「営業と一緒になって顧客理解を進める」多くの企業がBtoBマーケティングに失敗してしまう理由

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「マーケティング活動によるリードが案件化しないのは、顧客理解ができていないから」

そう語るのは、2020年末まで株式会社ブイキューブにてマーケティング本部 責任者を務め、2021年より同社で新しく立ち上がったBtoBマーケティング総合支援事業『GAX』の責任者を務める佐藤岳(さとうがく)氏である。

佐藤氏は、“BtoBマーケティング” という概念がまだ浸透していなかった2000年からBtoBマーケティングに携わり、2013年には日経BP社による『ITpro Active Contetns Grand Prix 2013』大賞を受賞。

そして2015年11月にブイキューブに入社してからは、ゼロベースでマーケティング組織を立ち上げ、2020年には2016年比で新規受注数を9倍へと成長させてきた。

そうした経験をもとに、現在はGAX責任者として様々な企業のBtoBマーケティングの組織構築から戦略立案、またプロモーションの立案・実行やインサイドセールスまで幅広く支援している。

そこで今回、佐藤氏がBtoBマーケティングに取り組む上で大切にしている考えや具体的なアドバイス、そして実際に佐藤氏が日々活用しているツールについて語っていただいた。

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お客様は自ら購買プロセスを進んでいくからこそ、正しい顧客理解に基づくコミュニケーション設計が大切

まず、そもそもでなぜ企業はマーケティング活動を行うのでしょうか。企業活動の目的は利益を出すことです。利益を増やすためには売上を増やすか、コストを減らすか。そして売上を増やすためには受注件数を増やすか、販売単価を上げるか。

そうやって因数分解をしていったときに、商談件数を最大化するため、ニーズに即した情報提供や検討中のお客様にコンタクトをとるなど、見込み顧客を増やし、案件化率をあげることがマーケティング部門の役割であり、最終的に売上をあげることがマーケティングの目的です。

しかし、「BtoBマーケティング」とインターネット上で検索すると、コンテンツマーケティングやオフライン広告へどうやるかなど、手法の話題ばかりが先行しているように見受けられます。

そのため、売上をあげることがマーケティングの目的であるのに、実際に自社の製品やサービスを購入しようとしているお客様がどういった人なのかを理解せず、ただLPをつくったり、SEO施策をやったりと「なにをするか」という手法にばかりにフォーカスしてしまい、結果売上に繋がるマーケティング活動ができていないケースは珍しくありません。

そこで私がBtoBマーケティングにおいて大切にすべきだと考えているのは、「自社のお客様は誰なのか」という顧客理解です。顧客理解ができていなければ、適切な情報発信ができず、見込み顧客は一向に増えていかないでしょう。

実際に皆さんが何かよく考えて買い物をする際、購入を検討するキッカケが何かしらあり、そして自ら情報収集を行い、評価選定を行っているはずです。実はBtoBバイヤーも同じように、Web上で自ら調べて情報収集を行い、比較検討をしています。

Corporate Executive Board (CEB)による調査によると、BtoBバイヤーは営業パーソンにコンタクトする前に、課題の発生、解決策の探索、評価選定、といった購買プロセスの57%を完了していると述べられています。

つまり、適切な情報提供ができれば、お客様は勝手に購買プロセスを進んでいきます。だからこそ顧客理解のもと、お客様の課題に応えるコンテンツを発信すること、そして企業が伝えたいこととお客様が興味を持つことがマッチするように設計することが大切なのです。

こうしたお話をすると、顧客理解の重要性は言わずもがな理解しているといった反応をいただくことがありますが、「お客様はなぜ御社の製品・サービスを買うのですか?」と質問をすると、答えられないマーケティング担当者は多くいらっしゃいます。

またマーケティング部門が設定しているペルソナが、実際に営業部門がコミュニケーションを取っている実際のお客様像とまったく違うといったことも往々にしてあります。

そこでマーケティング担当者は、あらためてリアルなお客様を理解し、お客様となりうる人は日々どういったメディアで情報収集をしているのかといったことを知ること。そして、どういったタッチポイントでどうコミュニケーションをとるべきかを設計し、お客様が自ら学習を進めていける流れをつくることができれば、驚くほどスムーズに見込み顧客を獲得することができるでしょう。

リードが案件化しないのは顧客理解が不足しているから。結果、マーケティング部門への信頼感がなくなっていく

では、顧客理解が不足しているがゆえに起こりがちな課題をいくつかご紹介いたします。

まず多くの企業で起きがちなのが、マーケティング活動によるリードが案件化しないということです。顧客理解ができていなければ、当然ながらお客様がどういった課題を抱えているかということを正しく理解できず、ペルソナやカスタマージャーニーを設計したとしても、「ユーザーがカスタマージャーニー通りに進んでいかない」というのはよくある話で、カスタマージャーニーが机上の空論になってしまっているのです。

