「価値と組織を定量的に把握する」HRが重要ポジションな企業の責任者は何を考えていたのか
「HRは経営や事業のパートナー。いわゆる “人事っぽい仕事” は求められていない」
そう語ったのは、オイシックス・ラ・大地株式会社の人材企画室 責任者として採用全般や制度企画を担当、そして2021年4月より経営企画本部 経営企画部の部長に就任した三浦孝文 氏。
人材企画室の責任者としては、採用活動の見える化を行い、データをもとに事業サイドや経営サイドとコミュニケーションをとりながら採用活動を推進。その結果、成果に結びつく採用活動が評価され、株式会社ビズリーチ主催の『HR SUCCESS SUMMIT2019』ではアワードを受賞。
さらに、求職者に向けた情報発信を積極的に行うなど、経営陣や社員を巻き込んだ採用広報を展開。その活動が評価され、Indeed Japan株式会社主催の『オウンドメディアリクルーティング アワード2019』での入賞に寄与するなど、オイシックス・ラ・大地の人材企画室 責任者として、三浦氏はHR領域での挑戦をおこなっていた。
そこで今回、三浦氏にどういったマインドを大切にしてHR領域を推進してきたのか、また成果を生み出すHRを実現するために日々活用していたというツールについて、語っていただいた。
HRの役割は組織が掲げるビジョン、ミッションを実現すること。採用や研修といった手段の実行自体に意味はない
わたし自身、HRとしては成功体験よりも多くの失敗体験を経たからこそ、話せることではありますが、そもそもHRの役割とは何かと考えると、採用、育成、異動といった組織の人材フローを通じて、組織が掲げるビジョンやミッションを実現することだと考えています。
会社組織というのを分解すると、まず会社として掲げるミッション、ビジョンなどがあり、それらを具体にした事業戦略や事業というものが存在し、その事業を実現するために組織があって、その組織に必要なのが人材です。
つまりHRとして追うべきことは、その組織に必要な人材を採用して育成し、その結果、いかに組織が掲げるビジョンやミッションの実現へと近づけていくかであると考えます。そうしたときにわたし自身、大切にしていたのが「人事は機能であり、部門ではない」という考え方です。
部門として捉えてしまうと、「採用しました」「研修しました」「評価制度を定めました」といった手段を実行することに意味を持ってしまいがちです。しかし、そうした手段をただ実行するということ自体は、ビジョン、ミッションの実現、事業の成功という観点が抜けていれば、何も意味を持ちません。
重要なのは、ビジョン、ミッションを実現するための “機能” として、経営、事業、社員と連携し、社内外のヒトに働きかけていくことであり、そうした活動によって組織にどういった価値を生み出せたかが求められるのです。
たとえば採用で言えば、そのヒトを採用することで、受け入れ部門にどういった効果があるのかを示すことがHRの役目だと考えています。そのためにも、採用候補者の期待値を明確にすることが大切で、期待値が明確であるからこそ、こうした職務を与えようといった判断が可能になり、入社後も期待値に対してどうだったかをレビューし、PDCAを回していくことが可能になります。
そして期待値を明確にする際に、可能な限り数値に落とし込むことも重要です。数値で語ることによって、ファクト(事実)として捉えることができるため、ステークホルダーとの認識合わせが可能となり、評価基準として振り返ることができます。
もし感覚的な期待値しかなければ、達成度合いが曖昧となり、採用によってどれだけの価値を組織に生み出したのかが不明瞭になってしまうでしょう。
弊社の場合は、ときに「このヒトを採用することで、売上はこれくらいになる」といったことまで求められますが、HRは組織が掲げるビジョン、ミッションを実現するための機能であると考えれば、しごく当然のことだと考えています。
“人事っぽい仕事” は求められていない。経営や事業のパートナーとして、何ができるかを考えることが大切
採用や育成といったことは、組織がビジョン、ミッションを実現するための手段でしかありません。しかし、HRを離れた今でも様々な企業の人事の方々のお話を伺う中で感じるのは、HRとして「何をやるか」「どうやるか」にフォーカスしてしまい、手段が目的化しているケースが多いということです。
たとえば、何か社内研修を実施するというときに、会社としてどういった目的で社内研修を行うのかということを軽視し、ただ社内研修を実行することが目的となっているHR担当者は少なくないでしょう。
わたし自身も手段が目的化してしまい、組織全体の状況を鑑みた行動ができなかったこともあります。実際にコロナ禍で、多くの企業ではオンラインでの新入社員研修をどうするかと議論になっていた中、わたしも「どうやってオンラインで新入社員研修を行うか」とばかり考えてしまっていました。
しかし、コロナ禍でそもそも会社の事業すらどうなるかわからない中、事業サイドとしてもいかに変化に対応するか、いかにお客様へ価値を提供するかを模索している状況。
そのため、当時のわたしが考えるべきは、どうオンラインで新入社員研修を行うかではなく、入社のタイミングを調整したり、HRチームで受け入れ研修を行うなど、事業サイドに負荷をかけない方法でした。
