エンゲージメントマーケティングとは?戦略の基礎と実施方法

スマートフォンの普及によって消費者の購買行動が変化し、従来のような一方的な宣伝方法では売上を伸ばしにくくなっています。そこで企業が取り組まなければならないのがエンゲージメントマーケティングです。本記事ではその概要や具体的な実施方法を解説します。エンゲージメント向上につながるSNSの運用方法を実践してみましょう。

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エンゲージメントマーケティングとは

マーケティングにおいて、エンゲージメントという言葉は「愛着」や「つながり」を意味しています。対顧客のエンゲージメントを意味する場合は「顧客エンゲージメント」、対従業員の場合は「従業員エンゲージメント」として区別して使われます。

そして、顧客との間で強いエンゲージメントを獲得することで売上の向上を目指すマーケティング手法のことを、「エンゲージメントマーケティング」といいます。具体的には、ブランドや商品に対する顧客の愛着度などを客観的な数値で算出し、改善を図ることで顧客の囲い込みを目指す手法です。

実践的な戦略としては、「SNS経由の情報配信やプロモーション」「メルマガ配信」「ユーザー参加型キャンペーン・イベント」などが代表的です。これらを上手く利用し、成功した企業の事例も多数存在します。

なぜ今エンゲージメントマーケティングが必要なのか

エンゲージメントマーケティングが必要とされる背景には、消費者や顧客の行動変化があります。同時に、そうした顧客の行動データを取得・分析する技術が向上したことで、マーケティング施策の方も、大きく変化してきています。つまり「多様化する消費者のニーズに、進化するマーケティング技術によって応えるため」に、エンゲージメントマーケティングが用いられるのです。

オンライン上の顧客の行動・価値観の多様化

まず従来のBtoCビジネスの場合、消費者はテレビCMや新聞の折り込みチラシなどマス向けの一方通行的な広告や宣伝を介して、商品やサービスを認知・購入することが一般的でした。しかしインターネットやスマートフォン、SNSの普及によって消費者の情報源は多様化し、それとともに消費者の価値観や購買行動も大きく変わってきています。

現代では、画一的な宣伝手法ではアプローチできない顧客層が生まれており、企業は「顧客一人ひとりの価値観や好み」に合わせたコミュニケーションや商品開発を行っていく必要がしょうじています。

同様にBtoBビジネスにおいても、顧客は購入前に自ら商品やサービスに関する情報収集を行い、ネットでの口コミや知り合いの評価を参考に複数社の商品・サービスを比較検討するようになりました。今や、営業担当から一方的に発信されてくる情報だけを頼りにすることは非常に少ないでしょう。

そのため売り込む側としては、「顧客企業が今まさに求めている情報」を自社サイトやSNS、Web広告などの媒体を駆使して、適切なタイミングで提供することを意識しなければなりません。こうした活動によって顧客エンゲージメントを高める努力なしには、売上向上が難しくなっているのです。

顧客データの取得・分析技術の向上によるマーケティング施策の拡大

顧客データの取得・分析技術が向上したことで、企業のマーケティング施策の方も拡大・進化しています。顧客データは大きく、数値化が可能な「定量データ」と数値化が難しい「定性データ」とに分けられます。

定量データには年齢や年収といった顧客の属性や購買履歴、Webサイトへのアクセスログなどがあり、これらのデータをMAツールやアクセス解析ツールなどで収集・分析することで、より高度なマーケティングが可能になりました。

対する定性データには、「インタビューや自由記述形式のアンケート結果」「SNSで投稿してくれる内容」「行動観察の結果」などが挙げられます。これらは、数字には現れてこない顧客の本音や潜在的ニーズを探るのに効果的です。これらは一般に、定量データよりも取得・分析が難しい情報です。しかし近年は、AI技術の発達によりビッグデータを機械学習させることで、定量的に分析することまで可能になりました。

マーケティングにおけるエンゲージメントの評価指標

エンゲージメントという概念自体は抽象度が高いため、そのままではマーケティングには活かせません。つまり、エンゲージメントの状態を定量的に把握する必要があります。そこで主に下記3つの指標を設定し、エンゲージメントの目標設定や評価(スコアリング・点数付け)を行います。

(1) NPS(ネットプロモータースコア)

NPSとはNet Promoter Scoreの略で、「企業に対する愛着・信頼の度合い」によって顧客をセグメントするための指標のことです。このような愛着・信頼はロイヤルティとも呼ばれます。

NPSは、2003年にアメリカで誕生したもので、GEやアップルなど大手企業で採用され、その有効性が証明されています。簡単に手順を説明すると、まず「この商品を友人に勧めたいと思いますか?」と顧客に質問して0〜10点で評価してもらいます。

