「マネージャーなんて偉くない」スマートニュース松浦氏が語る今どきのマネジメントスタイルとは

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「マネージャーに昇格して、偉くなったと勘違いするとマネジメントは失敗する」

そう語るのは、ライブドアでディレクターを経験した後に、『WIRED』日本版Webサイトの立ち上げやグリーではニュースサイトのディレクション、ハフポスト日本版の初代編集長を務め、現在はスマートニュース株式会社にてビジネス開発組織でディレクターを務める松浦茂樹氏だ。

松浦氏はライブドア時代、最終的にシニアマネージャーとして社員・アルバイト含め合計30名近いチームのマネジメントを担当。その後も様々な組織でマネジメント担当し、ハフポスト日本版では初代編集長として、そして現在スマートニュースにおいても10名規模のチームのマネジメントを行ってきた。

そこで今回、様々な組織でマネジメントを経験してきた松浦氏に、マネジメントにおいて大切にしている考え方からマネージャーとして意識すべきポイント、またマネジメント業務で活用しているツールについて語っていただいた。

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管理ではなく、業務の方向性を示すこと。そして事故なき運用を心がけるのがマネージャーの仕事である

そもそも “マネージャー” の役割とは何でしょうか? 日本語に訳すと「管理者」という言い方をしたりもしますし、「偉い人」というイメージもありますが、マネージャーというのは、管理する人でもなければ、偉い人でもないと私は考えています。

一方で先頭に立ってメンバーを引っ張っていくという人でもありません。それはリーダーだからです。あくまでもマネージャーというのは、業務の方向性を示すことが役割であると私は考えています。

また、多くの仕事というのはコミュニケーション、クリエイティブ、オペレーションの掛け算だと私は思っています。

具体的に営業はコミュニケーションですし、デザインをしたりといったモノづくりはクリエイティブの仕事です。そして、そうしたスキルを持った人たちと組織で仕事を進めていく場合に必要になるのがオペレーション(運用)です。

フリーランスのように、セルフオペレーションでひとりで完結するのであれば、マネジメントは必要ありません。しかし組織の場合は、この人はクリエイティブスキルが長けている、この人はコミュニケーションスキルが長けているなど、個々のスキルを見極め、その上で「この人はこの業務に向いている」と人を配置し、うまく運用を回していくといったことがマネージャーに求められることなのです。

そうした考えのもと、私がマネジメントにおいて一番大事だと考えているのが、余裕をもったルールづくりです。たとえばメンバーが業務についつい集中してしまって残業続きになり、3日後になって体調を悪くしてパフォーマンスが下がってしまうといったことは、オペレーションが機能しているとは言えません。

そこで組織としては8時間労働というルールもそうですが、組織として円滑に運用していくためのルールが必要です。そして内的・外的要因によってルールを変更せざるを得ないこともあります。しかし現場での混乱を生み出しかねないため、ルールが頻繁に変わってしまうことは避けるべきでしょう。そこで、一番はじめは大枠のルールだけをつくり、運用しながら最適なルールを決めていくということがポイントです。

一方でルールをガチガチに決めてしまい、メンバーが主体性を発揮できなくなってしまうのは、健全な組織とは言えないでしょう。そこで用意した大枠のルールの中で、細かな判断というのはメンバーに委ね、多様性を残すことも忘れてはいけません。
そして、メンバーの判断の責任はすべてマネージャーがとるという意識で、メンバーの主体性を尊重しながらも、事故なき運用を心がけるのがマネージャーに求められることだと考えています。

細かな業務の指示出しはメンバーの成長の機会を奪い、モチベーションの低下を引き起こしてしまう

もちろん、マネジメントスタイルも様々ですから、私の考えるマネジメントが必ずしも正しいとは限りません。しかし、マネージャーの役割が業務の方向性を示すことだと捉えた場合に、新人マネージャーなどが陥りがちな失敗が次の3つです。

まず、すべてを自分でやろうとしてしまうことです。マネージャーに任命される方というのは、コミュニケーションやクリエイティブなどが長けていて、メンバーに任せる業務を自分でもできてしまうという方が多いでしょう。

そのため、「自分でやったほうが早い」「自分でやったほうがうまくいく」といった考えから、ついつい自らが業務を進めてしまったりします。

しかし、マネージャー自身がメンバーに任せている業務を遂行してしまうことは、メンバーの仕事を奪うことになりますし、メンバーのモチベーションの低下にも繋がりかねません

