日々のお金の動きを記録する現金出納帳には、適正な作成・管理が求められます。しかし、作成方法がわからない方も多いのではないでしょうか。さらに、手書きで作成するのが面倒という課題もあります。
本記事では、現金出納帳の概要や書き方、小口現金出納帳との違い、さらに効率的に作成・管理するポイントについてご紹介します。
現金出納帳の書き方を理解し、効率よく現金出納帳を作成できるようになりましょう。
現金出納帳とは、現金の動きを管理する補助簿
現金出納帳とは、現金の流れを記録しておく補助簿のことをいいます。帳簿上の現金残高と実際に手元にある現金残高が一致しているのかを確認するために用いられ、原則としてお金の動きを正確に把握するために毎日記帳します。
現金出納帳の作成は法律で義務付けられているわけではありませんが、確定申告の書類として提出した場合は他の帳簿と同様に7年間(欠損金のある事業年度は10年間)の保存義務が生じます。
参照元:No.5930 帳簿書類等の保存期間及び保存|国税庁
いくらキャッシュレス決済が普及してきているとはいえ、事業活動を営む上で手元の現金をゼロにしておくことは困難です。そのため現金出納帳は現金の入出金の管理には欠かせないものとしてほとんどの会社で作成されています。
現金出納帳の目的
作成義務がないのであれば、現金出納帳は作らなくてもよいのではないかと思う方もいるかもしれません。しかし、現金出納帳には単に現金の流れを把握するだけでなく、以下のような目的もあります。
会社を出入りする現金の可視化
現金出納帳を作成する目的の1つは、「いつ・どこから・どのようなお金が・どのくらい」入り、また出たのかという現金の流れを可視化することです。
毎日残高を確認していれば、後に使途不明金が発生する危険性を回避でき、少額の誤差であれば原因が突き止めやすくなります。また、少額のずれが積み重なってしまい、帳簿の残高と現金残高が乖離してしまうこともなくなります。
社内不正の抑止
現金出納帳をつけることは、従業員による現金の不正持ち出しや、私物を購入した費用を経費として請求する私的流用といった社内不正の防止にも役立ちます。現金残高を毎日チェックしていれば横領があったとしても早期に発見できます。
帳簿を管理している人が不正を働かないとも限らないため、帳簿の作成者と金庫の管理者を別々に設けたり、担当者以外の社員による定期的な帳簿のチェックを行えば、不正防止を強化できるでしょう。
小口現金出納帳との違いや使い分け
現金出納帳と似た帳簿に「小口現金出納帳」というものがあります。小口現金とは消耗品の購入や従業員の交通費の精算のために事務所や店舗に用意しておく最低限の現金のことで、これらの支払いや補給を記録しておく帳簿が小口現金出納帳です。
現金出納帳と小口現金出納帳のいずれも、現金の流れを記録しておく帳簿という点では同じです。もし小口現金を管理する部署が1つしかなければ現金出納帳の管理のみでよく、小口現金出納帳を用意する必要はありません。
しかし、小口現金を管理する部署が複数にわたる場合、現金出納帳をつけるためにはそれぞれの部署で現金の精算が終わるのを待つ必要があり、非常に効率が悪くなります。そのため会社としての現金出納帳とは別に各部署で小口現金出納帳を用意して、一定期間ごとにお金の管理部門に提出して不足分を補充します。
現金出納帳以外の補助簿
事業活動で使用する帳簿には、決算書の作成のために義務付けられている主要簿と、それだけでは補えない細かいお金のやり取りを記載する補助簿の2種類があります。主要簿には日々の取引を勘定科目ごとに記録する「総勘定元帳」と、勘定科目に関係なく全取引を日付順に記録する「仕分帳」の2つがあり、いずれも会社にとって欠かせない帳簿です。
一方、補助簿は取引内容をより詳細に記録するためのもので、現金出納帳のほかに「預金出納帳」「売掛金台帳」「買掛金台帳」「固定資産台帳」「有価証券資産台帳」などが該当します。これらはそれぞれの会社が必要に応じて作成するもので、会社によっては不要な場合もあります。
現金出納帳の書き方・記入例
ここでは、それぞれの項目や記帳の手順、期末の締め方、ページの繰り越し方など、現金出納帳の書き方ついて解説します。
現金出納帳の記載項目
現金出納帳に記入すべき内容は主に下記のとおりです。さらに前月からの繰り越しと翌月への繰り越しがあればそれも併せて記入します。
- 繰越金額:前ページや前月から繰り越した金額
- 日付:現金の入金や出金があった日付
- 科目:勘定科目を記載(交通費、雑費など)
- 摘要:現金の出入口と費用の内容(○○銀行に入金など)
- 入金:入金した金額
- 出金:出金した金額
- 差引残高:入金額と出金額を差し引きした残高
日次の差引残高であれば「前日の差引残高+当日の入金金額−当日の出金金額」で算出します。 - 合計:入金、出金、残高それぞれの合計金額
- 次月繰越:次月に繰り越す金額
当月の残高をそのまま記載します。
現金出納帳の記帳手順
現金出納帳のおおまかな記載手順は以下の通りです。
- 先頭行に前月からの繰越残高を記載します。
- 日々の入出金額と差引残高を記帳します。
- 月末と期末は二重線で仕切り線を引いて入出金額の各合計を算出し記します。
- 摘要欄に「次月繰越」もしくは「次期繰越」と記載して差引残高の合計額を記載します。
- 月初と期首は改ページしておきます。
期末の締め方
