「マネジメントは管理することが目的ではない」組織づくりで大事にしたい対話を元にデザインするという考え方とは

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「個人を管理することが目的ではなく、個々のWILL(意志)を対話を元に引き出し掛け合わせ、新たな価値を生み出すことがプロジェクトマネジメントでは重要である」

「ハートを揺さぶるデザインで世界を前進させる」というビジョンを掲げ、プロダクト開発、新規事業立ち上げ、ブランドデザイン、デザイン組織支援など、クライアント企業の様々なビジネス課題をデザインの力で解決する株式会社グッドパッチ(以下、Goodpatch)であるが、一時期は組織崩壊により離職率が40%を超えていた時期もあったという。

そこで一緒に組織の立直しを手伝ってほしいと代表の土屋からオファーを受け、2018年の2月にGoodpatchへ入社、現在はDesignDivisionにてプロジェクトマネジメントチーム マネジャーを務める長岡宏 氏だ。

組織の立て直し時には、経営企画室とともにバリュー浸透など組織改革の推進に携わり、また自身のチームのエンゲージメント改善のため、マネジメントスタイルもリセットさせ、チームメンバーとのコミュニケーションの改善含め、チームビルディングを行いエンゲージメントスコアを劇的に改善してきたという長岡氏。

その結果、現在のGoodpatchの離職率は8%へと改善され、2019年にはGoodpatchのマネージャーMVPを受賞。さらには組織立て直しのために行ったワークショップが現在は提供ソリューションとして、ブラザー工業株式会社や多くの企業の組織づくりに役立たれているという。

今回は、そんな長岡氏にマネジメントやプロジェクトマネジメントにおいて大切にしている考え方から、具体的に日々取り組まれていること、また活用しているツールについて語っていただいた。

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プロジェクトをマネジメントするのではなく、デザインすること。ただ管理するだけでは新たな価値は生まれない

インターネットでの情報流通の加速化、テクノロジーの進化などによって、サービスがコモディティ化し、差別化が難しくなっている時代であると感じています。そうした時代においては、多様な価値観から生まれるイノベーティブなアイデアというものが、新たな価値をつくっていく上で非常に重要であり、プロジェクトマネジメントをする立場の人間は必ず意識すべきことであると考えています。

一方で “プロジェクトマネジメント” と聞くと、プロジェクトを管理するという意味合いで捉えている方も多いはずです。しかし、ただ管理しているだけでは新たな価値は生まれませんし、期待を超えるアウトプットは生まれづらいでしょう。

そこで私が大切にしているのが、「プロジェクトは、対話を元にデザインする」という考え方です。プロジェクトマネジメントの目的は、個人やタスクをただ管理することではなく、新たな価値を生み出すことであり、そのためにはメンバーがアイデアを出しやすい心理的安全性の高いチームを構築し、よりよいアウトプットが生まれやすいようにプロジェクト全体を設計する、すなわちデザインすることが求められます。

また、プロジェクトを進める上で発生する問題の多くは、人と人との間に起こります。ダニエル・キムが提唱している「組織の成功循環モデル」という図でも示されているのですが、バッドサイクルの図のように結果を出すことばかりにフォーカスしてしまい、チームメンバーの関係が悪くなってギスギスしてしまうことは珍しくありません。

その結果、メンバーのモチベーションは下がり、受け身で仕事をするようになり、結果の質が下がってしまう。そんな負のサイクルを、実際に経験されたことがある方も多いのではないでしょうか。私もそんな経験をした一人でした。

特に、管理するという意味合いでのマネジメントをしてしまうと、成果や結果ばかりに目が向いてしまい、原因を追求し負のサイクルに陥りがちです。

そうならないためにも、マネジメントをする立場の人間がまず取り組まなければならないのは、グッドサイクルの図のように「関係の質」を徹底的に向上させることです。お互いを理解し合い、尊重し、信頼関係が築けるようになれば、メンバーの思考の質、行動の質は自然と高まっていき、自ずと成果はついてくるものだと考えています。