重要なのは、お客様の購買プロセスに応じたアクション、また次のフェーズに押し上げるための態度変容を起こすアクションを起こすこと。しかし、顧客理解がなければ、そうした態度変容が生まれる仕掛けをつくることは厳しいでしょう。

また、マーケティング活動によるリードが案件化しない結果、営業部門とマーケティング部門の対立というのも、よくある課題です。  “Ending the War Between Sales and Marketing” というハーバードビジネスレビューで論文が掲載されているくらい、営業部門とマーケティング部門は対立しがちであると言われています。

なぜそういった対立が生まれがちかというと、マーケティング部門からすれば「リードを送っているのに、営業側が対応しない」と思っているのに対し、営業側からすれば「マーケティング部門が送ってくるリードは役に立たない」と思っているのです。

さらに、企業によってはマーケティング部門が予算消化のために、 “とりあえず” 施策を打つということが常習化しているケースもあるでしょう。そして成果が出るまで時間がかかるといったことを言い訳に、施策の回数などをKPIとしてしまい、成果の有無問わず、マーケティング部門は「自分たちは仕事をしている」といった勘違いをしてしまうのです。

営業成果が自分たちの評価指標である営業部門からすれば、「マーケティング部門はなにも成果を出さずに給料をもらっている」と思ってしまうでしょうし、マーケティング部門への信頼感がなくなってしまい、終いには営業部門がウェビナーを開催するなど、自ら集客施策を行うといったことは往々にして起こりえます。

正しい顧客理解に基づき、BtoBマーケティングを成功させる3つのポイント

では、正しく顧客理解を行い、成果の出るマーケティング活動を行うための3つのポイントをご紹介します。1つめは、マーケティング部門と営業部門が一緒になってペルソナ・カスタマージャーニーをつくるということです。

先ほども触れましたが、マーケティング部門が設定したペルソナを営業部門に見せると、「こんなお客様、実際にはいない」というのはあるあるです。

そこで私がコンサルティングをさせていただく際は、営業部門とマーケティング部門が一緒になったワークショップを開催し、「お客様はなぜ自社の製品・サービスを買うのか」というお客様の購買プロセスの理解を深め、その上で営業部門と一緒にペルソナ・カスタマージャーニーをつくってきてもらうといったことを行います。

そうすることでお客様が抱えている課題感であったり、お客様が求めている情報に対して、どういった情報を提供すべきかといったことが整理できるようになり、マーケティング部門と営業部門が共通の認識を持てるようになります。

結果、営業部門も一緒になってペルソナ・カスタマージャーニーをつくっていますから、自分ごと化が進み、リードに対してどういったアクションが最適であるかをより理解した行動が生まれ、受注したときはマーケティング部門も営業部門と一緒になって達成感を感じることができるのです。

2つめのポイントが、適切なKPIを設定することです。マーケティングの目的は売上を増やすことですから、売上目標から逆算したロジックツリーの項目ごとにKPIを設定していくべきです。つまり、当然ながら施策数などをKPIにするのではなく、商談件数を増やすためにも来訪者数や見込み顧客の獲得率をKPIに設定することが求められます。

そしてBtoBバイヤーの購買プロセスを理解できていれば、BtoCバイヤーと違い、LPからすぐにコンバージョンするとは限らないということは十分理解できるでしょう。BtoBバイヤーは、上司に相談したり、社内稟議を通したりとコンバージョンに至るまでに検討期間が必ずあるからです。

そのため、LP等に対しての直接コンバージョンだけを計測するのではなく、一度LPを離れたものの、再度ブログコンテンツやサービスページに訪問してコンバージョンするといった間接コンバージョンも計測するべきです。

そうすることで、本当は間接コンバージョンが発生しているにも関わらず、「広告費をかけてLPに誘導しているのに成果が生まれていない」といった誤解がなくなり、行った施策がKPIに対してどうであったかを正しく振り返ることが可能になります。

そして最後に3つめのポイントが、データをもとに市場を理解するということです。そもそもで自社の顧客になりえる企業数はどれくらいいるのかということを把握していなければ、訪問数や見込み顧客獲得率といったKPIを適切に設定することもできません。

そこで、まずは既存顧客の企業規模や資本金、地域といったデータを整理し、自社のお客様はどういったセグメントなのかを理解すること。そして、市場データと照らし合わせ、まだ取引できていない業種や業界、また企業規模等のセグメントを洗い出していきます

たとえば自社の顧客となりうる対象が5千社あり、そのうち3千社とすでに取引できているとしたら、残り2千社をどう顧客へと変えていくかという発想になりますから、取るべきアクションも異なってくるでしょう。

BtoBマーケティングにおいて顧客理解を深めるために活用している3つのツール

自社のお客様がどういった購買行動を取るのかを理解するためには、どういったコンテンツを閲覧し、どういった時間軸で案件化にまで至るのかといったことをデータをもとに把握することが重要です。また上述の通り、データをもとに確度の高い見込み顧客になりえる市場を選定することも大切です。

