誰もが情報発信できる時代だから身につけたい「自分・自社の意見」の見つけ方

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「構造化して自分の意見を発信することが、読み手の興味をひくためには大切」

そう語るのは、800名以上ものほぼ全メンバーがリモートワークをしていることでも知られている株式会社キャスター取締役​​CRO(Chief Remotework Officer)を務める石倉秀明氏だ。

石倉氏はリクルートHRマーケティングやリブセンス、そしてDeNAを経て、2016年より現職に就任。そして『会社には行かない – 6年やってわかった普通の人が評価されるリモートワークという働き方 – 』(CCCメディアハウス)などの著書を持ち、『Live News α』(フジテレビ系列)ではリモートワーク企業経営者としてコメンテーターを務めるなど、各方面で情報発信を行っている。

そこで今回、インターネットを使って情報発信が当たり前になったいま、あらためて情報発信において大切にすべきマインドセットやポイントなどを石倉氏に語っていただいた。

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感想ではなく意見を発信しなければ、読み手に何も残らない

いまは誰でも発信ができる時代で、何かしら伝えたいことがあるという個人や企業は多いでしょうが、何かを伝えるためには、その人なりの視点を交えた “意見” を発信することが重要です。意見がないと読み手に引っかからない、読み手に何も残らない発信になってしまいかねません。

しかし、「思ったことを言うことが意見」だと捉えている方もいますが、それはただの感想であり、意見というのは自分の立場や知り得る情報から導き出されたものです。まずは感想と意見というのは別であるということを理解することが大切です。

私がコメンテーターとしてテレビ出演する際は つまらない “感想” を言わないためにも、まずは何かしらニュースを見た瞬間の自分の感情というのを置いておくということを大切にしています。

そしてニュースの全体像をリサーチして、その事象の構造を理解し、自分の立場を踏また上でどう思うか、自分の意見は何かを考えるようにしています。

たとえば人気お笑い芸人が解散するというニュースに対してコメントする場合でも、「いろいろあったんだろうな」という感想ではなく、「相手は分かってくれるだろうという前提でコミュニケーションを続けていた結果、認識のズレが大きくなっていって、不満が募っていった」など構造をまず理解するわけです。

その上で、スタートアップの経営者であったり、新しい働き方の価値観を提唱している人としてキャスティングされている私の視点から、「これは日本の職場でも起こりうる話で〜」と社員間コミュニケーションやリモートワークがうまくいかない企業の話へと展開していくんですね。

このように、リサーチして事象全体の構成要素を明確にし、それぞれの要素がどう関係しているのか、すなわち事象を構造化させないと、自分の立場からの意見というのは言えません。自分の意見を考えるためには、リサーチや構造化といった前段階を踏む必要があって、それがなければ誰でも言える、ただの感想になってしまいます。

意見を発信するには、発信する前段階の設計、整理が極めて重要です。それなしに、意見は生まれてきません。これはコメンテーターだからではなく、情報発信をする個人や企業の担当者は確実に意識すべきことでしょう。

「社長との距離が近い」ことは、何の採用アピールにもならない。市場を理解し、自社独自のポイントを発信すること

昨今はオウンドメディアしかり、企業ブランディングや採用広報など、様々な目的で情報発信を行う企業や経営者が増えています。しかし、ただ闇雲に情報発信を続けたとしても意味がありません。

私が他社の情報発信を見ていて「残念だな」と感じるのが、次の3つです。

まず、何を伝えたいのかわからない、目的のないコンテンツが多いということ。たとえば多くの企業は自社のオウンドメディアで社員インタビューを発信していますが、「大企業を辞め、スタートアップを選んだ理由」みたいな社員インタビューコンテンツって非常に多くて。大体転職する人って大企業から転職するか、中小・スタートアップから転職するかのどちらかで、特段珍しいことでもなんでもないわけです。