成果を出すためにもチームに必要なのは、「WHY(なぜやるのか)」という目的思考と個人の「WILL(意志・想い)」への尊重である

どんなに関係の質が向上したとしても、すべての思考と行動の起点となる「WHY(目的・ミッション)」がなければ人は動いてくれません。そこでGoodpatchでは、バリューのひとつに「Inspire with Why(Whyが人を動かす)」を掲げており、「WHY(目的・ミッション)」を元に考えることを大切にしています。

「WHY(目的・ミッション)」を意識することで、常にチーム全員が『目的や目標を達成するために本質的にどうすべきか』を自ら考えて行動するようになり、目的や目標に向かった自発的な行動へとつながります。

また、環境の変化が激しく不確実性が高い現代においては、マネージャーの価値観や考えが絶対に正しいというわけではないため、メンバー個々の「WILL(意志・想い)」を尊重し、そこから生まれるアイデアや意見に耳を傾け、時に信じて任せることもとても重要だと思っています。

その際に注意すべき点としては、直ぐに成果を出すことを意識しないこと。課題や問題にばかりに目を向けて否定しないこと。否定が繰り返されてしまうと、「どうせアイデアを提案しても否定されるだけだし」と徐々にこの人に提案しても無駄と思われてしまい新しいアイデアが生まれない悪循環に陥ってしまいます。まずは否定せずアイデアを受け入れて信頼してやらせてみることが大切です。もしうまく行かなかったとしても成果が出ないことを「失敗」と捉えず「前進や学習」として考えるようにしています。

私自身、昔は自分の中で正しいと感じる価値観や固定観念があり、それを押し付けるような命令型のマネジメントをしたことにより、提案を否定しまくり自分の考えを押し付けるということをしてしまっていました。それによりチームが上手く機能せず成果につながらないという負のサイクルに陥ってしまった経験があります。「WHY(目的・ミッション)」を伝えず、メンバーの「WILL(意志・想い)」を尊重することもなく、「これは仕事だから、やってほしい」というスタンスでただ命令し、ときには叱責することもありました。

それによって、メンバーは疲弊し、離職してしまうという最悪の状況に。

そこでメンバーとの向き合い方を改め、人と人との関係を大事にし、個々のWILLを理解して、彼らのWILLを実現できるよう支援するというマネジメントスタイルに変更しました。その結果、メンバーは生き生きと働くようになり、自ずと成果がついてくるようになっていきました。

そうした経験を通じて、あらためてマネジメントという仕事は、ただ管理することではないのだと。メンバーのWILLに向き合い、個々のWILLをどのように生かし掛け合わせていくか、その結果として新たな価値が生まれるようチーム全体をデザインすること―― それがマネジメントすることなのだと気付かされました。

個人のWILLを引き出し、関係の質を向上させるための3つのポイント

では、どのようにしてメンバーのWILLを理解し、関係の質を向上させていくべきなのか、私が実際に取り組んでいる3つのポイントをご紹介いたします。

1つは、メンバー各々が自分のやりたいことやキャリアパスを言語化する機会を設けることです。漠然とやりたいことの方向性があったとしても、各々の中で内省し、反芻していかないと言語化はできません。

私のチームでは、入社のタイミングで「どんなことを大切にこれまでの人生を歩んできたのか」「どんなことをGoodpatchで実現したいのか」といった「信念(WHY)」を言語化してもらっています。そして定期的にWILL(やりたいこと) / CAN(できること) / MUST(やらなければならないこと)のフレームワークを用いて、何ができるようになったか、どういうことを今後やっていきたいか、そのために何をすべきかを言語化するようにしています。

また、関係の質を高めていくためにはメンバー同士の理解が必要ですが、その人の持つ価値観を理解する上では、どういった経験をしてきたのか、人生の転機でどんな選択をしてきたのかを知ることがとても役立ちます。そのため、私のチームではメンバーに自分史を作成してもらい、モチベーショングラフと共にどういった人生、キャリアを送ってきたのかを整理してもらうようにしています。