この回答に基づき、0~6点をくれた顧客を「批判者」、7~8点をくれた顧客を「中立者」、9~10点をくれた顧客を「推奨者」に分類します。そして推奨者の割合から批判者の割合を引いた値を、顧客エンゲージメントを示す数値とみなす方法です。

(2) SNS上のリーチ数と反響率

SNS上のリーチ数と反響率を測ることでもエンゲージメントを評価できます。SNSの種類で、投稿に対して付けられるアクションは異なりますが、一般には「いいね」や「フォロー」といった基本的なアクションの総数を、投稿がリーチした人数で割ることなどで、反響率を測定可能です。

(3) マーケティングオートメーションのリードスコアリング

マーケティングオートメーション(MA)ツールのリードスコアリングとは、見込み顧客の行動から購買意欲や興味関心、検討度合いを数値化して顧客を分類する評価指標です。これによって「自社の商品・サービスを購入する可能性の高い顧客」を抽出できるため、効率的な営業活動を行える環境が整います。

エンゲージメントを高めるマーケティング施策

先述のような指標を用いれば、顧客エンゲージメントは、NPSやSNSの反響率、MAツールのリードスコアリングなどを用いて評価できます。もちろん重要なことは、これらによって数値化されるエンゲージメントを高めていくことです。

では、エンゲージメント数値を上昇させるためには、何をすればよいでしょうか。その方法は2つに大別されます。エンゲージメントを有する顧客を「獲得する=数を増やす」方法と、個々の顧客のエンゲージメントを「育成する=質を高める」方法です。以降では、この2つを詳細に見ていきましょう。

SNS運用によるエンゲージメントの獲得

SNS運用によるエンゲージメントは、フォロワー数ではなく「投稿を閲覧した人のうち、アクションを起こした人の割合」で評価します。このエンゲージメント率を測定することで、その投稿が顧客から支持されているかどうかが判断できます。

より具体的には、各SNSについて下記のような数値を確認しながら、エンゲージメントを算出します。

1. Twitterのエンゲージメント

Twitterのエンゲージメントは、ツイートに対する「いいね」や「リツイート・リプライ・フォロー」、そして「リンクがクリックされた数」の総数を、「インプレッション数」で割って計算します。

インプレッションとは、アクションを起こしたかどうかにかかわらず投稿が表示された回数のことです。ツイートをタップして詳細ページを開き、「ツイートアクティビティを表示」をタップすると、詳しい数値を確認できます。

2. Facebookのエンゲージメント

Facebookのエンゲージメント率は、「いいね!」、シェア・コメント・クリックの総数をリーチ数で割って計算します。投稿ごとのエンゲージメント数は左サイドバーメニューの「インサイト」から「投稿のエンゲージメント」をタップすると確認できます。

3. Instagramのエンゲージメント

Instagramのエンゲージメントに公式の計算式はありません。一般には、「いいね」とコメントや保存の総数を任意の分母で割って計算しています。代表的な分母の数値としては、「フォロワー数・インプレッション数・リーチ数」などを用います。

なお、エンゲージメントを確認するには通常アカウントからプロアカウントに切り替える必要があります。切り替え後はプロフィール画面のオプションから「インサイト」→「投稿インサイト」とタップすると、各数値を確認できます。

SNSで有効なエンゲージメントを獲得する運用ポイント

エンゲージメント率向上を目指す際に注意すべきは、「有効なエンゲージメント」を高めることです。ネガティブな要素でエンゲージメントが高まると、いわゆる「炎上」を引き起こす原因となりかねません。ポジティブな要素による有効なエンゲージメントを獲得するために、SNS運用上のポイントを確認しましょう。

1. ペルソナ設定を行い、メッセージを届けるターゲットを絞る

万人向けを狙った投稿が多いと、ユーザー側は運用指針や発信メッセージに一貫性を感じづらくなるため、反響を得られなくなる恐れがあります。そのため事前にペルソナ設定をしっかりと行い、ペルソナを軸に興味関心やニーズを捉え、「ペルソナに刺さる投稿・メッセージ」を発信していくことが重要です。

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ただし、自社に都合のよいターゲット設定を主観的な判断だけで進めてしまうと、実際のニーズとかけ離れた投稿内容になりやすくなります。「アンケート・インタビュー・SNSでの投稿内容」などを調査し、データに基づいて客観性のあるペルソナを設定する必要があります。また、一度設定したペルソナはSNSを運用しながら定期的に更新し、さらに完成度を高めていくことがエンゲージメント獲得のコツです。