あくまでもマネージャーは業務の方向性を示すことが役割ですから、メンバー個々の判断の機会を奪わず、小さな多様性を残していく組織運用を心がけるべきです。

また2つ目が、マイクロマネジメントをしてしまうことです。細かくあれしろ、これしろと指示出しをすることは、メンバーの判断の機会を奪ってしまうことになります。

たとえば、「渋谷から上野まで行く」というときに、どの路線を使って、どこで乗り換えてといったことまで、マネージャーは指示する必要はなく、あくまでも「上野まで行こう」とゴールを示すだけで十分で、手段はメンバーに任せるというのが業務の方向性を示すことであり、ゴールに向かってどう進捗させていくかがマネージャーの仕事なのです。

一方で、強いリーダーがいて、メンバーに細かく指示出しを行うことで強い組織を形成しているケースもあります。しかし、それではメンバーがまるで機械のように言われたことしかできなくなるため、メンバーの成長のことを考えると、やはり細かな判断はメンバーに委ねることは大切でしょう。

もちろん、メンバーに成長の機会をつくろうと、スキルが足りていない領域の仕事を任せて、成果に繋がらない、最悪の場合は事故に繋がる可能性もあります。しかし、そうした成長と成果のバランスをうまく取りながら組織運用をしていくことが、マネジメントの難しさでもあり、面白さだと思っています。

最後に3つ目が、中間管理職の空気感を丸出しにしてしまうことです。マネージャーの上には社長なり役員陣なりと、上のレイヤーの人たちがいますから、マネージャーは中間管理職として、上からの指示をそのままメンバーに指示をしてしまうということが往々にして起こりえます。
するとどうなるかと言うと、メンバーは「本当にここに向かっていいのだろうか」と疑心暗鬼になってしまい、マネージャーへの信頼が失われていくんですね。そのため、マネージャーは上から受け取ってきたことに対しても、一度自分の中で受け止めて咀嚼し、自分の言葉でメンバーに伝えるということを忘れてはいけません。

マネージャーとして、業務の方向性を示す上で意識すべき3つのポイント

では、マネージャーとして業務の方向性を示していく上で、具体的に私が大切にしている3つのポイントをご紹介いたします。1つ目が、やらないことを先に決めるということです。

指示になってしまう「やること」は決めず、「やらないこと」だけを決めるのです。特にやらないこととして私が決めるのは、 “常識” だと思っていることです。たとえば渋谷から上野まで行くというときに、常識的にヘリコプターを使って行くということはさすがにないよねと思うわけですが、それでもヘリコプターで行こうとする人というのはいるんですね。

仕事でも「さすがにこの金額は使わないでしょ」という自分の常識も、メンバーによっては常識でない可能性もあります。そこで、予算はこの範囲内までと提示したりします。

このようにやらないことだけを決めることで、メンバーの判断の選択肢の幅を持たせつつも、マネージャーとしては失敗の範囲を想定できるため、事故なき運用に繋げていくことができるのです。

2つ目が、勇気を持つこと、時には演技をすることです。メンバーが挑戦すること、やってもらうことには、マネージャー自身も経験したことがないことがあるでしょう。そうしたときでも、マネージャーはメンバーに任せる勇気を持ち、GOサインを出して背中を押してあげることが大切です。

また、マネージャーが暗い顔をしていていいことなんてないんですね。マネージャーが動揺していると、チーム全体の動揺に繋がってしまいますから、マネージャーは笑顔で「この方向でやってみようぜ」といったコミュニケーションを取れるかどうか。

ムードメーカーになれというわけではありませんが、チームの空気感を良い方向に持っていくことも、マネジメントスキルの1つとして重要なことであると考えています。

そして、時には場の雰囲気を切り替えるために、笑顔だけでなく、危機感丸出しでコミュニケーションを取るほうが良いケースもあります。なだめ役になってくれるメンバーがいれば、マネージャー自身は怒りキャラを演じるなど、時には演技をしてでもチームの雰囲気を変えていく動きが求められます。

最後に3つ目が、業務コミュニケーションは極力オープンにして可視化することです。

方向性を示し、その方向性にみなで向かっていくためには、チーム内での信頼関係の構築が大切です。しかし、1対1でのクローズドなコミュニケーションばかりの組織では、「マネージャーは私に隠していることがあるのでは」など疑いの気持ちを抱いてしまい、良好な信頼関係構築が難しい場合もあります。

