「Twitter単体でデータ計測しても見えてこない」売上を上げるSNSマーケティングの考え方
「フォロワー数やエンゲージメントだけを見ていても意味がない」
そう語るのは、株式会社ホットリンクにて執行役員CMOを務めるいいたかゆうた氏だ。
いいたか氏は、広告代理店や制作会社、スタートアップを経て2014年に株式会社ベーシックに入社し、Webマーケティングメディア『ferret』創刊編集長、そして同社執行役員を務めた後、2019年にホットリンクへ入社。著書に『僕らはSNSでモノを買う』『アスリートのためのソーシャルメディア活用術』がある。
自社が担当した案件では数々の実績を残しており、お菓子メーカー・シャトレーゼの案件では2年でフォロワー36万人超え、UGC発生数は取り組み開始わずか1年で11倍達成を実現、また全国展開のうどん店・丸亀製麺の案件ではUGC活用で初速販売数1.9倍を達成、さらに自社のホットリンクに対しても入社後わずか半年でクチコミ数を4倍へと伸ばすなど、SNSマーケティングのプロフェッショナルである。
そこで今回はいいたか氏に、SNSマーケティングにおけるKPI設計の考え方や成果最大化のためのポイント、また日々SNSマーケティングの精度を高めるために活用しているツールについて語っていただいた。
部分最適では意味がない。複数の指標をかけ合わせ、いかにブランドに貢献したかを見るべきである
当然ではありますが、マーケティング施策というのは売上・利益最大化にいかに貢献したかが重要で、それはSNSマーケティングも同じです。しかし、フォロワーの質やクチコミの質というのは定量化しづらく、またユーザーはInstagramを見て、自身でいろいろ調べて、最終的にAmazonで購入するといったことが普通に起こりますから、施策によっていくら売上に貢献したかというのが測りづらいんですよね。
そのため、質ではなく量だけを見てしまうというのはよくある話で、実際に担当者ベースでは何かしらの指標を設けなければ施策がうまくいっているかどうかを上司に報告できませんから、定量データとしてわかりやすいフォロワー数やエンゲージメントの値を追いかけている企業も多くあるでしょう。
しかし、フォロワー数やエンゲージメントだけを見ていても、どれだけ売上に貢献したかどうかなんてわかりませんから、意味がありません。
そこで私が大切にしているのが、複数の指標をかけ合わせて見るということです。施策によって最終的な売上がどう変化したのか、売上の前月比などを見ることはもちろん、クチコミ数と指名検索数の増減をかけ合わえたり、POSデータとかけ合わせたりと、様々な指標との相関関係を見ることで、施策の良し悪しを定量的に判断するのです。
そうすると、たとえばクチコミ施策を行った3日後に売上の山が生まれているということがPOSデータからわかれば、週末に売上の山を持ってくるために、いかに平日中日にクチコミが集まるようにするかといった判断ができますし、施策の精度を高めていくためのPDCAを回していくことができるのです。
また、Twitterで商品を紹介して、ユーザーがそのままツイート内のリンクから購入するとは限らないため、Twitterの施策はどうだったか、Instagramの施策でどうだったかといった部分最適で進めていくのではなく、SNSマーケティング全体、もっというとデジタルマーケティング全体でブランドにどう影響したのかと点ではなく線で見て、全体最適を進めていくということも重要です。
しかし、様々な指標との相関関係を見て全体最適を進めるといったことをせずに、フォロワー数を増やしましょうといった部分最適の施策に走ってしまうがゆえに、フォロワーキャンペーンを実施しても、蓋を開けてみたらフォロワーは懸賞アカウントばかりで、良質なフォロワーが増えないといったことになってしまうのです。
「SNSマーケ=企業アカウントの運用」ではない。1:nの情報伝播の発想で考えると失敗する
他にも、様々な指標との相関関係を見ないがゆえに、部分最適での施策や手法ドリブンでSNSマーケティングを進めてしまうケースは多くあります。その1つが、自社のSNSアカウント運用が最も重要であるという勘違いです。
メディアではSNSマーケティングの成功事例として、自社アカウント運用の成功事例が多く取り上げられるため、SNSマーケティング=自社のSNSアカウント運用と捉えてしまいがちです。
そして、どういったアカウントにコメントを返すかなどの手法ばかりにフォーカスしてしまい、売上に繋がっているかわからないけど運用を続けているという企業は少なくありません。
しかし、基本的にSNSというのはユーザー同士の交流の場であり、その交流の場に企業が入っていくという構図なわけですから、どういった手法がいいかということではなく、SNSを利用するユーザー視点で考えるということが重要です。