2. 投稿の内容やタイミングを各媒体のターゲットに合わせる

「読まれやすい内容」「シェアされやすい時間帯」「適切な投稿頻度」はSNS媒体によって異なります。そのため、複数のSNS媒体を運用している場合は、同じ内容を単に転載することは避けましょう。各SNSで適切な投稿を出し分けると、よりよいマーケティング効果を得られるでしょう。

Twitterの場合は時系列で投稿が表示されるため、タイミングや時間帯はあまり関係がなく、「投稿数が多いほどリーチする可能性が高まり」という特徴があります。また他SNSと比べて、「趣味・興味・関心」を軸とした関係性を構築するのが得意なメディアです。ただし1投稿140文字(全角)までという制限があるため、情報が誤解されることのないよう、十分に文面を精査してから投稿しましょう。

Facebookのアルゴリズムでは優秀なコンテンツが高頻度で表示される仕組みになっており、また新しい情報が重視される傾向にあります。特徴として「週5回を超えて投稿すると、かえって費用対効果が薄れる」という点を持ちます。したがって、投稿回数を1日1回、週2〜3回に絞り、ユーザーにとって有益な最新の情報を提供することをおすすめします。

Instagramは、一般的に早朝や17〜22時頃にアクティブなユーザーが多いとされています。しかしその分ライバルも多く、自社の投稿が埋もれてしまう恐れもあります。自社の発信力やフォロワー数、またターゲット層の生活リズムなどを総合しつつ、投稿時間を判断しましょう。

3. ユーザーとのコミュニケーションを大事にする

ユーザーと双方のコミュニケーションを取りやすいSNSの特徴を活かしましょう。SNSでは消費者の「生の声」を収集できるため、商品開発やプロモーション施策を考える際に役立つ情報が得られます。

自社の投稿に反応があったら、そのコメント内容やシェアのされ方もチェックし、顧客側は「どういう投稿に興味を持っているか」「投稿について、どのような印象や感想を持っているのか」を分析しましょう。それらをフィードバックし、投稿内容をブラッシュアップしていくとより高いエンゲージメントが期待できます。

4. SNS上の数値分析を継続する

「フォロワー数・インプレッション数・エンゲージメント率」を記録・追跡し、施策の効果検証や潜在ニーズの発掘を続けましょう。SNSアカウントに付帯する公式の分析機能でも、基本的な指標はチェックが可能です。

それだけでは物足りないと感じる場合や、複数媒体のSNS上の数値を統合的に管理・分析したい場合は、SNS解析ツールの利用をおすすめします。

マーケティングオートメーションを活用したエンゲージメントの育成ステップ

エンゲージメント育成では、やみくもに取り組んでいても成果は上がりません。適切な方法と手順を知りましょう。ここからは、MAツールを活用したエンゲージメントの育成ステップを紹介します。

ステップ1. エンゲージメントを高めるアクションを重ねる

まずは自社自体に対する興味や、商品・サービスへの関心、そして購買意欲を高めていくリードナーチャリングを実施します。ターゲット層のニーズに応える内容を盛り込んだメルマガ・Webコンテンツ・SNS配信を行い、有益な情報を継続的に適切なタイミングで提供し続けることが重要です。

ステップ2. リードスコアをエンゲージメントとして計測する

リードの行動(資料請求やセミナー参加、メール内のURLクリック、問い合わせなど)や属性(年齢・職業・居住地など)、興味関心(過去の購入履歴、直近1ヶ月のWebサイトの訪問回数など)をスコアリング項目として設定し、採点を実施します。

ステップ3. リードスコアに応じて適切なアプローチをかける

「80点に達したら限定セールや特別クーポンを案内する」「120点以上の顧客にのみ新サービスの紹介を行う」など、スコアに応じて適切なアプローチをかけましょう。またアプローチして終わりではなく、反響を見ながら、採点ルールや「エンゲージメント向上シナリオ」を調整することも必要です。

これらのステップを繰り返しながら、効果を測定し、改善を重ねて、徐々にリードナーチャリングの効果を高めていきましょう。焦らずPDCAサイクルを回し、長い視野で継続することが重要です。

まとめ

エンゲージメントマーケティングとは、顧客と企業間で強いエンゲージメントを獲得することで売上の向上を目指すマーケティング手法です。

SNSで有効なエンゲージメントを獲得するには、ペルソナを明確に設定した上で投稿内容やタイミングをターゲットに合わせ、ユーザーとコミュニケーションを取りながら反応を確かめていく必要があります。また、エンゲージメントを定期的に追跡して、施策の効果検証を続けることも忘れないでください。