そこで給与情報などのセンシティブな話題を除き、コミュニケーションをオープンな場で行い、可視化させることで、他のメンバーへの理解が深まり、チーム内での信頼関係が構築されていくのです。さらに、みなで業務の方向性に関しての共通認識が持てるようになったりと、情報共有のコストも削減できます。

マネジメントのプロが現場で活用している3つのツール

ひとりで仕事をしているのであれば、オペレーションの必要がないため、マネージャーは不要です。しかし組織として仕事をするからこそ、マネジメントが必要であり、組織の生産性を高めるためにも、マネージャーはいかにオペレーション効率を高めるかを考えることが求められます

そして、オペレーション効率を上げるためにツールを使いこなすことは、もはや当たり前です。従来のオフィスに文房具があって、備品管理をしっかりとしていたように、いまはオンラインツールというのがオフィス環境の一部でもあるからこそ、オペレーションを担うマネージャーはツール活用もケアしなければいけないものなのです。

そこで、マネジメントの文脈で私が活用している3つのツールをご紹介いたしましょう。

01. Slack

日々の業務ではフロー型の情報とストック型の情報があり、最適なオペレーションを実現するためには、円滑なコミュニケーションの実現が大切です。

Slackは、オープンなコミュニケーションが可能であることはもちろん、様々な外部ツールとのAPI連携が可能なため、フロー型の情報の密度を高めることができるため、社内チャットツールとしては非常に使い勝手の良いツールです。

02. Notion

Slackは秒単位のコミュニケーションの場として活用するのに対し、Notionは日単位で確認すべき業務タスクや組織ルールなどのストック型の情報をまとめるために活用しています。

情報というのは、オープンな場所でかつ、メンバーが等距離で情報にアプローチできるフラットな場所にあることが大切です。Notionであれば、各種ツールとも連携可能で、様々な情報をストックしておくことができ、URLひとつで共有・閲覧できますから、誰でもすぐに求めている情報にアプローチできるツールです。

03. Google Keep

自分以外のメンバーの責任を追う立場であるからこそ、マネージャーは自分の記憶に頼らず、確実に情報を記録しておく場所をつくっておくべきです。そこで様々なメモツールやノートツールがありますが、私が活用しているのがGoogle Keepです。

Google Keepは「とりあえずメモしたい」と思ったことを放り込み、あとからチェックボックスを追加したりグループ分けしたりと、自由度が高く、PC・スマホどちらからでも使い勝手の良いクイックノートです。

編集後記:「偉くなった」という勘違いが失敗を招く。マネジメントはスキルのひとつでしかない

いちメンバーからマネージャーへと昇格すると、 “管理者” として的確な指示を出さなければいけないと思ってしまうことは、往々にしてあるだろう。しかし、メンバーの成長を考えたり、多様性を活かした組織運用を進めていくためには、一人ひとりのメンバーが自ら考え、判断する余白を残しておくことが非常に大切である。

今回、松浦氏の話を伺い、マネージャーに求められるのは指示出しではなく、業務の方向性を示し、事故なき運用を心がけることであると、あらためて感じさせられるインタビューだった。

最後に松浦氏はこう語る。

“マネージャーは偉い人” だと勘違いしてしまうことが、一番陥りやすい失敗だと思います。当然ですが、マネージャーに昇格してお給料も上がると、偉くなったと勘違いしがちなんですよね。

しかし、マネジメントというのはスキルのひとつであって、昇給もマネジメントスキル料がもともとの給与に加わっただけ。そのため、私は偉くなったと勘違いするとマネジメントは失敗してしまいますから、あくまでもマネジメントはスキルの1つとして捉えて、メンバーから信頼されるマネージャーを目指していってください」

松浦 茂樹

メディアビジネスにおけるBusinessDevelopmentを長く行ってきました。対ユーザも対法人も。ユーザ開発では、様々なデジタルメディアをプロデュースしてきました。代表的なデジタルメディアでいうとBLOGOS、WIRED.jp、ハフポスト日本版。法人営業でいうと、コンテンツアグリーゲーターとして新聞もテレビも雑誌もありとあらゆるデジタルに関わるメディアと取引してきました。livedoor、GREE、そして現職のSmartNewsで。その現職ではコンテンツマーケティングのマネジメントを担当しております。

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