「施策を点ではなく線でやる」組織横断でのBtoBマーケティングはどのように進めるべきなのか

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「マーケティング活動はインサイドセールスや営業と組織横断で取り組まなければ意味がない」

そう語るのは、ナイル株式会社にてコンテンツマーケティング事業の立ち上げやコンサルティング部門責任者を務めた後、現在はカスタマーエンゲージメントプラットフォーム『Repro』を運営するRepro株式会社のMarketing DivisionにてDivision Managerを務める實川節朗氏である。

實川氏はReproのマーケティングに関わりはじめてから、コロナ禍の影響もありオンライン施策に注力。わずか3ヶ月でオンラインチャネルのリード獲得数を1.5倍へと成長させ、2020年全体ではCPAを前年比40%減、リード獲得数10%増を実現するなど、ReproのBtoBマーケティングを推し進めてきた。

そこで今回、實川氏がBtoBマーケティングに取り組む上で大切にしている考え方やポイント、また様々な施策を推し進める上で活用しているというツールについて語っていただいた。

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お客様は様々な接点を通じて成約へ進むからこそ、マーケティング活動は点ではなく線でやるべきである

マーケティング活動の目的は利益を最大化させるための成約獲得であるべきで、リード獲得が目的ではありません。そして「成約に繋げるのは営業だけの仕事である」と考えてしまっては、有効なマーケティング活動とはならないでしょう。

そこで私が大切にしているのが、「点ではなく、線としてやる」ということです。施策一つひとつに対して、リードが何件取れたかといった「点」だけでの評価に意味はありません。

ご自身がユーザーの立場になってみるとすぐにわかるのですが、セミナーに参加したからといってすぐに契約しようとは思わないでしょうし、契約を検討していない段階にも関わらず、資料DLの際に登録した電話番号に営業電話がかかってきたら嫌だなと思うでしょう。

最終的な成約に至るまでには、興味関心が深まり、自ら情報収集を行い、様々な接点を通じて契約検討へと進んでいくはずです。実際に過去の商談データを見ても、新規リードを獲得してすぐに商談化するケースは極めて少なく、多くは複数の接点を経て商談化していきます。

そのため、「このイベントに参加した方なら、次はこのような資料に興味を持ってくれるのではないか」など、仮説に基づいた複数の連続したキャンペーンを必ず実施するようにしています。

さらに商談化に至るまでには、マーケティング施策からリードを獲得して、そこからインサイドセールスがフォローして商談化するわけですが、施策ごとにどういったフォローをすべきかをインサイドセールス側と認識合わせができていなければ、適切なフォローができません

またセールス側からもどういったリードを求めているのか、どういったリードが成約に繋がりやすいかといった情報を共有してもらわなければ、質の高いリード獲得はできないでしょう。

つまり、点ではなく線としてみると、マーケティング活動は必然的に組織横断で取り組まなければ意味がなく、組織間で共通認識を持っていなければ、MAやSFAを活用したところで効果的なリード創出からの案件化、成約化は実現しないのです。

組織横断で取り組まなければ、部門間での利害の不一致が生まれ、全体最適のためのアクションがとれない

組織横断での取り組みができていないと、最終的な利益最大化を実現できないだけでなく、様々な課題に直面してしまうでしょう。

その1つが、マーケティング部門とインサイドセールス部門やセールス部門との対立です。上述の通り、マーケティング活動を点でしかとらえていない場合、マーケティング部門は自部門のKPIを達成すればよいという発想で、目標とするリード数を獲得すれば良しと考えてしまいがちです。

大量のリードを獲得したはいいものの、インサイドセールスがフォローを行った結果、「ニーズがまるでない」「そもそも自社のことを認知していない」といったことも起こりえます。体制として、期待値の低いリードでも全てフォローする、といった形にしていればアリですが、リソースにも限りはありますし、雑なフォロー体制では今度は商談品質にも影響が出てしまいます。

そうした結果、インサイドセールス側は「マーケが渡してくるリードは質が悪い」と思ってしまうでしょうし、マーケティング側は「渡したリードをインサイドセールスがうまく活用しない」と思ってしまったりと、インサイドセールス部門やセールスとマーケティング部門の対立が発生してしまうのです。

部門間での対立が生まれると、建設的に話し合って解決策を出すべきにも関わらず、コミュニケーションが疎遠になってしまったり、どちらかが困っていることに対して協力体制をとらないなど、組織として良くない方向へと事が進んでしまいかねません。