そう考えたときに、ユーザーにとって嬉しい体験というのは、自分のツイートや投稿に反響があること。たとえばフォロワーが少なくても企業の公式アカウントにリツイートされたら嬉しいわけです。そして通知が鳴り止まないくらいバズったりすれば、それはユーザーにとっては最高な体験で、その後も継続的にそのブランドに関するツイートをしていくようになるでしょう。
また、企業アカウントだからこそクオリティの高い写真を投稿しなければいけない、という発想も注意が必要です。というのも、たとえば飲食店選びをするときに、芸能人がオススメしているお店よりも、身近なグルメ通の友人がオススメしているお店のほうが信憑性が高かったりしますよね。実際ある調査データでは、最も購買行動に影響があるのは「家族、友人、知人からの推薦」であるとも言われています。
そう考えると、SNSマーケティングも企業発信だけでなく、いかにUGC(一般ユーザーによってつくれられたコンテンツ)が生まれるようにするかということも考える必要があります。
たとえばWebサイトやパンフレットなどで使うような綺麗な写真を投稿する必要はなく、むしろ一般のユーザーが真似しやすいような写真を投稿すると、実際にユーザーはその写真を真似した投稿をしてくれたりするんですよ。そしてそのユーザー投稿を企業の公式アカウントがリツイートしたら、ユーザーは嬉しいですし、企業から頼まなくても投稿してくれるユーザーが増えていき、結果UGCが増えていくという流れが生まれていくわけです。
さらにあるあるの勘違いとしては、マスメディアと同様、SNSでの情報伝播が1対nの形であるという勘違いです。SNSというのは誰もが情報発信を行えるN対nの情報伝播の場です。そのため、ブランドメッセージ通りに情報は伝搬していきません。
しかし1:nの情報伝播の発想で考えてしまうため、企業アカウントのフォロワーをいかに増やすか、自社の投稿のクオリティをいかに上げるかといった発想になってしまい、狙える層が限られ、結果的に成果の出ないSNSマーケティング施策に無駄な予算を投下してしまっているという状態になってしまうのです。
SNSマーケティングの成果を最大化するために重要な3つのポイント
では、そうしたn:nの情報伝播の場であるSNSで、どのようにマーケティング成果を最大化すべきなのか、3つのポイントをご紹介します。
1つめが、クラスターの理解です。ホットリンクではソーセージブランドのジョンソンヴィル様のSNSマーケティングを支援させていただきましたが、ソーセージというのもバーベキューというシーンや、ビールのお供といったシーンがあり、それぞれの関心事によってクラスターが分かれます。
そこで企業アカウントからの発信も、クラスターごとのシーンを考えて訴求を変えていったことで、様々なUGCが発生していき、それに伴って様々なクラスターが形成されていきました。さらにはUGCからUGCが生まれる流れも発生。あるときは、あるユーザーが投稿したホットサンドメーカーでソーセージを調理するという動画を企業アカウントで引用ツイートしたところ、同じようにホットサンドメーカーでソーセージを焼く投稿が増えていったんですね。
このように、情報伝播がn:nのSNSでは、クラスターを理解した上でのアプローチをとることでUGCは増えていき、実際にジョンソンヴィル様のケースでは1年でUGC数は9倍へと成長していきました。
2つめに大切なのが、SNSでの購買プロセス「ULSSAS(ウルサス)」を理解した戦略設計です。ULSSASは下記の頭文字を取ったもので、良質なUGCを起点に、購買プロセスが勝手に回っていくというモデルです。
U:UGC(ユーザー投稿コンテンツ)
L:Like
S:Search1(SNS検索)
S:Search2(Google/Yahoo!検索)
A:Action(購買)
S:Spread(拡散)
参考:SNS時代のマーケティングフレームワーク、「ULSSAS(ウルサス)」とは | ホットリンク
これまでもUGCについてお伝えしてきましたが、なぜそこまでUGCが重要であるかというと、まさにSNS時代の購買プロセスがUGC起点であるからです。それを理解すれば、当然ながら自社アカウントのフォロワー数をいかに増やすかという発想ではなく、いかにユーザーのクチコミの質を上げるかといった施策を発想するようになるでしょうし、そもそもでUGCが生まれるために何をすべきかを考えることが重要であることがおわかりいただけるかと思います。
最後に3つめが、マーケティング部門だけで考えないということです。そもそも、商品が良くなければUGCは増えません。そして良い商品である前提で、すでに買ってくれているお客様が商品の写真をどうすれば投稿してくれるのかといったことを考えることが大切。