当然ながら、担当者は「人事だからこそ、採用しないといけない、新入社員研修をしないといけない」といった考えになってしまいがちですが、上述の通り人事は機能であって部門ではないからこそ、経営や事業サイドのパートナーとして、何ができるかを考えることが求められます。逆に言えば、いわゆる “人事っぽい仕事” というのは求められていないのです。
また、採用や研修を実行すること自体がゴールとなってしまうと、施策がやりっぱなし状態になり、どういった成果があったのかをレビューしないままというケースも多くあるでしょう。レビューがなければ、その採用に価値があったのかどうかがわからず、どう改善すべきかも判断できません。
特に採用活動においては、採用人数といった点だけを見がちですが、入社したヒトがどう活躍しているのか、どう事業部に貢献しているのかといった面で見ることが重要です。そのためにも、HRは採用から成長支援までを一気通貫で行い、その採用にどういった価値があったのかをレビューすることが求められます。
わたし自身もHRの頃は、立てた計画に対するレビューやそこから意味合いを抽出し、打ち手に落とす視点が足りていないことに対する指摘を経営陣から日々もらっては、改善する、目線を上げなおす、また挑戦するを繰り返していました。
HR領域でPDCAを回すために重要なのは、価値を定量化し、組織を定量的に把握することである
レビューの重要性をお伝えしましたが、HR領域においてレビューからPDCAを回していくためには、HRが組織に対してどういった価値を生み出したのかを定量化することも大切です。
価値を定量化するということは、その施策のゴールに対してのKPIを設定することです。たとえば「採用広報をやります」というときに、その組織にとっての採用広報の成功やゴールとは何かをまず定めること。
例えば「直接応募からの採用数を増やす」といったゴールに対して、直接応募数や書類選考通過率といったKPIを設定し、実際の数値を計測することで、ようやくその採用広報の結果がどうであったかを振り返ることができます。
また、採用コストがいくらかかり、実際に何名が入社したかをファクトとして捉えることで、昨対比で採用チャネルや施策ごとの効果がどうであったかを見える化することができ、それを踏まえて次はどうするかといったことが判断できるようになります。
さらに、そうした定量データにどういった意味合いがあるのか含めて経営陣にレビューをすることで、経営判断が行いやすくなり、HRにとっては経営陣のアクションを取り付けることができるのです。
特にHR領域は、担当者やHR組織だけで解決できないことも多々あるでしょう。そのため、経営や事業サイドにアクションしてもらうためには、定量データをもとに関係者を説得し、巻き込んでいくという動きは必要不可欠です。
なお、採用などの効果を定量化するだけでなく、社員の状態を定量的に把握することもHRの役目です。たとえば、社員のエンゲージメントアンケートを行う企業は多くありますが、エンゲージメントアンケートだけでは正しく社員の状態を把握することはできません。
勤怠の乱れがないかを把握したり、売上目標の達成状況はどうか、休職者や退職者数が増えていないかどうかを部門別や年代別、職種別に把握するなど、複数の指標を掛けわせることが重要です。
そうすることで、エンゲージメントの数値は安定しているのに、退職者が増えている部署があった場合は、何かしらの問題が発生している可能性が高いから対処すべきだといった判断が可能になるのです。
そして、経営と現場の両軸で組織を見るHRだからこそ、経営と現場の見ている景色、方向性をいかに合わせていくかを考えなければなりません。経営メッセージを全社員に伝えても、社員によって解釈は異なってきます。
そこで適切な言語に変換したり、数字で示したり、ビジュアライズして説明するなど、認識合わせのためのコミュニケーションを積極的に行うようHRは意識すべきでしょう。
HR領域で活用している3つのツール
日々様々なツールを活用していますが、ツール導入で大切なのは、「WHY」(なぜ)から考えることだと思っています。昨今は非常に多くのツールが存在していますが、ツールができることに合わせて日々の業務を進めてしまうと、目的に対する手段としてツールがあるはずなのに、ツールを使って業務すること、ツールに何か記入するといったことが目的となってしまいかねません。
そこで、まずはやりたいことを明確にし、そのためにこういったことを解決したいから、このツールを使おうという発想が大事であると考えています。その上で、わたしが日々HR領域でPDCAを回す際に活用していたツールが、下記の3つです。
01.HRMOS(ハーモス)採用
社員の状態を定量的に見ることもHRの役目だとお伝えしましたが、HRMOSは採用プロセスを可視化することができ、HRでも重要な採用領域でのPDCAを回すためには欠かせないツールです。可視化したデータは、そのまま経営層や現場とのコミュニケーションで活用できるため、ファクトベースでの議論にも役立っています。