そうした顧客理解を深めるために、実際に私が使っていてオススメするツールが、下記の3つです。

01. CMS Hub 

HubSpotプラットフォームはインバウンドマーケティングを進めるために必要な機能がすべて揃っていると言っても過言ではないソフトウェアです。HubSpotの中でもCMS Hubというソフトウェアを使えば、コンバージョンした人が何回訪問し、どういったコンテンツを見て、どういった問い合わせをしたのかといった行動データが確認できます

そうしたお客様別の行動データから、たとえば営業側でもどのお客様を優先的に対応すべきか、どういった提案をすればいいかといったことが把握できるため、受注率を高めるアクションがとれるようになるでしょう。

また、訪問するお客様の業種などに応じて、サイトに表示するコンテンツの出し分けも可能です。金融業界のお客様には金融業界のお客様事例を中心に表示するといったことができるため、より効果的なナーチャリングが実現可能です。

02. AD EBiS 

マーケティング効果測定ツールであるAD EBiSは、間接コンバージョンを計測するのに活用しており、BtoBマーケティングを進める上ではマストで導入すべきツールでしょう。

実際にブイキューブで15本のタイアップ記事広告を展開した際は、直接効果が973件であったのに対し、間接効果は2,533件と、2.6倍もの効果があったことがわかりました。もし間接効果を計測せずに、直接効果だけで施策を判断していたら「CPAが高く、効果がない施策だ」と判断していたかと思うと、恐ろしいですよね。

そして私の場合は、AD EBiSで間接コンバージョン件数を把握し、コンバージョンした人たちがどういった行動をしてきたかを把握するためにHubSpotを使うといった活用をしています。

間接コンバージョンの件数や経路が見える化することで、マーケティング部門だけでなく営業部門含めて組織横断での正しい顧客理解が可能になり、ホットリードに対してのコミュニケーション設計も最適化することができます。

03. FORCAS(フォーカス)

FORCASは145万社以上のデータが集まっているクラウドデータベースサービスで、自社が狙うべき市場を把握するために活用しています。

使い方としては、まず自社の既存顧客のデータを取り込み、FORCASが保有しているデータと照合することで、受注企業の特徴や傾向を割り出していきます。その上で、すでにアプローチしている業種や企業カテゴリに対して、未アプローチの企業をリストアップしたり、受注傾向が高いものの、アプローチしていなかった業界の企業をリストアップするといった潜在顧客の特定が可能です。

SalesforceやHubSpotともAPI連携が可能で、リアルタイムで獲得したリードの取り込みはもちろん、追加開発せずにこれまでの蓄積データを用いた分析ができます。

編集後記:組織横断での取り組みによる達成感は格別。顧客理解はマーケティング部門だけのタスクではない

今回佐藤氏のお話を伺い、強く感じたのは、BtoBバイヤーであろうと、ひとりの人間として購買プロセスを辿るということだ。私たちが日常で何か大きな買い物をするときと同様、BtoBバイヤーも、インターネットで検索して情報を収集し、レビューを読んだりして購入を決定していく。

そして抱えている課題感や自社製品・サービスが提供する価値によって、BtoBバイヤーとの接点は異なるからこそ、自社のお客様はどういった人なのかを理解し、顧客理解に基づくコミュニケーション設計が非常に重要である。SEOコンテンツやLPといった手法は、そうしたコミュニケーション設計を実現するためのものであり、手法ファーストで取り組んでも成果がでないのは当然だろう。

最後に佐藤氏はこう語る。

「日本企業にはもともとマーケティング組織はなかったのですが、実は営業部門に “営業企画” といった呼ばれ方で、マーケティング活動を担うポジションがありました。しかし、 “マーケティング” という名前がつき、営業部門と切り離される形でマーケティング部門ができたことで、営業部門との対立が生まれてしまったりするわけです。

しかし、マーケティング部門も営業部門も同じお客様を相手にするわけですから、一緒になって顧客理解を深め、ペルソナ・カスタマージャーニーから一緒につくっていくと、成果の出方は違ってきますし、組織を横断し、みなが自分ゴト化して取り組むことで成果が出たときの達成感は格別。大きなやりがいを感じられる瞬間です。

そしてマーケティング部門は営業部門から喜ばれるようになりますし、営業部門からはこういったリードを送ってほしいといった要望が生まれたりと、組織間連携が生まれ、より成果最大化のためのアクションをとれるようになっていきます。

ぜひマーケティング部門だけでなく、営業部門や管理者も交え、組織全体で顧客理解を深めていってください」

佐藤 岳
株式会社ブイキューブ

1973年生まれ、1994年からインターネットを、2000年からBotBマーケティングに携わっています。エージェンシーと事業会社のマーケターの経験があります。BtoBマーケティングのご支援をしています。

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