める広報のプロフェッショナルである。
そこで今回は、採用広報やIR広報、また事業広報など様々な広報の役割に対して、そもそもで広報の役割は何なのか、また広報に求められることや広報活動のKPI設計、そして広報活動を進める上で実際に日比谷氏が活用するツールについて、日比谷氏に語っていただいた。
情報発信だけが仕事じゃない。広報の本質的な役割は「関係づくり」
広報の仕事と聞くと、みなさんどういった仕事内容を想像しますか?
プレスリリースを書いたり、会社について発信されるコンテンツをとりまとめたりといったいろいろなイメージがあるかと思いますが、ひとえに “会社についての情報発信をする仕事” という認識を持たれている方が多いのではないでしょうか。
しかし、 “広報” という文字の意味に引きづられて勘違いされがちですが、そもそも広報は英語で「Public Relations」、つまり “relations” とある通り、関係づくりが広報の仕事です。
つまり広報の仕事は発信だけでなく、社内外のステークホルダーの方々と良い関係を築いたり、合意形成することが広報の役割なのです。
なお、PRと広報を分けて考えている方も多いと思います。アピールとか宣伝っぽい文脈の活動に対してPRという言葉が使われたりしますが、英語の “Public Relations” から考えると、広報もPRもどちらも “Public Relations” で同じなんですよね。
そして実際の人間関係を想像してもらうと分かりやすいと思うのですが、関係づくりのためには相手のことを知る必要があります。つまり広報というのは発信だけでなく、情報収集も広報の仕事であり、社内外との情報収集、情報発信を通じて関係づくりを進めていくのが広報であると考えています。
そして広報の仕事は、企業ステージ別に求められる活動が異なります。
創業期はビジョン、ミッションをつくり、身近な人たち、ステークホルダーとのコミュニケーションが広報活動として重要でしょうし、会社が成長するにつれて採用のための情報発信や事業を伸ばすための情報発信、また見込み顧客に対する情報発信なども広報活動のひとつです。
そして上場フェーズでは社内広報やガバナンス強化など、社員の方向性を整えるための活動も広報に含まれます。必ずしもこの通りになるというわけではありませんが、参考としては下記のような図のようなイメージで、広報活動に求められることが変わっていきます。
つまりフェーズによって、広報は事業担当者や人事担当者、また法務など、様々な部門と関わりを持って進めていくポジションであり、広報単体で活動が成り立つものではありません。そして言ってしまえば、企業の推進に必要なコミュニケーション領域を担う、組織内のコミュニケーションの専門家が広報と言えるでしょう。
しかし、多くの企業ではプレスリリースを書いたりするのが広報の仕事だと捉えられてしまっており、文章を書くのが上手だからという理由でアサインしたり、表に出る機会が多いからとビジュアル重視でアサインしたりと、本質的な広報の役割を理解せずに担当者をアサインしているケースは多く見受けられます。
そうしたアサインは、アサインされた担当者も会社も不幸になってしまいかねませんから、あらためて広報とは何かを考え、アサインする側も広報の役割を正しく理解することが大切なのです。
広報には求められるのは「各部門の課題やゴールに寄り添うこと」
社内外のステークホルダーとの関係構築が広報の役割だとお伝えしましたが、では具体的にどういったことを出発点とすべきかというと、私はよく「各部門のやりたいことや困っていることに対して、広報のポジションから援護射撃するのがいいのでは」と伝えています。
たとえば営業部門が「大企業と取引がしたい」と考えているのであれば、広報としてはすでに取引のある大企業との事例をコンテンツ化するといったアプローチができます。
またマーケティング部門が開催するセミナーを盛り上げたいと思っている場合は、セミナー集客のための情報発信やセミナー当日の様子を取材して次回以降のセミナー集客に役立てるなどのアプローチも広報活動になりえます。
ただし、各部門が自主的に広報に相談を持ちかけるというケースは、実際にそこまで多くはないでしょう。そのため、広報は自ら各部門に情報を取りに行く姿勢が非常に大切です。
各部門の定例会議に一緒に参加して話を聞いたりする他、月1回といった頻度でも良いので、各事業部長とランチをするなどしてカジュアルに情報収集を行うなどして、広報自らが情報を取りに行くことが求められます。
なお、導入事例のコンテンツ化やセミナー集客のための情報発信といったことを挙げましたが、「それってマーケティング部門の仕事じゃないの?」と思われた方もいるかもしれません。