また、職種ごとやチャネルごとの応募件数や選考の通過率などのデータが可視化できるため、求人コンテンツのタイトルや写真を差し替えるなど、採用活動におけるクリエイティブ改善に必要なPDCAを回す上でも重宝しています。
そして採用プロセスの進捗管理や候補者への連絡管理ができるため、採用業務の効率化にも繋がっています。
02.アッテル
採用担当者は、しばしば実際に求職者と面接で話してみた “感覚” から、「この人は自社に合っているだろう」といった判断をしがちです。もちろん、そうした感覚も重要ではありますが、マッチング精度を高めるためには属人的な経験や感覚だけでなく、定量的な判断も重要です。
アッテルはAIを活用したピープルアナリティクスサービスで、人材の素養を定量化し、自社の活躍人材の傾向と比較検討するなど、定量的な採用を可能にするツールです。その結果で合否を判断するわけではありませんが、参考指標として見ることで、事業に貢献する活躍人材の創出をより精度高く、意図的に行えるようになります。
そして採用者の期待値を定量化しているからこそ、入社後の活躍を定量的にレビューすることができ、また社内の事業部メンバーもアッテルでの診断を受けているため、社内異動の際に上司やチームとの相性度合いはどうか、といったことを定量的に見るような活用も可能です。弊社でも導入を行なったばかりですが、今後その精度を高めていきたいと思っています。
03.Googleフォーム
社員の業務における充実度や現在の状態を把握するために、月1での社内アンケートを実施しており、その際に活用しているのがGoogleフォームです。世の中には様々な従業員サーベイツールがあり、実際に弊社も過去に別ツールを使っていたこともありますが、結局はGoogleフォームがいいなと思い、活用し続けています。
Googleフォームの最大の利点は、汎用性の高いツールであるということ。自由にフォーム作成ができることはもちろん、回答データがGoogleスプレッドシートに格納されるため、わざわざ回答データをCSVでダウンロードするといったことをせず、すぐにまとめたい形にデータを可変することが可能です。
そして一覧化された回答データから、一定の数値を超えたり下回ったりしているものに対して、すぐにどうすべきかを施策を考え実行するようにしているため、社員の抱える悩みや課題解決にタイムリーに対処することが十分に可能です。
またサーベイツールでは、経営陣にサーベイ結果を見せようと思ったときに、わざわざツールのID・パスを共有し、該当画面へ遷移して見てもらうといったことが必要なものもあるでしょう。一方でGoogleフォームであれば、経営陣に結果だけをリアルタイムに報告したい場合でも、回答データが集約されているGoogleスプレッドシートの共有URLを送るだけで済むなど、共有しやすいツールであるというのも利点だと感じています。
Googleフォームに限らず、ドキュメントやスプレッドシート、スライドなどの活用度も高いのですが、全社にまたがる部門にいるHRでは汎用性が高いツールを活用することも重要と思っています。
編集後記:変数の多い領域だからこそ、自分たちなりの指標を持ってPDCAを回すことが大切
今回、三浦氏のお話を伺い、特に印象的だったのが、「HR、人事は機能であり、部門ではない」ということだ。三浦氏の言う通り、採用や研修自体がゴールとなり、組織のビジョン、ミッションを達成するための機能となっていないHR部門は珍しくはない。
しかし、変化が激しく、働き方も多様化する現代においては、ただ人材リソースが増えれば事業が成長するというモデルは崩壊し、自社に合わせたHR戦略が重要で、HR担当者は組織における機能として、常にPDCAを回し続けることが重要だろう。
最後に三浦氏はこう語る。
「HR領域は、わからないことが多く、変数も多い。そもそもで自分のことすら理解できていないのに、他人のことなんてもっと理解しづらいわけです。しかし、わからない前提で、どうすれば良いんだろうと考えて行動することがHRにとっては重要。
特にヒトの気持ちという定性的なものをケアしなければならないからこそ、データやファクトを見ながら、進めていくことが非常に大切であると考えています。
そして、HR担当者は失敗しちゃいけないと思いがちだなと感じていて。たとえば社内制度ひとつとっても、一度つくったら変えてはいけないと思ってしまっているケースも珍しくありません。
しかし、HRであってもブラッシュアップして進めていくという考え方があっていいわけで、むしろ不確かなものを対象としているからこそ、どんどんブラッシュアップしていくべき領域です。
組織というものは生き物で、天気やプライベートの出来事含め、様々なことから影響を受けているヒトの集合体が組織。そうした組織に対して、わからないなりにも自分たちなりのKPI、指標を持ってPDCAを回していくことが大切だなと、HRを離れた今でも痛感しています。
個人としてはたくさん打席にたち、1年後の自分がみたら1年前の自分は恥ずかしいなと思えるくらいに、挑戦することを忘れずにいたいと思います」
オイシックス・ラ・大地(株)経営企画本部 経営企画部 部長/人事ごった煮会 発起人/さとなおラボ7期/adtechtokyo2020公式スピーカー/日経COMEMO KOL 等