昨今注目のデータドリブン経営ですが、実際にそれで成功している企業はまだ少ないのが実情です。データドリブン経営を成功させるには、そもそも「データ」というものを考えるうえで、いくつかの注意点があります。本記事ではそうした基本から、データドリブン経営を成功させる具体的な方法を解説します。本記事を参考に、データドリブンな企業づくりを促進しましょう。
データドリブン経営とは
データドリブン経営とは、「データやその分析結果に基づいてビジネス上の意思決定をしていく」という経営哲学のことです。データドリブン経営においては、たとえば以下のような経営課題を解決するためにデータを活用します。
- よりよい意思決定を行う
- ビジネスプロセスを改善する
- より多くの顧客を獲得する
- 既存顧客とよりよい関係を築く
データという誰もが共有しやすい指標に基軸を置くデータドリブン経営は、「ビジネスプロセスの透明性と継続性を担保しやすい」という利点を持ちます。特に昨今ではICTの発展・普及に伴って、企業が取得できるデータがますます膨大になってきているため、データ活用の有効性は飛躍的に向上してきており、多くの企業がデータドリブン経営の導入に取り組んでいます。
データドリブン経営の取り組みのメリット
データドリブン経営に取り組むメリットとしては、主に次のことが挙げられます。
- 経験では追いつかない膨大な情報量を入手できる
- 意思決定の説得力が増す
- 経験に左右される属人業務からの脱却
1. 経験では追いつかない膨大な情報量を入手できる
データドリブン経営においては、当然ながら意思決定の基盤となるデータ収集が重要です。現代では企業が多種多様かつ膨大なデータ(ビッグデータ)をリアルタイムで取得できるようになりました。さまざまなチャネルから得られるデータの総量は、一個人が自分の経験から得られる情報をはるかに超えるものです。
もちろん、大量のデータから経営に役立つヒントをどれほど読み取れるかは、個人の資質や経験に依るところもあるでしょう。しかし、いずれにしてもデータ収集によって判断材料が増えることは、外れ値や見落としをなくし、意思決定の精度を上げるために有用です。
2. 意思決定の説得力が増す
経営者や開発者の経験・勘が企業に大きな利益をもたらした成功事例も、数多く存在するでしょう。しかし、こうした意思決定の仕方は属人的な要素が高いため、思考プロセスを他者と共有しづらく、説得性や再現性に欠けるところもあります。説明を受けている側に、「経営上の利害関係が、判断に影響を及ぼしているのではないか」と邪推されてしまうこともあるかもしれません。
この点、データに基づいた意思決定であれば、関係者への説明責任を果たすことが比較的容易です。たとえばデータの裏付けを共に示すことで、ステークホルダーに何らかの説明や主張をする際も同意を得やすくなるでしょう。
3. 利益率が向上する
ビジネス誌『ハーバードビジネスレビュー』の調査によると、各業界において「データドリブンな意思決定を取り入れている企業の上位3分の1は、競合他社に比べて生産性が平均5%、利益率が平均6%高いこと」が判明しています。
データドリブン経営がこうした結果を生む要因としては、「データ活用によって意思決定にかかる時間の短縮化」「課題の早期発見による損失の最小化」「顧客ニーズの的確な把握による施策の最適化」が可能になることが挙げられます。データドリブンな思考方法が現場で浸透すれば、全社レベルでの生産性向上も見込めます。
データドリブン経営の導入から運用の流れ
- 意思決定プロセスの明確化
- データの収集
- データの分析
- 経営方針や施策の意思決定
ステップ1. 意思決定プロセスの明確化
まずは、意思決定プロセスの明確化から始めます。現状の経営課題を整理し、「データ分析で何を解き明かしたいのか」「どのようなデータを整理すれば、意思決定に直結するか」を明確にしておく必要があります。
たとえ多くの有用なデータやそれらの分析結果を集めても、実際の意思決定や行動に結びつかなければ意味がありません。また、「解決すべき課題」と「そのために必要なデータ」が定まっていないと、データ収集・分析作業でも無駄が多くなってしまいます。
ステップ2. データの収集
