才流が実践する「残業なし週4.5日勤務」でも事業成長させる組織のつくり方

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「1日8時間、5日連続の勤務は働きすぎである」

そう語るのは、BtoB事業に特化したマーケティングコンサルティングを行う株式会社才流(サイル) 代表取締役社長の栗原康太氏だ。

才流では生産性を高め、働きやすい環境を生み出すために「残業なし」「水曜日の14時以降は全員休み」といったユニークな制度がある。また、その働き方を実現するために「オーダーメイドの仕事は受けない」「コンサルタントひとりにつき、担当クライアントは3社まで」といったルールを設けている。

ホワイトな働き方を続けながら、事業が成長できる背景には、生産性向上のための仕組み化があるという。そこで今回、才流がどのように仕組み化に取り組んでいるのか、仕組み化のためにどういったツールを活用しているのかについて、栗原氏に語っていただいた。

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どれだけ努力しても間違った方法であれば結果は出ない。正しい方法で努力することが大切

私が生産性の高い働き方に取り組んでいる理由は、「せっかく起業したならば、意味のあることをやりたい」という想いが根本にあるからです。意味のあることとは社会にとって価値があり、ユニークなこと。それはすなわち、才流だからこそ出せる価値を顧客に提供することだと思っています。

顧客に最大限の価値を提供するためには、我々サービス提供側の生産性が高いことが重要です。たとえば寝不足だったり、疲れていたり、組織に大きな不満が溜まっている状態だと、100%の力を発揮できず、最大限の価値提供はできないわけです。

また、生産性が高い組織であることはお客様のためだけでなく、我々自身が長く続けていくためにも重要です。疲弊してしまうような環境ではメンバーは辞めていってしまうし、経営する私も嫌になってしまう。サブスクリプション型のビジネスであれば解約率が高い状態は良くないのと同じように、会社組織も、離職率が高い状態は良くないと思っています。

だからこそ、組織としての生産性を高めることに取り組んできたわけですが、生産性を高めていくためには、成果が出る正しい方法を仕組みに落とし込むことが大切です。

本人がどれだけ努力をしても、間違った方法で努力をしていたら結果が出ない。これは私自身の経験から学んだことです。学生時代にテニスをしていて、関東大会を目指してがんばっていたものの、結局出場は叶いませんでした。

一方で、あるとき同じ地区から関東大会に出場していた他校の選手と話をしたときに、彼らは頻繁に練習をサボっていたという話を聞いたんです。

私は一度も練習をサボったことがなかったのに、練習をサボっていた彼らのほうが強く、関東大会に出場できた。なぜだろうと考えたときに、彼らにはしっかりとした顧問やコーチが付いていたのに対し、私たちの部活の顧問はテニスは未経験でコーチも不在。練習メニューは部長だった私が他校の練習を調べながら、見様見真似でつくったものだったんです。

どんなに規律性を高くし、練習を頑張ったところで、正しいやり方や方法を知らなければ結果に結びつかないと実感しました。そして日々働いていると、本人のやる気や才能だけでなく、方法論に左右されてしまうようなことって結構あると思ったんですよね。

しかし、会社組織では成果を出せないときに、本人の努力不足や能力不足を原因として捉えがちです。成果を出すための方法論や仕組みを会社が用意できているかを問うことはあまりありません。

成果が出なかったときに個人に対して「ああしろ、こうしろ」と指示をしたり、さらなる努力を促すことで問題を解決しようとしてもきりがないですし、問題解決のアプローチとして美しくない。それよりも、仕組みや構造を整えることで課題を解決できれば、マネジメントする側もされる側も疲弊せずに済みます。

たとえば週の後半になると従業員の集中力が落ちてしまうようであれば、「頑張れ」と鼓舞するのではなく、中日の水曜日を休みにしてしまえばいいわけです。実際に才流では水曜日の14時以降を休みにしていますが、みなメリハリをもって働けています。

このように、最大の成果を出すための正しい方法を仕組みに落とし込むことが、一人ひとりの能力を発揮させるうえで重要なことだと考えています。

生産性を高めるためには、自社のビジネスモデルや提供するサービスの見直しから行う必要がある

いまは働き方改革などの動きもあり、生産性の高い組織をどう実現するかに悩まれている企業も多いと思います。しかし、生産性向上は「働き方」だけを見ていては実現できません

