セグメンテーションとターゲティングの違い|STP分析の基本を解説

セグメンテーションとターゲティングの違いを正しく理解しているでしょうか。前者は市場や顧客の細分化を指し、後者はセグメントした中からターゲットを定めることを指します。本記事では、双方の違いやSTP分析の基本を解説します。記事を踏まえて正しくSTP分析に取り組み、マーケティングに活かしてみましょう。

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セグメンテーションとターゲティングの違い

マーケティングにおいて、セグメンテーションとターゲティングには明確な違いがあります。

セグメンテーションとは、ある基準に沿って市場や顧客を細分化しグルーピングすることです。ターゲティングは、マーケティング戦略に沿って、セグメントされたグループから任意のグループを選択することです。

たとえば「顧客の購入金額を、高い順からA、B、Cの3つにグルーピングすること」ことセグメンテーションです。そしてセグメンテーションによって分割されたグループから、「自社のマーケティング戦略に沿って、購入金額の一番高いグループAを選択する」のがターゲティングです。

このように、セグメンテーション→ターゲティング、という基本順序と共に、両者を混同することなく理解しておきましょう。後述のように、この基本順序は絶対的なものではなく変更可能ですが、まずはセグメンテーション→ターゲティングとイメージしておきましょう。

STP分析におけるセグメンテーションとターゲティングの位置づけ

セグメンテーション(Segmentation)とターゲティング(Targeting)、そしてポジショニング(Positioning)の頭文字を取ったSTP分析とは、これら3つを軸に行う分析手法です。

自社が狙うべきターゲットを見極め、市場における自社の立ち位置と優位性を見定めるのに役立ちます。

一般にマーケティング戦略を進める時は、まずはターゲットを限定し、そのうえで実際にアプローチすべき層を絞り込んでいかねばなりません。この点で、セグメンテーションとターゲティング、加えてポジショニングが役立ちます。以下のようにこれら3軸を整理して理解しましょう。

1. セグメンテーションとは

セグメンテーションとは、市場や顧客を細分化することです。STP分析においては、さまざまな要素を基に、類似する市場や顧客をグループ分けし、商品やサービスを売り込む層を明確にします。セグメンテーションを適切に施さないと、アプローチの対象が必要以上に広範に渡ってしまうため、マーケティングが非効率になってしまいます。

STP分析では、以下の4変数を用いてセグメンテーションを行うのが一般的です。

  • 人口統計的変数:年齢、性別、職業、所得、学歴、職歴、人種、家族構成など
  • 地理的変数:国、地域、人口、文化、宗教、生活習慣、気候など
  • 心理的変数:性格、趣味嗜好、ライフスタイル、価値観、購買動機など
  • 行動変数:購入日時、購入頻度、購入経路、回数など

近年は、IT技術の発達により、Webにおける顧客の行動データを取得しやすくなりました。そのため、データの種類や数、組み合わせなどでさらにセグメンテーションの切り口は広がります。

2. ターゲティングとは

ターゲティングとは、セグメンテーションで細分化した市場や顧客の中から、どこにアプローチすべきかターゲットを定めるプロセスです。セグメントしただけでは、どこに狙いを定めて攻勢をかけるべきかがわかりません。それを明確にするために行います。

ターゲティングの代表的なタイプは、「無差別型」「分化型」「集中型」の3つがあります。

無差別型は、セグメントの結果を無視するタイプです。「市場を細分化したものの、ほぼすべてのグループにおいて、商品・サービスの需要が認められる」といったケースで有効です。

分化型は、分類した市場や顧客にマッチしたアプローチを行う手法です。自社がさまざまな商品やサービスを扱っている場合に、各セグメントに異なるリソースを投入することで、それぞれの市場に最適化した各マーケティング・営業活動を実行します。

集中型は、見出した1つの市場へ集中的にリソースを投入する手法です。たとえば「マニアックなジャンルの商品」「ターゲット層が狭くかつ明確な高級ブランド」が商材である企業で、採用されやすくなります。特定の市場や顧客のニーズを徹底的に掘り下げられるため、高品質な商品やサービスを提供でき、顧客満足度を高めやすいメリットがあります。

3. ポジショニングとは

ポジショニングとは、自社の立ち位置を明確にするプロセスです。STP分析では、ポジショニングマップを用いて「自社の立ち位置を決めていく」のが一般的です。たとえば、縦軸に「高価」「低価格」、横軸に「シンプル」「多機能」のような要素を配置したマップを作成し、競合他社のポジションを可視化します。

このように、「各社が市場内でどんな顧客をターゲット層としているのか」「特定のターゲット層について、何社が取り合っているのか」などを視覚的に把握しつつ、「その中で自社はどの層をターゲットとするべきか」を客観的に判断していきます。

ポジショニングの最大の目的は、「自社が攻勢をかけられるポジションを見つけだすこと」です。需要が見込め魅力的な市場であっても、強力な競合がひしめいているようでは市場の優位を奪えません。競合との位置関係も明確にしたうえで、自社が優位を取れるポジションを見つける必要があります。

ポジショニングで大切なのは、自社の強みに根拠があるかどうかです。強みの根拠がなければそれに基づいた戦略が取れず、その市場へ進出しても勝ち残れる確率は低いでしょう。また、競合他社から自社を差別化するポイントをアピールすることは重要ですが、「そのポイントにそもそも顧客が価値を見出してくれるかどうか」も考える必要があります。

セグメンテーションとターゲティングの精度を高めるポイント

「セグメンテーションとターゲティングの精度が、マーケティングの成否を分ける」といっても過言ではありません。精度を高めるため、ポイントを把握したうえで取り組みを進めましょう。