何よりも避けるべきなのは、部門間での利害の不一致が生まれ、全体最適のためのアクションがとれないといった事態です。

たとえばReproの場合、セミナーはマーケティング部門主催のものとインサイドセールス主催のものがあります。検討段階のお客様向けはインサイドセールス、新規リード獲得、既存リードのアクティブ化を目的としたものはマーケティング部門が担当といった棲み分けをしています。

しかし、ときには同時期に集客したいターゲットが被ってしまうことも珍しくありません。その場合、組織間での協力体制が取れていないと、仮にインサイドセールス主催のセミナーのほうが商談化数の期待値が高いという場合でも、マーケティング部門は自部門の予算達成を確実にしたいがために自分たちのセミナー数を調整するといったジャッジができなかったりします

その結果、お客様には同じ会社から別々のセミナーの案内メールがたくさん届き、嫌悪感を抱かれてしまうといったことになりかねません。

マーケティング活動の目的は利益を最大化させるための成約獲得なわけですから、最終的な利益を伸ばすためには何をすべきかという発想でジャッジすべきにも関わらず、そうした視点が抜け落ちてしまうのです。

組織横断でのマーケティング活動を行うための3つのポイント

では、これらの課題を解決するべく、マーケティング活動を組織横断で進めるための3つのポイントをご紹介いたします。

1つめが、後工程から逆算したKPI設定を含む、評価体制の構築です。単にリード数だけを目標としてしまっては、質の高いリードなのかどうかが判断できません。そこでReproではインサイドセールスと連携してKPI設定を実施。商材とパーセプションで9つのセグメントにリードを分け、セグメントごとの目標数値を設定しています。

また、マーケティング経由の売上であったり、成約数なども追えると理想でしょう。ただし、計測環境が整っていない場合もあります。その場合、マネージャーや役職者の立場にいる人間が、会社にとって何が重要であるかをしっかりと問い続け、見極めることが求められます。

評価体制ははじめから完璧を目指す必要はなく、PDCAを回しながら最適なKPI設定を探っていくこと。その過程で仮に自部門のKPIにネガティブだとしても、会社として事業成長に繋がる施策を行うという意思を持ってアクションすることが重要です(もちろん、自部門のKPIも達成しつつ事業成長に繋がるアクションをとるのは前提ですが)。

2つめが、コミュニケーションの主語を常にユーザーに置き、施策の全体像を常に可視化させることです。BtoB商材は検討期間も長く、リードによってフォロー内容やコミュニケーション設計が異なるなど、BtoBマーケティングは非常に複雑です。

そのため、後述のMiroなどを使い、コミュニケーション施策全体を一枚の絵として見渡すことができるような工夫をしています。日々いろんな活動をしていると、どうしても目の前の施策にばかり意識が集中してしまい、全体シナリオを念頭に置いたアプローチができなくなりがちです。

先に述べた施策同士の連携を、マーケティング部門だけでなくインサイドセールスやセールスとも共有することで、現在ユーザーが置かれている立場について解像度の高い状態でアプローチしていただけることを意識しています。

また、ともすると大量の施策が走り、優先度がわからくなくなることもあります。しかし、全体が可視化されていれば「この時ユーザーはこういう状況のはずだから、このイベントのほうが重要だよね」といった、ユーザー目線でのすり合わせがしやすくなります。

最後に3つめが、組織横断でのコミュニケーション回数をとにかく増やすということです。コミュニケーションが不足し、協力関係を築けていないと、お互いがお互いを疑心暗鬼に思ってしまい、結局自部門の数字だけを追いかけるといったことになってしまいます。

何か課題が発生したり気になることがある場合はすぐに部門長同士でミーティングを行います。私たちの場合は結果的にほぼ毎日、多いときには1日数回、定例ミーティングなどとは別に30分単位でディスカッションを行っています。

その際、リスペクトを持ちながら、腹を割って話すということが重要だと考えています。

また、新人メンバーが入ってきたタイミングでは、各部署のツアーを開催したり、マーケティングメンバーが商談に同行したりと、他部門の仕事を理解する機会も設けています。そうすることで、組織間での対立がなくなるだけでなく、マーケティングメンバーから生まれる企画アイデアの精度も上がっていくと実感しています。

組織横断で取り組むために活用する3つのツール

BtoBマーケ担当者の業務範囲は非常に多岐に渡るため、いかに業務効率を改善するかが重要です。そのため、組織間でのオンラインコミュニケーションやタスク管理なども、効率的でかつやりたいことが実現できるツールを使うべきでしょう。