自分史サンプル
生きる上での個人の信念・ミッション
仕事をする上での個人の信念・ミッション

2つめのポイントとしては、15分などの短い時間でもいいので、週に1度の頻度でメンバーと1on1の機会を設けることです。1on1はメンバーのための時間としているので、メンバーがどういったことに悩んでいるのか、課題を感じているのかをキャッチアップし、ティーチングやコーチング、フィードバックを通して、問題が大きくなる前に対処するようにしています。

そのため、私はいま10名のメンバーがいますが、一人ずつと毎週1on1を行うことを欠かさず行っています。

また1on1を行ったとしても、お互い信頼感が醸成されておらず本音が言えない関係値であれば、本来相談すべきことが相談できないといったことにもなりかねません。そこで「この人なら相談しても大丈夫だ」という安心感を持ってもらえるよう、誠実なスタンスで傾聴を心掛け、メンバーのことをよく観察することことを心掛けています。

たとえば、コロナ禍だと何時まで業務を行っているかオフラインでの観察が難しいですよね。オンラインでアサインされているプロジェクトのSlackの状況や勤怠を見て、遅くまで残業している日々が続いているかもしれないと考えこちらから情報を取りに行き声がけするなど、より観察を元にアクションをすることが非常に重要だなと感じています。

そして3つめが、会う頻度を増やすことです。ザイアンスの法則で「単純接触効果」というものがあり、人は会えば会うほど好意を持つようになると言われています。その結果、お互いの内面を理解することができ、信頼関係が生まれ、関係の質が向上されていくのです。

ザイアンスの法則「単純接触効果」など関係の質を上げる要素
関係の質を上げるプロセス

特にプロジェクト初期におけるチームビルディングでは非常に重要だと考えており、あえて雑談をする場を設けたり、一緒にランチの時間を活用して食事をするなどを含め、意識的に会う機会をつくることを仕組み化しています。

また、これはクライアントに対しても同じで、Goodpatchでは「偉大なプロダクトは偉大なチームから生まれる。」という言葉を大切にしているのですが、プロジェクトマネジメントでは、クライアントとも「ワンチーム」になるようなチームビルディングを重要視しています。

そうすることによって、心理的安全性が高まり、本音で会話をすることが可能となりプロジェクトでの認識齟齬が少なることはもちろん、発注側と受注側の関係性ではなく、一緒に共通のゴールを目指すパートナーとしての動きが可能になるからです。

プロジェクトをデザインする上で愛用している3つのツール

上述の通り、プロジェクトマネジメントは、個人やタスクを管理することが目的ではありません。個々のWILLを掛け合わせて、新たな価値を生み出すことが目的であり、そのためにプロジェクトを “デザイン” するという発想が重要で、日々使うツールにおいても、メンバー同士のコラボレーションの生まれやすさを重視しています。

一方で、管理するという業務は当然ながら存在するわけですが、シートを作成したり、ドキュメントを整理したりといった、マネジメントするために準備しなければいけないマネジメント外作業が多く存在します。そうしたマネジメント外作業は本来工数をかけて行うべきではないことですから、ツールを使って効率化することも重要です。

そうした考えから、日々愛用しているツールが次の3つです。

01. Strap(ストラップ)

Strapは、オンライン上に制限のないホワイトボードが存在しているような感覚で使えるツールで、様々な情報を簡単にビジュアライズできることが特徴です。

Goodpatchでは思考の整理やアイディアの発想を可視化し構造化することを大事にしています。素速くアイディアをチームに共有できたり、情報の受け手の理解度が深まったり、認識の齟齬を減らすことができたりするためです。テレワーク下では、情報の流通性を担保することが難しいですが、Strapではそれらが可能になるんです。

また、Strapは同時編集が可能なため、たとえばホワイトボードに付箋を貼ってアイデア出しをするようなワークもStrap上で実現できるんです。オンラインでワークショップを実施するのに最適なツールでしょう。

その他にも、様々なテンプレートが用意されているため、プロジェクトマネジメントに必要なマイルストーンやワークフロー、KPTでの振り返りを行うことも可能です。なによりビジュアライズすべき情報を一元管理することができるのが良いところです