1. セグメンテーションの切り口は「顧客のニーズや行動」を軸にする

セグメンテーションの切り口は多々あります。「年齢×性別×所得」「地域×性別×趣味嗜好」など、細かく分けるとキリがありません。無数のセグメントに個別対応するのは現実的ではないため、顧客ニーズや行動を軸に切り口を見いだすことが大事です。

「そのセグメントで顧客ニーズや行動に変化が生じるか」を考えなくてはなりません。ニーズや行動に変化が生じないのなら、ターゲットになりえないためです。ターゲティングにつながらない意味のないセグメントは時間の無駄です。あらかじめニーズや行動を予測して洗い出し、そのうえでセグメントを行うとよいでしょう。

2. 理想のターゲティングと現実的に手が届くユーザーは異なる

理想的な市場が見つかっても、ターゲットへアプローチできなければ意味がありません。たとえ競合が目を付けていないセグメントが見つかったとしても、「そのセグメントへどのように情報を伝えればよいのかわからない」といった状況では、ターゲットにはなり得ないのです。

つまり、絵に描いた餅にならないよう、「自社が実際にアプローチ可能な層」をターゲティングする必要があります。「どこにいるのか・どうメッセージを伝えればよいのか・収益性が見込めるか・定期的なアプローチが可能か」といったことを踏まえたターゲティングが求められます。

正しくターゲティングを行うため、「6Rの原則」を用いて取り組みましょう。以下が「6Rの原則」です。

  1. Rank(優先順位):自社の戦略に沿って優先順位付けが行われているか
  2. Realistic(有効規模):十分な収益性を見込める市場規模になっているか
  3. Reach(到達可能性):自社商品やサービス、メッセージを的確に届けられるか
  4. Response(測定可能性):市場全体や顧客から施策の効果測定を行えるか
  5. Rival(競合状況):競合の数や脅威はどうか
  6. Rate:(成長性):市場の将来性はどうか、現在どのフェーズ(黎明期・成長期・飽和期・衰退期など)にあるのか

必ずしも6Rをすべて満たす必要はありません。「自社にフィットする適切なターゲティングを行えているかどうか」をチェックするための基準として、活用してください。

3. セグメンテーション→ターゲティング→ポジショニングの順番にこだわらない

必ずしも、「S→T→P」の順番にこだわる必要はありません。たとえば「自社の強みが活きる市場はどこか・競合はどの程度存在するか」を分析し→「その市場でメインとなるターゲットは、どんな属性を持っているのか」を分類していく、などP→T→Sという順序でも取り組み可能です。

また、高精度なターゲティングのためにSとTのプロセスを行き来したり、あえてSからPに飛んでデータを収集したりする場合もあります。さらに、顧客のニーズや行動はさまざまな要素で変動するため、現状に合わせてセグメンテーションの見直しに迫られることもあります。

先述してきたように、「自社の強みと課題の把握」「戦略の方向性や優位性の見極め」について、STP分析は非常に有効です。しかし、あくまでマーケティング手法の1つであり、STP分析にこだわる必要はありません。自社の置かれている状況や達成したい目的によっては、ほかの方法を用いたほうがよい結果をもたらすこともあるでしょう。

4. ターゲティング精度の改善には持続的なデータ取得と管理が必要

ターゲティング精度の改善には、データに基づいた取り組みが不可欠です。過去の経験や勘に頼り切らず、「定量的・定性的なデータに基づく仮説の組み立て」と「その仮説の効果検証」とをじっくりと時間をかけて実践していくことが求められます。

しかしながら、持続的なデータの取得や収集、分析を手動で行うのは困難です。ぜひ次のようなITツールの導入を検討しましょう。顧客情報の一元管理や分析に利用できる「CRM」(顧客管理システム)や、顧客のセグメント・スコアリングなどに活用できる「MA」(マーケティングオートメーション)などが代表的です。

成功事例で見るセグメンテーション・ターゲティングの切り口

セグメンテーションとターゲティングの成功事例を知ることで、具体的な取り組みのイメージをしやすくなるでしょう。以下に取りあげる2社は、適切なSTP分析で成功をつかみました。

事例1.ロイヤルブルーティー

ロイヤルブルーティージャパン株式会社は、ワインボトル入りの最高級茶を扱う企業です。数千円~数十万円と高価格帯のお茶ですが、同社は「贅沢な時間」や「特別な日や特別な人との食事」に価値を感じる層をセグメントしました。

ターゲッティングでは、収入額のほかに、「1回の食事に費やす金額」「食事する相手」などの要素を考慮しました。それを踏まえてターゲットを絞り込み、高級ホテルや、バー・レストランなどを販売先として選び、自社商品を「孤高のブランド」として確立しました。

事例2.ライフネット生命

オンラインを介した保険の販売に特化しているライフネット生命が成功した理由も、適切なセグメンテーションとターゲティングを全うしたことです。同社は、「若い人が保険料負担に苦しまず、安心して出産や子育てをできる社会を創造したい」との理念を掲げています。

そこから、同社は「いずれ家庭は持ちたいもののなるべく保険料負担は少なくしたいと考える若い世代」をターゲットとして絞り込んだと考えられます。このケースでは、ライフステージや年齢はもちろん、「結婚の意思があるかどうか」といった要素を軸にセグメントが行われたと予想できるでしょう。

まとめ

セグメンテーションとターゲティングの違いを理解し、ポイントを押さえたうえでSTP分析に取り組んでみましょう。適切なSTP分析により、自社が強みを発揮できる市場や顧客、チャンスを見出せるポジションを把握可能です。効率的に分析を行い、精度を高めるため、ツールの導入も併せて検討してみてはいかがでしょうか。