年度末の決算期には、帳簿上の残高と現金残高を照合し、誤差がないことを確認します。期末になっても原因のわからない過不足金が残った場合、勘定科目を「雑収入」もしくは「雑損失」として処理してください。
その期最後の記帳を終えたら直下に二重線で仕切り線を引いて締め、摘要欄に「合計」と記載して、入金額、出金額、差引残高の各合計額を記載します。合計の下には「次期繰越」と記載し、同行の差引残高の欄に直前の差引残高をそのまま記して完了です。
新年度からは改ページして、先頭行に「前期より繰越」と記載してから記帳を始めます。
ページの繰り越し方
ページを繰り越す際は、最終行の摘要欄に「合計」と記載した上でページ内の入金額、出金額の各合計額を記入し、合計直下の摘要欄に「次ページへの繰越」と記載して差引残高の合計額を記載します。
次ページの先頭行には「前ページからの繰越」と書いてから日々の取引を記帳してください。
現金出納帳を適正に作成・管理するポイント
正確さが求められる現金出納帳ですが、計算間違いや記載ミスなどで数字が合わなくなることもあるでしょう。
数字の不一致に気づいた時にはどう対処すればいいのでしょうか。帳簿を適切に管理する上ではどのようなことに注意すべきかとあわせて説明します。
毎日記帳し、1日の終わりに必ずチェックを行う
現金出納帳は毎日記帳し、必ず1日の終わりに帳簿上の残高と現金残高に誤差が生じていないか確認する必要があります。残高が合わなければその日のうちに原因を調査することが大切です。
誤差に気づいていながら対応を後回しにしているとズレが大きくなり、会社からの信用度や仕事の評価に悪影響を及ぼしかねません。転記ミス、計算ミス、記入漏れなど必ず何かしら原因があるはずですが、数字が合わずパニックの状態ではなかなか間違いを発見できないこともあります。第三者に計算し直してもらうとミスが見つかるかもしれません。
どうしても当日中に原因を特定できない場合、不審なお金の動きではないことを示すために差額の調査報告書を作成しておきましょう。あまり頻繁に数字の不一致が起こるようであれば、現金出納帳の作成方法や現金の管理方法の見直しも視野に入れた方がよいでしょう。
残高が合わない際に放置や帳尻合わせをしない
残高が合わないからといって放置することはもちろん厳禁ですが、不足分を自分のポケットマネーから補填したり、余剰分を抜き取ったりするのは不正行為に当たるため絶対に行ってはいけません。どうしても数字が合わなければ勘定科目を「現金過不足」として処理します。前述のように、期末時に数字が合わないものは「雑収入・雑損失」として処理します。
また、数字のミスを見つけた際に修正テープや修正ペンで該当箇所を直すのはNGです。帳簿は書き換えができないようにボールペンで記載するのが常識ですが、消せるボールペンで書いた文字であっても消さないようにしましょう。修正したい箇所はボールペンで二重線を引き、余白に正しい数字を記載してください。
よく使う勘定科目をあらかじめ決めておく
帳簿をつけるときには「どの勘定科目で仕分けをすればいいのかわからない」という疑問が生じがちです。そのため、会社内でよく使う勘定科目はあらかじめ決めておきましょう。
勘定科目の決め方は特に法律で規定されているわけではないため、書類をコンビニでコピーした時の費用など判断に迷いやすいものは会社内で統一しておくと、勘定科目を確認する手間が省けます。
現金出納帳を効率的に作成・管理する方法
現金出納帳を手書きで作成していると手間も時間もかかりますし、何よりミスが生じやすくなることがデメリットです。ここからは、効率的に現金出納帳を管理する方法をご紹介します。
エクセルのテンプレートを活用
現金出納帳はエクセルでテンプレートを作成して管理できます。自社で作成しても構いませんが、インターネット上では様々なテンプレートが公開されており、無料でダウンロード可能なものもあるので活用するとよいでしょう。ただし、近年では会計ソフトが普及してエクセルで帳簿を管理する会社も少なくなりつつあります。
会計ソフトや確定申告ソフトの導入
紙の帳簿やエクセルで管理する場合には、一度「買掛」「売掛」「出金」「入金」といったお金の流れを各伝票に記載してから帳簿に転記する必要があり、余計な手間がかかるうえに人的ミスも発生しやすくなります。
しかし会計ソフトや確定申告ソフトを使えばそのような転記が不要になるため、経理業務にかかる手間と時間が削減され、入力ミスも防げるので効率的です。
会計ソフトや確定申告ソフトを活用すれば、手書きと比べて圧倒的に出入金の記録が楽になります。入力されたデータは自動的に勘定科目ごとに仕分けされシステム上で集計されるため、簿記の知識がない人でも簡単に現金出納帳の作成が可能です。
クラウド型ソフトであれば部署ごとの帳簿なども一元管理でき、かつ社内でリアルタイムに帳簿を共有できるため不正防止などにも寄与します。
まとめ
現金出納帳は会社の現金の出入りを日々正確に記録しておくための補助簿です。作成が義務付けられているわけではないものの、現金の流れをきちんと管理する上ではなくてはならない存在といえます。
現金出納帳は手書きやエクセルのテンプレートを用いても管理できますが、会計ソフトを活用すると仕分けや集計にかかる手間と時間を大幅に削減でき業務効率化が期待できます。またヒューマンエラーの防止にもつながるため、ぜひ導入を検討してみてはいかがでしょうか。