そこで実際に私が日々の業務で活用しているツールが次の3つです。

01. Miro

Miroはオンライン上の大きさに制限のないホワイトボードのようなツールで、同時編集もできるため、ブレスト時にメンバー全員で記入したりすることができます。スペースを気にせずになんでも記述できるのが魅力で、施策の全体像の可視化にもMiroを使っています。

リスト形式で施策を管理してしまうと、どうしても個別の結果ばかりを見てしまい、線ではなく点で施策を評価してしまいかねません。そこでReproの場合は、施策をMiro上にマッピングし、Aの施策で獲得したリードに対して、Bの施策を打つなど施策同士の関係性を図示しています。

またブレストで使う際も、スタンプで書き込みに投票ができたり、付箋の色を一括編集したりと、非常に操作性も高いツールです。

02. Google Meet

組織横断でのコミュニケーションのため頻繁にオンラインMTGを行うのですが、そのときに活用しているのがGoogle Meetです。Zoomはウェビナーを開催するときに活用しますが、社内ではもっぱらGoogle Meet。

というのもZoomの場合、打ち合わせ用リンクを発行しようと思うと、一度Zoomを立ち上げて、そこから日時を設定してリンクを発行して、とちょっとした手間がかかります。しかしGoogle Meetであれば、オンラインMTGの予定をGoogleカレンダーで入れば自動的にGoogle MeetのURLが発行されます。これが非常にラクなんですよね。

やはりMTGは、アジェンダを用意するなどの事前準備が大切ですから、少しでも作業負荷を減らすという意味でも、Google Meetは重宝しています。

03. ClickUp

膨大な量のタスクを管理するツールとして活用しているのが、ClickUpです。もともと別のツールでタスク管理をしていましたが、カンバン方式でしか使えなかったため、目的に応じた使い方ができないことが悩みでした。

しかしClickUpであれば、カンバン方式の他にもリスト形式、カレンダー形式、ガントチャートなど、タスクを様々な形式で管理でき、さらに1つのタスクにサブタスクを追加できたりと、用途や目的に応じて様々な使い方ができます。

BtoBマーケティング領域は、たくさんのタスクが平行して発生しますが、タスクのプライオリティや粒度はそれぞれ違うため、漏れなく適切なタスク管理をする上でClickUpは非常に便利なツールです。

編集後記:同じ組織の仲間として他部門のメンバーを尊重すること。リスペクトがあれば対立は生まれない

営業部門と違い、マーケティング部門は顧客とのリアルな接点がないため、積極的に顧客理解を進めない限り、商談化に至るお客様がどういった課題を抱えていて、どういったニーズがあるのかといったことを具体的に想像することは難しいだろう。

そして施策一つひとつの結果、数字というものが日々マーケティング部門の目にするものであるため、自部門のKPIをいかに達成させるかということに意識がいってしまうこともうなずける。

しかし、それでは實川氏の言う部門間で利害の不一致が起こり、組織間の対立が生まれてしまいかねない。成果に繋がる質の高いリードを獲得するためにも、マーケティング部門はあらためて自社の顧客を理解し、お客様がどういった人物なのかを具体的に理解することが求められる。

最後に實川氏はこう語る。

「お客様が抱える実際の課題というのは、マーケティング部門が考えるよりも複雑です。しかし、マーケティング部門は数字でしかレスポンスを知れないがゆえに、お客様の課題を肌感で理解できなかったりします。

その結果、ズレた施策を展開してしまったり、どうでもいいところでABテストをしたりと、施策の精度を上げていくための動きがとれなくなってしまいますから、顧客理解というのは何よりも重要です。

そして顧客を正しく理解できれば、自ずとどういったユーザーコミュニケーションが適切であるかが見えてくるはずです。しかし組織間での対立は、適切なユーザーコミュニケーションの妨げでしかありません。

同じ組織の仲間として他部門のメンバーを尊重すること。リスペクトがあれば組織間での対立は生まれず、むしろ組織間で協力し合えるようになり、組織として顧客のために最善のアプローチがとれるようになるでしょう」

實川 節朗
Repro株式会社

東京大学卒業後、ナイル株式会社へデジタルマーケティングコンサルタントとして入社。コンテンツマーケティング事業を立ち上げた後、コンサルティング部門責任者に。2019年、Repro株式会社に参画。Repro Web事業部長を経て、現在はマーケティング部にて責任者を務める。

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