生産性向上のために重要な要素は複数ありますが、その1つがビジネスモデルです。どれだけ生産性を高めようとしても、そもそものビジネスモデル自体を変えなければ大きな生産性向上を見込めないケースは多々あります。

たとえばM&A仲介ビジネスは、いま市場が大きく成長している領域で、ビジネスモデルとしても利益を出しやすいです。一方で少額の広告運用を代行するようなビジネスは、M&A仲介ビジネスのような財務パフォーマンスを出すことは難しいでしょう。

実際に才流でも、過去にBtoBマーケティング領域のBPO事業を展開したことがありました。現在のコンサルティング事業よりも利益率は低く、さらに突発的な顧客対応が発生してしまうこともあり、そのビジネスモデルでは自分たちが理想とする働き方の実現ができませんでした。

ビジネスモデル以外では、提供する製品・サービスがPMFしているかどうかも生産性向上のための重要な要素です。PMF(プロダクト・マーケット・フィット)、すなわち十分な市場規模があり、顧客が欲しいと思う製品・サービスを提供できていなければ、どんなに努力しても売れないわけです。

当たり前のように聞こえるかもしれませんが、企業が提供する製品・サービスにはPMFをしていない、またはPMFが弱いものが多く存在します。

そして顧客ニーズがない製品・サービスであるにもかかわらず、LPをリニューアルしたり、広告運用をチューニングしたり、はたまた営業研修を受けたり。いろいろな施策を打つわけですが、PMFをしていないがゆえに顧客は増えず、結果的に組織が疲弊してしまうことは往々にしてあります。

個々人の努力だけに依存しない、才流が実践する生産性向上のための仕組みや制度とは

ビジネスモデルや提供する製品・サービスのPMFをふまえたうえで、具体的に才流が取り組んでいる生産性向上のための取り組みをいくつかご紹介します。

まず1つが、業務プロセスを型化することです。具体的には案件のタイプ別に、受注から納品までのワークフローをすべて決めており、そのワークフローから漏れてしまう案件は受注しません。そもそもイレギュラーな事態が発生しないようになっています。

また案件だけでなく、採用プロセスや入社後のオンボーディングプロセス、契約や請求などのバックオフィス業務もすべて型化し、誰がやっても再現性高く成果が出る仕組みをつくっています。

なお業務プロセスの「型」は、様々なドキュメントに落とし込まれています。例えば、プロジェクトのキックオフMTGの資料はもちろん、キックオフMTGを打診するメール文のテンプレートも用意しています。コンサルティング時に納品する資料も数百ページにおよぶベースがあり、それを各コンサルタントがカスタマイズしていきます。資料のフォントをどうするか、アイコンをどうするか、図の配置はどうするかといった資料の内容やストーリー以外の部分に頭を使わず、考えるべきことに頭を使えるような進め方を大切にしています

そして2つめが、「思考のダダ漏れ」を実現する仕組みづくりです。才流ではSlackで各メンバーが自身のチャンネルを持っており、思ったことをなんでも書くようにしています。これには2つの意図があり、1つは雑談のキッカケづくり、もう1つは業務上の悩み解決に活用することです。

従業員間の人間関係が希薄で、「相談しづらいから悩みを抱えたままでいる」という状態は、当然ながら生産性が高いとは言えません。しかしリモートワーク下で、オフィスで働いているときのような雑談はなかなか生まれにくく、悩みがあっても相談しづらい状況が起きてしまいがちです。

また相談する行為自体、相談事項を適切にまとめたり、相談相手の都合の良い時間を見きわめたり、あまり関わりがない人には聞きづらかったり。実はハードルが高い行為でもありますよね。そこでリモートワーク下でも雑談が生まれ、かつ抱えている悩みが解決される仕組みとして考えたのが「思考のダダ漏れ」です。

思っていること、悩んでいることをとりあえず自身のSlackチャンネルで発信しておけば、誰かが反応してくれたり、手を差し伸べてくれる。個々人のコミュニケーション能力に大きく依存せずに、業務上の課題解決ができる仕組みとして有効だと感じています。

そして3つめが、先程も申し上げた水曜日の14時以降を休みにするということです。中休みを設けて週の後半にメリハリを持って働けますし、水曜日という平日だからこそ、土日だとできないこともできます。行政窓口での手続きや、ジムや病院など自身のメンテナンス、あるいは副業の時間に充てるなど、それぞれ充実した時間を過ごしてるようです。