データドリブン経営を実現するには、その前提として判断材料となるデータを収集しなければなりません。また、たとえデータ自体はすでにあっても、「必要な時に必要な人が必要なデータを取り出せる状態」で保管されていなければ無意味です。
したがってまずは、「現状で活用可能な手持ちデータ」や「追加で集めるべきデータ」を確認・整理することが大切です。
場合によっては、データ管理のシステム構築から必要になることも考えられます。それぞれのデータを管理している場所や管轄部門の洗い出し、集約の受け皿、加工・統合の必要性などを考慮して、システム構築の必要性は判断されます。自社で構築するほかにも、データプラットフォームとして、データレイクやデータウェアハウスを導入する手段も有効です。
十分な量のデータがそろっていない場合は、「ツールによる自動収集・アンケートの実施・調査会社への依頼・統計データの活用」などが対応策として考えられます。
ステップ3. データの分析
データ分析は基本的に、「各データの特徴・傾向」「データ同士の関連性」を見出すことを目的とします。しかし単に数値や情報の羅列を見ているだけでは、そこからビジネスに役立つ意味を読み取ることは難しいため、グラフや図表などを駆使して「データの可視化」を行うことが重要です。
可視的に整理されたデータであれば、分析結果や施策の経過報告を第三者に行う際にも説得力が増すでしょう。データ分析やデータの可視化は、BIツールの活用がおすすめです。
ステップ4. 経営方針や施策の意思決定
最後のステップとして、データ分析結果から予測や仮説を立てて、今後の経営判断に活かします。また、意思決定をした後は必ず「ふり返り」を行い、データ活用の仕方や施策の妥当性を確かめ、今後の改善につなげていくことも大切です。さらに、データドリブン経営の領域拡張や、人材育成も並行して行っていきましょう。
データドリブン経営を成功させるための重要な考え方
データドリブン経営の取り組みによって、実際に大きな成果を出していくのは簡単なことではありません。とりわけ、初めて経営判断にデータを活かす際には、非常に高い難易度を感じるでしょう。
「新規事業の立ち上げ」「技術開発投資」「既存事業の撤退・売却」など、企業全体の今後を左右する意思決定は、結果が出るまでに時間を要することが多く、業績に与えるインパクトも大きいからです。実際、ビジネスにおいては不確実性を伴う判断材料も多く、個人の知識や経験に頼らざるを得ない場面も多いのが現実でしょう。
このような実情が存在する経営判断の場で、データドリブンを有効に活かしていくためには、下記のようなポイントを守ることが大切です。
1. データ分析の役割が「思考力の強化」であることを理解する
まず重要なのは、経営判断におけるデータ分析の役割とは、「経営層の意思決定プロセスから恣意性や非現実性をできる限り排除し、思考力を補強すること」だと理解することです。
経営判断を行う際には、「市場の動き・技術革新・競合の出現」など将来の不確定要素も考慮しなくてはなりません。経営者の経験や勘も、このために貴重な判断材料です。しかし、主観に左右されやすい判断方法に頼りすぎると、非現実的な理想のシナリオを描いてしまったり、私情や利害関係を持ち込んでしまったりする恐れもあります。
つまり大切なのはバランスです。経験や勘を大切にしつつもデータドリブンを活かし、「定量評価できるところはデータで補強する」といった相補的な発想を取ることが重要です。
2. 領域を絞ってスモールスタートからの定着を目指す
一度にすべてを大きく変えようとするのではなく、スモールスタートを切ることも大切です。データドリブンを導入した初期は、「人材育成・データ管理用のシステム構築・ツール導入」などに多大なコストがかかります。こうしたリソースや実現可能性から見ると、最初から全社的にデータドリブンを導入するのは現実的ではありません。
まずは、データドリブンの効果を得やすい領域、あるいは結果を確認できるまでが早い領域から局所的に導入します。このためには、導入メリットが大きく定着しやすい領域を十分に検討を行うことが重要です。スモールスタートに成功したら、段階的に導入を広げていくことをおすすめします。
3. 人材育成は動機付けの工夫によって従業員の行動から変える
データドリブン経営を企業全体に浸透させるには、従業員がデータドリブンへ取り組むための以下のような動機付けの工夫が必要です。
