7年以上バズり続けるBooks&Apps編集長が語った「SEOを捨てる理由」
「SEOもGoogleからの被リンクのひとつでしかない」
そう語るのは、ビジネスパーソン向けのメディア『Books&Apps』を運営し、企業のコンテンツマーケティングの支援も行う株式会社ティネクト代表の安達裕哉氏だ。
公開される記事はどれも1万PV近くあり、多く読まれる記事では1記事で30万PVのアクセスを集めるなど、いわゆる “バズ記事” を多く生み出すBooks&Apps。そうしたバズ記事を生み出すために、安達氏は人と違う視点・気づきをもたらさない記事に価値はないという考えのもと、そもそもで「この記事は何が新しいのか」という視点を大切にしているという。
そこで今回は、安達氏がコンテンツを企画する際に具体的に大切にしているポイント、またコンテンツマーケティングを進めていく上で活用しているツールについて、安達氏に語っていただいた。
新しいネットワークに接続できることにバズの価値、そしてインターネットの面白さがある
まず、私が定義するバズとは、自身の持つ1次ネットワーク(友だち・フォロワー・既存客)と2次ネットワーク(1次ネットワークのまわりにいる人たち)の外にいる、3次ネットワークの人たちまでコンテンツが届く状態のことを指しています。
そして、 “バズる” というのはあくまでも結果であって、バズを目的にコンテンツを制作してはいません。というのも、バズのために煽ったりタイトルで釣ったりといった手法を取るメディアもありますが、そうしたバズ記事には必ずしも良い記事とは言えないものも多くあると思うからです。
では本当に読まれる記事、価値ある記事とは何かと考えたときに、他と違う視点で書かれているかどうか、そして「この記事の何が新しいのか」という問いに答えられる記事であることが重要で、そうした記事でなければ読者は「おもしろいよ」と他者に広めてくれないでしょう。
もちろん、記事に何かしらの新しさがあったとしても、バズるかどうかはわかりませんが、少なくとも、人と違う視点・気づきをもたらさない記事には価値がないと私は考えています。
では、他と違う視点で書くためにはどうすべきかというと、いまある情報をただまとめるのではなく、しっかり取材をしたり自ら検証してみたりすることが大切です。調べ物としてただ読まれるだけの記事では当然ながらバズは生まれません。
アカデミックの世界では、インパクトファクター(論文の引用回数)という指標で論文の重要度がランク付けされますが、同じようにWeb上のコンテンツであれば被リンクの数がインパクトファクターとして、良い記事かどうかの判断基準になります。
Web上でバズるというのは、いわばSNSなどで被リンクされて紹介されていく状態ですから、被リンクされるような新たな気づきのある、知恵となる記事をつくるべきなのです。
バズを狙わずとも、SEOで検索上位表示されれば、多くの人に見てもらうことはできると考える方もいらっしゃるでしょう。もちろん目的によってSEOも重要ではありますが、Books&AppsではSEOを積極的に狙ってはおらず、実際にSEO流入も全体の2割程度しかありません。正直、SEOはどうでもいいくらいに思っています。
というのも、SEOというのも結局はGoogleからの被リンクでしかなく、被リンクされるような記事であれば結果的にSEOも強くなると考えているからです。
そして検索というのは、想起したキーワードでしか検索できないため、ある意味1次、2次ネットワークの情報にアクセスしているのに近い状態であると言えます。
しかし、バズというのは3次ネットワークにまで届くため、まったく考えてもいなかった、想起できていなかった情報を届けることができます。つまり、SEOでは接続することができなかった、新しいネットワークに接続できることにバズの価値があり、インターネットの面白さがあるのではないでしょうか。
3次ネットワークに接続できることで、予想外の反応が来るんですね。時には理解しがたい批判もありますが、やはりまったく別の価値観の人に届くと、運営側が想像していなかったようなコメントが来たりして、そうしたコメントが新たなアイデアの源泉にもなったりと、インターネットの面白さを実感しています。
自社のコンテンツが読まれない理由。それはコンテンツだけで集客も営業もしようとするから
昨今はオウンドメディアを運営したり、コンテンツマーケティングに取り組む企業も増えてきましたが、他社のメディア運営を見ていて残念だなと思うことがいくつかあります。
1つ目が、役に立つ記事をつくりがちということです。みなさん自身の行動を振り返ってみるとお分かりいただけるかと思うのですが、何かGoogleで検索して調べ物をした際に、たどり着いた先のサイト名を覚えていますか?