02. Google Workspace(旧 Google Apps / G sute)

Google Workspaceの中でも、特にGoogleスプレッドシート 、Googleドキュメント、Googleスライドを活用しています。

Google Workspaceの各ツールの利点は、リンクひとつで共有ができること、また多くの企業ですでに利用されているため、クライアントとプロジェクト進行する上で必要な各種ドキュメントをGoogle Workspaceツールで管理できたりと汎用性が高い点です。

なお、GoogleスプレッドシートやGoogleドキュメントは、基本的にテキストベースでのデータになるため、プロジェクト計画やプロジェクトの課題管理、議事録など、主にプロジェクトのログを残すことを目的に使用しています。

一方で情報に濃淡をつけて伝えるべき内容、たとえばプロジェクトの目的やプロセス、さまざまなワークショップを経て出たアイデアなどは、ステークホルダーへの背景説明や共通認識を得られるようビジュアライズすべく、Strapを使うなどの使い分けをしています。

03.  Confluence(コンフルエンス)

Confluenceは、TODOツールで有名な『Trello』を提供するアトラシアン社のツールで、マネジメント外作業を効率化できるワークスペースツールです。他にもアトラシアン社が提供するアジャイル開発のためのプロジェクト管理ツール『Jira(ジラ)』とConfluenceをリンクさせることで、開発を進めていく上で必要となるドキュメントの多くをJiraとConfluenceの連携でまかなうことが可能です。

Confluenceの最大の利点は、開発に必要なドキュメントのテンプレートが豊富に揃っていること。たとえば仕様書やプロジェクトの計画書、また議事録などといったドキュメントを、無題のドキュメントシートから項目をつくっていこうとすると、非常に多くの手間が発生します。

そういったマネジメント外作業に時間をとられてしまい、本来フォーカスすべきマネジメントが疎かになってしまっては本末転倒です。

Confluenceであれば、そうした開発に必要なドキュメントが揃っており、開発以外でもコンテンツ戦略やセールスアカウント計画など、非常に幅広いドキュメントのテンプレートが揃っています。

さらには3,000以上のMarketplaceアプリでConfluenceをカスタマイズすることも可能です。

編集後記:会社のVISION、MISSIONと個人のWILLを重ね合わせること、その集合体でないと会社組織である必要がない時代

様々なサービスがコモディティ化していく現代において、長岡氏が語るようなプロジェクトデザインによる新たな価値創造は非常に重要だろう。そして、個人のWILLを尊重したプロジェクトデザインという考え方が取り入れられているからこそ、メンバーは自身のキャリアパスを描くことができ、組織に属する理由を明確にすることができる。

最後に長岡氏はこう語る。

「会社のVISION、MISSIONへの強い共感と個人のWILLを重ね合わせ、その集合体でないと会社組織である必要がない時代だなと感じています。個人を管理するだけのマネジメントが通用する時代は、もう終わったのだと認識しなければなりません。

最近であれば副業が一般的になっていますし、フリーランスという働き方をする人も増えてきました。またコロナ禍のいまは、リモートワークも普及し、これまで以上に帰属意識が薄れやすくなっています。

そうしたときに、会社組織としてはVISIONやMISSIONへの共感を元に個人がその会社で働く理由や意義というものをしっかりと示せるかどうかが重要です。自分の描くキャリアパスをこの会社なら描けるだとか、仲間が好きだからとか、その会社で働く理由をいかにつくれるか。

そのためにも、個々のWILLを引き出し、掛け合わせることによって新しいアイデアや価値を生み出していくということが大切です」

長岡 宏

Webデザイナーとして複数のITベンチャーでキャリアを積み、大規模サイトからコーポレートサイト、多様なWebデザイン業務、アートディレクションを経験。 35歳を過ぎてから徐々にマネジメントに移行し、デザイナーチームのリーダー、事業部責任者としてクリエイターの育成や採用、組織・仕組みづくりに従事。 2018年2月にGoodpatchにデザインマネージャーとしてジョイン。 デザイナーとしてのキャリアや組織づくりの経験を活かし、クライアントワークではデザイン組織づくり、組織のビジョン・ミッション策定、チームビルディング、デザイナー採用・コーチング・メンタリングなど幅広く行なっている。

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