- データ分析を学ぶハードルを下げる
- 専門能力の習得に対して人事評価を付ける
- 専門能力を発揮しやすい人員配置を行う
データドリブン思考の重要性やそのノウハウを教育したり、分析ツール導入によって環境を整備したりしても、従業員自身が実際にデータ活用を行うようにならなければ意味がなく、従業員を能動的行動へと結びつけるように、心理的アプローチを実行することも大切です。
データドリブン経営で陥りやすい失敗と対策
以下、データドリブン経営で陥りやすい失敗事例とともに回避策を解説します。これまでお伝えしたデータドリブン経営の考え方と一部重複する部分もありますが、導入課題として改めて認識し、あらかじめ対策を打てるようにしておきましょう。
1. データ分析の目的が意思決定の根拠作りになっている
代表的な失敗例の1つが、持論の正当化を目的にデータ分析を行ってしまうことです。データ分析の役割とは本来、客観的な判断材料を提供して、妥当な意思決定を可能にすることです。
しかし、人間には自分の仮説や主張を補強しやすい情報を無意識に集めてしまう心理的傾向(確証バイアス)が存在します。したがって分析担当者や経営者が、自分の主観的な見解を立証するために都合のいいデータばかりをピックアップしてしまう恐れもあるのです。
こうした事態を避けながら、たとえば経営会議で使うデータ収集を行いたいなら、「経営会議で承認を得やすいデータを集めたい」という認知バイアスを排除するために、経営者周辺の利害関係から距離を置いた別部門に分析を依頼します。あるいは、「どのようなデータを用いたか」など、データ分析の中身も公表し、分析プロセスの妥当性を議論できるようにするのも効果的です。
2. 恣意性を完全排除したことでビジネスチャンスを逃す
実際のビジネスにおいて、不確定性を完全に排除することは不可能であり、「特定の施策に間違いが絶対にない」と保証するデータなど存在し得ません。
特に何か新しいことを始めようとするならば、参考データも不十分なままに、経験や勘を頼りに手探りで進んでいくしかない場面もあるでしょう。こうした場合、定性的な評価を一切含まず、定量的なデータだけに頼っていたら、施策は限定的に留まりやすくなります。
データを慎重に参考にすると同時に、「データに依存しすぎてビジネスチャンスを逃していないか」「施策が消極的になりすぎていないか」常に自分たちの状態を客観視することが重要です。データ分析の結果を判断材料としつつ、顧客・市場・自社の状態などを総合的に見極め、意思決定を行ってください。
3. 現場の細部ばかり気になり経営課題が二の次になっている
データドリブン経営に伴って経営ダッシュボードを導入すると、経営者自ら、現場の状況をリアルタイムで確認可能となります。そのため、精度の高い意思決定をスピーディーに行いやすくなります。
しかし同時に、経営者が現場の問題解決に身を入れすぎて、肝心の経営課題の分析や経営戦略の策定を疎かにしてしまう恐れも生じます。データドリブンを全社的に一気に浸透させていくには、経営者主導のトップダウン式のやり方が有効なのは否定できません。しかし経営者が現場のオペレーションにまで過剰に口出しするようになると、現場は混乱し、かえって逆効果を招くことも懸念されます。
こうした問題を回避するには、「意思決定プロセスを見直し、経営者と現場それぞれの役割を明確化すること」が大事です。あくまで「現場主導」でデータ分析や業務改善を実践してもらうことでこそが、全社的なデータドリブン経営の実現につながります。このためには、現場に一定の権限を委譲するなど、経営者が一歩身を引いてサポートに回ることも重要です。
まとめ
データドリブン経営とは、データやその分析結果をビジネス上の意思決定に役立てる経営手法です。データドリブン経営と個人の経験や勘は対立するものと捉えられがちですが、実際には両者は相補的なものです。また、データ分析をする際は、データ収集やデータ分析に自分の願望や先入観が反映されていないかなど、注意する必要があります。
データドリブン経営を実際に成功させることは簡単なことではありません。しかしデータ活用の有効性と重要性がますます増していくなか、データドリブン経営に向けた取り組みは企業にとって不可欠です。本記事を参考に、ぜひ効果的なデータドリブン経営を実現してください。