調べ物で役に立つ記事というのは、アクセスを集めることはできるかもしれませんが、普通はサイトを覚えてもらうことができません。広告収益を伸ばすのではなく、自社のファンをつくるためにオウンドメディアをやるのであれば、いかに覚えてもらうかということを考える必要があります。
つまり、役に立つ記事ではなく、記憶に残るような面白い記事をつくるべきであって、だからこそ「この記事は何が新しいのか」という質問に答えられる必要があると私は考えています。
そして面白い記事をつくれれば、まず自社の社員が自主的に読んでくれるでしょうし、彼ら彼女らが勝手に広めてくれるんですね。
逆に言えば自社の社員すら読まないコンテンツは誰も読みませんから、最初の読者は社員であるという考え方はとても大切だと思っています。
2つ目が、コンテンツだけでなんとかしようとしがちということです。普通に考えて、記事を読んでいきなり商品を買ったり、申し込みが発生するということは起こりづらいわけですが、自社の商材に関係ある記事ばかりつくるなど、コンテンツに集客と営業の両方の役割を持たせようとしているオウンドメディアは多く見受けられます。
しかし、コンテンツで営業をしてはいけません。コンテンツで営業もしようとしてしまうから、読まれない記事になってしまい、結果集客にも繋がらないという悪循環が生まれています。
集客と営業は別々に行うべきで、コンテンツは集客のためと考え、メディア内でセミナー告知やホワイトペーパーのDLなどメールアドレスを登録してもらえるようなCTAを設けて、継続的に情報収集してもらえるような状態をいかにつくるかなど、メディアに集まったユーザーに対してどう営業を行うかというのが次のステップです。
最後に3つ目が、ターゲットに直接アプローチをしようとしがちであるということです。そもそも「ターゲット」という言葉は、私はインターネット的ではないなと考えています。
ターゲットというのは広告的発想で、ターゲットに届かなければ、ターゲット以外のユーザーに届いてしまうと無駄になってしまうという特性があるのが広告ですが、インターネットは逆です。
インターネットは無料で情報発信ができ、広がれば広がるほどメリットを享受できるわけです。そして広がったユーザー群の中に自社のターゲットとなるユーザーも一定数含まれていて、そうしたユーザー群が様々な領域に分散している状態です。
つまり、ターゲットでない人を介してターゲットに届けることができるのがインターネットの特性であり、新たなユーザー群、すなわち新しいネットワークに接続できることにインターネットの価値があるわけです。
そのため、コンテンツマーケティングはターゲットに直接届けるのではなく、いかに新しいネットワークに接続するかを考えるべきで、先ほど述べたとおり、すぐにお客様にならないからこそ、集まったユーザーに対してどう営業するかを別で行うことが大切。
すぐにお客様になってくれるようなターゲットにアプローチしたいのであれば、広告施策をやるべきだなと思います。
バズを生み出し、新たなネットワークに接続するために意識している3つのポイント
では、私がバズによって新しいネットワークに接続するために、具体的に意識している3つのポイントがあります。まず1つ目は、メジャーなテーマと組み合わせるということです。
以前、暗号化したまま計算処理をする「秘密計算」という技術についての記事を書いたことがありますが、普通に「秘密計算」について書いても多くの人には読まれないだろうと。そこで考えたのが、小説家・村上春樹と掛け合わせて書くということでした。
というのも、もともと村上春樹の『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』という小説に「計算士」という職業が出てくるのを知っていたため、それらを掛け合わせれば「村上春樹についての記事なら読んでみようかな」と興味を持ってくれるだろうと思ったんですね。
実際に執筆した記事がこちらになります。
村上春樹の考案した架空の職業「計算士」と、現実の暗号技術に共通点があった件
こちらの記事はFacebookでも多くの人にシェアしてもらうことができ、ただ秘密計算について書くだけでは接続できなかったネットワークに接続できたと感じた記事でした。
このように、メジャーなテーマと組み合わせることで、接続できるネットワークは変わってきます。そして村上春樹の小説に計算士という職業が出てくるということを知らなければ書けなかった記事ですから、日頃からいろいろなことにアンテナを張るということも大切だと思っています。
2つ目のポイントが、自社のネットワークを形成することです。SEOを目的としてしまうと、Googleアルゴリズムのアップデートがどうとかと常にGoogleに翻弄されてしまいます。
しかし自社のコンテンツが好きでリピーターになってくれる方々がいれば、Google関係なく、直接訪問してくれるファン層、すなわち自社のネットワークを形成することができます。そして、そのファン層が記事をシェアしてくれるため、2次ネットワーク、3次ネットワークへと広がっていくことができるわけです。
そのため、新たなネットワークに接続していくためには、Googleに好かれるメディアを目指すよりも、ファンが広めてくれるメディアを目指すべきだと私は考えています。
最後に3つ目のポイントが、Webにない情報、Googleにない情報を出していくということです。被リンクされる記事というのは、何かしらの新たな気づきがある記事であるとお伝えしましたが、そのためにはとにかく調査をすることが大切です。