たとえば商品のパッケージデザインを変えたり、Instagramで映えるように16:9の比率の綺麗な紙を同梱して、商品と一緒に写真を思わず撮りたいと思ってもらえるようにしたりと、マーケティング部門だけでなく、商品企画部門を巻き込んで進めていくといった発想も重要なのです。
SNSマーケティングのプロが活用している3つのツール
このように、UGCを増やしていくためにはユーザー体験をいかに最大化するかといった考えが重要で、そのためにはユーザーがどういったことに興味があるのか、すでにどういったクチコミがされているのか、また今後どういった切り口にUGC数増加の兆しがあるのかを把握することが求められます。
そこで、実際に私がSNSマーケティングの施策精度を高めていくために活用するのが、次の3つのツールです。
01. BuzzSpreader powered by クチコミ@係長
自社サービスで恐縮ですが、口コミ@係長は、キーワードを入力するだけで簡単にSNS分析ができるソーシャルリスニングツールで、SNSマーケティングを考える上では欠かせません。様々なデータが直感的にわかるよう可視化されていて、実際にどういったクチコミがあるか、クチコミ数の推移、また関連ワードの調査などが可能です。
さらに、「ほしい」「買った」といった投稿内容を分析し、認知層、購入検討層、購入層といった投稿しているユーザーの購買プロセスがどういった割合であるかを確認することもできます。
そのため、そもそも認知層が少ないとわかれば、認知拡大の施策を考えることができますし、売上に対してそこまで購入層の投稿が増えないということであれば、すでに商品を買っている人たちが投稿したくなるようにするにはどうするか、といった発想で施策立案ができるようになります。
02. Googleトレンド
UGCを増やすためには、時流に乗るということも非常に重要です。そのため、いま社会ではどういったトレンドがあるのかということを知るために、Googleトレンドを毎日のように見ています。
そして「こういったことがいまトレンドありそう」といった兆しが見つかれば、口コミ@係長を使って実際にどういったツイートがあるのかを調査し、そこから実際の施策を立案していきます。トレンドに乗った施策というのは、ユーザーも投稿しやすい切り口になりますから、トレンドの兆しが見えたときにいち早く行動することが、成果最大化のために重要です。
03. Google Search Console(サーチコンソール)
3つめが、Google Search Console(サーチコンソール)です。単純にクチコミが生まれたことで指名検索が増えているかどうかと、相関関係から施策を振り返るためにも使いますし、あとはSNS施策の企画立案にも活用しています。
SNS担当者のあるあるの悩みとして「投稿する内容がない」という話は、本当によく聞きます。そこでサーチコンソールを使い、すでに自社のサイトに訪れている人がどういった検索クエリで訪問しているのかを見ることで、ユーザーが興味ある切り口での企画を立案するといったことができるのです。
編集後記:マーケティングに魔法の杖はない。いかにユーザー体験を最大化させるかを愚直に考えること
何をすればいいかわからず、とりあえず成功している事例を真似するというのは何事においてもあることだろう。SNSマーケティングも同じで、成功している事例をただ真似し、キャンペーンを開催してフォロワーを増やして、自社のブランドメッセージをいかに多くの人に届けるかという発想に陥っている企業が多いように見受けられる。
しかし、いいたか氏のお話を伺い印象的だったのは、どういったことがユーザー体験を最大化させるのかを考えることが重要であるということだ。当然ながらSNSの場にいるのは生身の人間であり、そのユーザーが喜ぶ体験を提供できなければ、クチコミは生まれない。そのためにも、ユーザーがどういったニーズを抱えているのかを理解し、ニーズに応えるために何をすべきかを考えることがあらためて大切であると感じた。
最後にいいたか氏はこう語る。
「世の中に出回っている情報に踊らされない、ということが重要。特にマーケティング領域は手法ばかりにフォーカスされて、本質を見落としていることが多いなと感じます。
しかし、マーケティングに魔法の杖はないんですよね。これをすればいい、といったことはないわけで、ちゃんとユーザーに向き合い、ユーザー体験を最大化させるためにはどうすべきかを愚直に考えていくことが大切だなと思います」
Hottolink CMO兼IS責任者兼 #ダークソーシャル倶楽部 Master/アドバイザー▶︎soar、Books&Apps、COUXUなど/自著は『僕らはSNSでモノを買う』(5刷)#ウルサス本