副業を制限していないのも、同じことだけをやっていると息が詰まる人もいると思うからです。「副業NG」が離職の理由という話もよく聞きますし、なるべく離職のキッカケになるものはなくしておきたいと思っています。

他にも毎週勉強会を開催して各案件の改善アイデアを全員で出し合ったり、各案件をコンサルタント2名体制で担当し、相互フィードバックができるようにしたり。細かな工夫を行っています。その結果として、個々人の「生産性高く働こう」という意識が高まっていると感じています。

生産性向上のために才流が活用する3つのツール

実はそこまでユニークなツールを使っているわけではないのですが、生産性向上という観点から使い続けているツールが以下の3つです。

01. Notion

最近は情報共有としてNotionを活用されている企業も多いでしょう。才流では、ノウハウの言語化およびプロジェクトのTODO管理のためにNotionを活用しています。

さまざまな事項をドキュメントに落とし込み、ノウハウを言語化する文化があるため、メンバー発信で「Notionに書いておきます」「Notion化お願いします」といった会話が日々生まれています。

もちろん、Notionを導入するだけではそうした文化は生まれませんから、Notionを導入すると決めた意思決定者がいかにコミットするかも重要です。言い出しっぺがやらなければ、みんなやりませんからね。私自身、いまでもNotionに大量にドキュメントを書いています。

02. Zoom

こちらも昨今は多くの企業が利用しているでしょう。才流では水曜日の午前中は「もくもく会」と称し、全メンバーをZoomで繋いで黙々とコンテンツを書くという使い方をしています。

Zoomが生産性向上という観点で良いのは、録画データを使って新しいメンバーが効率よくキャッチアップできる点にもあります。

たとえばクライアントとのプロジェクトのキックオフMTGをZoomで行い、その録画データを見ることでキックオフMTGの進め方を理解できる。ユーザーインタビューの録画データからインタビューの進め方を理解できる。はじめてのことだと「具体的にどうやるのか」イメージがわかないこともありますよね。Zoomの録画データを活用すると、効果的に学べると感じています。

03. TimeRex

メールなどでの日程調整のやり取りは非効率だと感じており、日程調整ツールをいろいろ試してきました。その中でもUXが良く、一番使いやすいのがTimeRexでした。

まずGoogleカレンダーなどと同期しているため、参加者は日程を選択するだけで日程調整・登録が完了します。さらにいいのは、予定が確定したらZoomのURLも自動で発行されるんです。ZoomのURLを発行して送付して……という一連の手間がかからないのは非常に良いですね。

編集後記:生産性が高いことが正義とは限らない。自社に合った働き方を模索することが大切

「生産性を高めること=働き方の改善」と捉えている企業が多いように思うが、今回栗原氏のお話を伺い、そもそものビジネスモデルや提供する製品・サービスが従業員の働き方に大きく影響するというのは、多くの企業で忘れてはいけない視点であると感じさせられた。

もちろん、企業によってビジネスモデルは異なり、大切にする企業文化も違うであろう。そのため、才流のような働き方がマッチしない企業もある。

そこで栗原氏は最後にこう語る。

働き方のあり方は、その企業の価値観次第だと思っています。私は週5日、9時-5時で働くことすら長く感じますし、何度も同じことをやるのが嫌いな性格だからこそ、いまのような組織にしています。でもこの価値観が全員に合うとは限りません。

当社のように短時間に集中して働くやり方ではなく、プロフェッショナルが集まってハードワークをし、とても高い成果を出しにいくという価値観の企業もあるでしょう。業務を型化せずに、毎回ゼロベースでやり方を考えることに価値があると考える会社もあるわけです。

他社の事例を参考にしつつも、自分たちの会社に合わせた働き方、組織文化を模索していくことが生産性向上の近道でしょう」

栗原 康太
株式会社才流

東京大学卒業。2011年にIT系上場企業に入社し、BtoBマーケティング支援事業を立ち上げ。事業部長、経営会議メンバーを歴任。2016年に「才能を流通させる」をミッションに掲げる株式会社才流を設立し、代表取締役に就任。著書に『事例で学ぶ BtoBマーケティングの戦略と実践』(すばる舎)など。カンファレンスでの登壇、主要業界紙での執筆、取材実績多数。

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