私自身、1テーマで10冊近く書籍を読んだり、必要であれば関連する映画を観たりもするのですが、とにかく調べるんですね。特に書籍にはまだまだWeb上にない情報も多いですから、私は国立国会図書館のサイトでよく検索して、どういった書籍にどういった情報があるのかと調べています。
そしてGoogleにない情報を出すためには、Googleの外から持ってくるべきで、書籍を読む以外にも取材を行ったりしますし、Books&Appsで自身の経験談をよく書くのですが、それもGoogleにない情報だからです。
そうして書かれた記事というのは、SEOを狙わずともSEOで上位表示されやすいですし、また仮にSEOを狙った記事の場合でも、「何が新しいのか」という考えから「いま」すでに検索されているキーワードではなく、半年から1年後に検索されるであろうキーワードを狙って執筆したりしています。
そのため、少し未来に読まれそうな記事を調べるために、自分たちでAIを使ったAIタイトルメーカーをつくり、そこから執筆テーマを決めていたりもします。
コンテンツマーケティングで活用する3つのツール
このように調査に多くの時間をかけるため、私はコンテンツマーケティングを進める上では効率化を非常に大切にしています。そこでコンテンツマーケティングを進める上で私が活用しているのが次の3つのツールです。
01. Googleドキュメント
コンテンツ制作において、ライター、編集者、またクライアントワークであればお客様と、1つのコンテンツでも多くの確認ステップが必要です。そして都度、修正が加わっていくとWordファイルなどではどれが最新版で、どれが旧版なのかといった管理が非常に非効率であるため、1つのURLで完結できるGoogleドキュメントを私は活用しています。
また、調べ物をまとめるのにもGoogleドキュメントを活用しており、リサーチした情報などはすべてGoogleドキュメントに貼り付けているのですが、それは検索できるからなんですね。検索すれば一発でほしいドキュメントにたどり着けるため、わざわざテーマ別にファイル分けする必要もないというのがGoogleドキュメントを活用する利点です。
02. Zoomミーティング
Web会議システムとして、私はZoomを使っています。効率化という点でいうと、私の場合は画面共有で議事録を表示しながら進めているんですね。
議事録では決めるべき項目の箇所を空白にしておき、その空白を埋め終わったときが会議の終わりとなるようにしていて、その場でコンセンサスを取りながら進めるということを意識しています。
そうすることで、「持ち帰って検討します」といったことがなくなりますし、その場でコンセンサスを取れているので、あらためて提案書などにまとめる必要もありません。コンテンツマーケティングであれば、会議が終わればコンテンツ企画がFIXするため、その後すぐに必要な調査に時間を当てることができるのです。
03. Toodledo
タスク管理ツールとして、私はToodledoというツールを使っています。昔から使っているからという理由もあるのですが、無料で使えてカスタマイズ性も高いという点でずっと愛用しているタスク管理ツールです。
私はタスクを覚えようとすると、そのタスクが気になって夜に眠れなくなるくらいなので、とにかくタスクはすべてToodledoに取り込み、頭の容量に余裕を持たせておくようにしています。
そしてToodledoに取り込むほうが手間がかかるような細かなタスクは、その場ですぐに対応して終わらせるんですね。そうすることで、タスクが気がかりになるという状態をなくし、自身のパフォーマンス最大化を図っています。
編集後記:メディアはエンタメ。役に立つものよりも、面白いものをつくろう
「いかにターゲットにコンテンツを届けるか」と考える際に、どうしても「いかにターゲットに “直接” コンテンツを届けるか」という発想で考えてしまうケースは珍しくはない。
しかし安達氏の言う通り、広告と違うからこそ、ターゲットではないユーザーに届くことは無駄ではなく、むしろそうしたユーザーを介してターゲットに届く可能性があるのがインターネットの面白さである。
そして「新しい3次ネットワークに接続できるのがインターネット」であるというお話はとても興味深く、コンテンツマーケティングを進めるにあたって、新たなネットワークとの接続をいかにつくるかの重要性を強く感じたお話であった。
最後に安達氏はこう語る。
「メディアというのは根本的にエンターテインメントですから、私がクライアントのコンテンツマーケティングを支援させていただく際には、面白いコンテンツをつくることを最初に考えましょうとよくお伝えしています。
役に立つコンテンツをつくるというのも悪いことではないのですが、役に立つものだけをつくっていても、情熱が湧いてこないんですよね。一方で、このコンテンツ面白いねと自社の社員やお客様などから言われると、やる気が出てくるじゃないですか。
すると、また面白いと言われるような記事をつくろうとなりますし、メディアも存続しやすい。Googleに翻弄されるのはやめて、面白いコンテンツをつくっていきましょう」
元Deloitteのコンサルタント|オウンドメディア支援のティネクト代表取締役|ビジネスメディアBooks&Apps設立|Twitter・noteではコンサルタント時代に得た仕事に役立つコンテンツ・メディア運営ノウハウを発信