たしかに、マーケティング部門が優秀で、こうしたアクションをすでに実行している場合は、広報としてアプローチする必要はないでしょう。また、認知拡大寄りのアクションを広報が担当し、潜在顧客へのアプローチをマーケティング部門が担当するといった分け方もできます。
しかし、上述の通り広報はコミュニケーションの専門家というのが本質的な役割ですから、マーケティング部門然り、自社の各部門だけではアプローチできていないことに対して、コミュニケーションで解決できる課題を扱うのが広報の仕事です。
そのため「これはマーケティング部門の仕事だから……」と放置するのではなく、広報としてサポートできることはないだろうかと、各部門の課題やゴールに寄り添うことが広報に求められることだと考えています。
なお、プレスリリースを書くことが広報の仕事だと思われがちですが、プレスリリースは何のためにやるのかと考えると、当然ながら各部門の課題やゴールに寄り添い、コミュニケーションを通じて課題解決を行うためです。
そして、もっと具体的に考えると、メディアの記者の方がいろいろなネタを探しているのに対して、情報提供の方法の一つとしてプレスリリースがあるわけですが、記者の方がすべてのプレスリリースに目を通すことは現実的に難しく、必ずしも自社のプレスリリースが記者にまで届くとは限りません。
つまりメディアに取り上げてもらって自社の課題解決を行うことが目的であって、プレスリリースを書くこと自体が目的ではありませんから、記者の方と直接関係を築いたり、記者の方が取り上げたくなるような話題づくりを行うなども目的達成のためには大切なわけです。
そのため、闇雲にプレスリリースを出すのではなく、あくまでも手段のひとつとして捉え、目的達成のためにどうプレスリリースを駆使するかという考え方が大事だと思います。
ちなみに余談ではありますが、プレスリリースでは5W1Hを明記する必要があります。しかし、いざプレスリリースを書き始めると「この事業は世の中のどういった課題を解決するんだっけ」「これは誰向けのサービスなのか」といった根本的な疑問にぶつかり、実は5W1Hが曖昧であるということに気づくといった経験をされたことのある広報担当者の方もいらっしゃると思います。
そこである企業では、新規事業をはじめる際にまずプレスリリースを書くらしいんですね。なぜならプレスリリースを書くことで新規事業の5W1Hがまとまり、メンバー間の認識が揃うからだそうです。
「広報は営業の評価指標に似ている」広報KPIの考え方とは
広報の本質的な役割や求められることについてお話してきましたが、企業活動である以上、実施した内容を評価し、振り返り、次のアクションへと繋げていくことが求められます。
しかし広報のようなコミュニケーションの業務というのは成果が測りにくく、特に広報活動は認知拡大を目的としたアクションが多いため、成果が現れるまでのプロセスが長く、また実施した結果どういった変化があったのか因果関係を証明しづらいことも多いでしょう。
もちろん、外部のリサーチ会社に依頼して認知度調査を行うといったことも可能ですが、その場合は当然ながら相応のコストが発生するため、すべての企業ができる方法ではありません。
さらに評価する側も広報のプロセスを理解しておらず、広報を適切に評価ができていないケースも多く見受けられます。そこで広報活動はどのような指標で、どうPDCAを回していくべきか、広報のKPIについてご紹介いたします。
まず、そもそも評価に必要なKPIを設定するためには、何をゴールにするのかを明確にする必要があります。ただし、最終的な結果だけをゴールとしてしまうと、結果が出るまでに時間がかかり、かつその結果が広報活動だけの影響とは限らないため、「企画」「実装」「露出」「結果」と4段階に分けてゴールを設定し、評価するという方法があります。
たとえば「露出」でいうと、昔であれば広告換算値で露出の成果を図る考え方が一般的でしたが、それでは本来意図した通りの露出であったかどうか、自社が伝えたいことが正しく伝わる内容であったかどうかなどを振り返ることができません。
また、露出度合いもコンテンツのメインで扱われているのか、サブの情報として扱われているのか、さらにはたまたまの露出であったか、こちらからアプローチした結果としての露出であったのかなど、露出ひとつ取っても、振り返るべき観点は複数あります。
もちろんすべてを定量的に振り返ることは難しいため、定性的な要素も評価指標に組み込むことで、ネクストアクションを定めやすくなるでしょう。私が具体的に行なっているのが、下記のような評価軸です。
媒体とのマッチ度、戦略的な露出かどうか、またコンテンツの中での取り扱われ方などを、3段階で評価していきます。そうすることで、「よく取り上げてもらうけれども、メインでは扱われていない。次は単独で取り上げられることを目指そう」といったアクションに繋げていけるのです。
また、「実装」段階などでは、結果として測りづらいため、どれだけのメディアにアプローチしたのかなどの行動指標も見るべきでしょう。
実は広報がメディアに掲載してもらうまでのプロセスと、営業が見込み顧客を獲得して受注するまでのプロセスは非常に似ているんですね。
営業であれば、上司が営業担当に「売れていないぞ、もっと頑張れ」というだけでは意味がなく、テレアポ数や商談件数、受注率で行動を振り返り、改善を行うわけですが、それは広報も同じです。
広報活動による結果だけを見るのではなく、そのプロセスも評価対象とすることで、行動の精度を高めていくことができるのです。
さらに営業であれば「受注したけど満足度が低い」といった問題も起こりがちであるように、広報も「記事になったけど、そこからユーザーの態度変容が生まれていない」など、露出した後の結果もしっかりと追い続けることで、より成果に結びつく広報活動が実現できるでしょう。
広報活動の評価・企画に活用している3つのツール
広報は、プロセスもしっかりと評価することで、振り返りから次へのアクションへと繋げていくといったPDCAサイクルを回すことができるようになります。
そこで広報活動を評価したり、広報活動の新たな企画を立てる上で活用するのが、次の3つのツールです。
01. Google スプレッドシート
1つ目がGoogleスプレッドシートです。こちらは上述のようなメディアの露出評価などのスコアリングをまとめる際に活用しています。
またスコアリングはクォーターごと、年ごとにまとめていき、時期的な要因があるのかどうか、またどういった指標が高かったり低かったりするのか傾向を把握できるようにしており、そこからグラフに落とし込んで次期のアクションに役立てるといった使い方をしています。
Googleスプレッドシートの利点は、様々な使い方ができるその汎用性にあります。また、URLひとつでシェアできるといった共有しやすいこともメリットです。
02. ビザスクlite
ビザスクliteは、特定の専門知識を持つ方や特定の業界にいる方に対してインタビューをすることができるサービスです。
広報戦略を立案する際には、業界動向やターゲットのインサイト(考えていること、どんな情報環境におかれているのかなど)を深く知ることが大切ですが、自分の想像や思い込みをもとに進めてしまい、実態から外れた設計をしてしまいがちです。
そこでターゲットの「生の声」を聞くステップが欠かせないわけですが、自分のまわりにターゲットに該当するような方が見当たらない場合は、ビザスクliteで最適な対象の方を探してヒアリングをするという使い方をしています。
ビザスクであれば、大抵のヒアリング対象にたどり着けますし、募集期間が短くても対応いただけるケースもあって重宝しています。登録されている方も前向きで協力的な方が多い印象です。
03. Googleアラート
3つ目は、Googleアラートです。たとえば、そもそもで自社サービスのジャンル自体が社会に認知がないのか、ジャンルの認知はあるけれども自社サービスが知られていないのか、では広報としてのアプローチは異なってきます。
そうした社会のトレンドを肌感覚で把握する上で、Googleアラートを活用しています。
また、自社の業界についてだけでなく、競合のサービス名や競合企業の代表の名前などもGoogleアラートに設定し、類似プレイヤーがどういった取り上げられ方をしているのかを見ることにも活用しています。
編集後記:広報はバックオフィスではない。企業活動を推進する上で非常に重要なポジションである
「広報」はバックオフィス系の職種であるという認識を持っている方は多いだろう。筆者自身も日比谷氏のお話を伺うまではそう思っていたため、今回お話を伺い、広報に対する認識が180度変わった。
広報はバックオフィスではなく、戦略的な広報活動によって売上にも直結してくる、フロントオフィスのポジションであるのだと感じさせられた。
最後に日比谷氏はこう語る。
「広報=情報発信といった認識が広まっているため、広報の本質的な役割がまだ広くは知られていないなと感じています。
しかし、広報の本質的な役割を理解すると、広報の仕事というのが企業経営において非常に重要な役割であることがわかると思います。そして組織内で広報の理解が深まり、戦略的に広報活動が展開されていくことで、会社の成長に繋がっていくでしょうし、広報担当者はよりやりがいを感じることができると思っています」
「人と情報をつなぎ、社会を変える主役を増やす」をテーマに、セクターを横断するコネクタとして活動。 広報、マーケティング、新規事業、コミュニティ、官民連携関連を中心に活動。 一般社団法人at Will Work理事、一般社団法人Public Meets Innovation理事、Project30(渋谷をつなげる30人)エバンジェリスト、公益社団法人 日本パブリックリレーションズ協会 広報副委員長、ロックバー主催、他。