そういった社員インタビューひとつとっても、他社がやっているから自社もやっているといった様子で、目的なく情報発信をしているケースは多く見受けられます

一方で目的が明確であれば、誰にどういったことを伝えるべきか、そしてどう届けるべきかとコンテンツのデリバリーまで設計することが大切であることは一目瞭然でしょう。しかし、多くの企業は目的がないため、コンテンツをつくることばかりに意識がいってしまい、デリバリーを軽視してしまっているのです。

2つめが、KPI設定が間違っているということです。たとえば「自社を知ってもらうために、面接の前に求職者に読んでほしい」という目的でつくったコンテンツであれば、面接時にコンテンツを読んだかどうか確認して目的が達成されているかを図るべきところを、シェア数とかPV数をKPIにしてしまい、目的とKPIにズレがあるというのはありがちです。

また、採用目的の記事を1記事発信してすぐに採用が増えるなら、いまごろ多くの企業は採用に困っていませんから、そう簡単に結果は出ないわけです。それにも関わらず、KPI設定が正しくないゆえに「効果がない」と判断してしまい、採用広報を辞めてしまうケースは往々にしてあるなと感じています。

私はテレビ出演も基本的には採用を目的としているのですが、テレビ出演を機にTwitterのフォロワーが増えていったんですよ。そしてTwitterを通じてキャスターのことであったり、キャスターの他のメンバーのことも知っていってもらえたりします。また、私が面接を担当していた初期のころは、面接にくる方の7割がTwitterで私のことをフォローしてくれていてることが確認できて。「テレビ露出が最終的には採用に繋がっている」となり、露出する機会を増やしていこうと判断したんですね。

このように、求職者のTwitterフォロー率もKPIとして次の活動の判断軸になるわけで、目的に対して何をKPIとすべきかは考えるべきことです。

最後に3つめが、自社や自分のユニークネスポイントを理解していないということ。社長との距離が近いみたいなことって、スタートアップとかベンチャーだったら当たり前で、なんの差別化要因にもならないのに、多くの企業は採用コンテンツで「社長との距離が近い会社です」といったことを書いてしまっています。

そうした、他社と同じことを発信してしまう要因は、人事であったりコンテンツを担当している人が、他社や市場のことを知らないからなんですね。自分たちのユニークネスポイントを理解できていないため、結局よくあるコピーを使ってしまうわけです。

「社長との距離が近い会社」というのは、言ってしまえば感想でしかないわけで、他社の働き方や求職者が求めていることなどをリサーチして構造化し、それを踏まえて自社ならではの伝えるべきことを伝えなければ、求職者の興味をひくコンテンツにはなりえないでしょう。

読み手の興味をひく発信をするために意識すべき3つのポイント

リサーチ・構造化し、独自視点での発信を行うこと以外にも、読み手の興味をひくために大切なことがいくつかあります。具体的に私が意識していることの1つめのポイントが、主語の大きさを変えることです。

私の場合、 “仕事” としてTwitterを使っており、Twitterで発信する内容としてはリモートワークであったり働き方であったりと、いくつかテーマがありますが、主語の大きさによって発信した内容が届く相手が異なってきます。

たとえば「キャリア」という主語で発信する場合、多くの方々は自身のキャリアについて考えていることでしょうから、興味を持ってもらえる層も広がります。一方で「採用」という主語の場合は、採用担当者や経営者など一部の層に限られる話題になります。このように主語の大きさによって、読み手の幅が狭まったり広まったりするわけです。

そして、2つめのポイントは主語の広さによって伝える内容の深さを変えるということです。主語が広い場合は、みんなにわかりやすく伝え、主語が狭い場合はめちゃくちゃ詳しく、深く伝えることを意識しています。

経営者向けの発信であれば、私だから知り得るTipsや、マニアックな話が刺さったりするんですね。一律に同じ深さで発信するのではなく、主語の広さと内容の深さを意識することが大切です。

最後に3つめに、受け手視点を忘れないことです。たとえば「今年一番の記事は?」と聞かれても、あまり覚えていなかったりしますが、そうした情報の受け手としての自身の感覚を覚えていれば、何か伝えたいことがある場合、何度もタッチポイントを持つためにはどうすべきか、どうタッチポイントを設計すべきかという発想になるはずです。

しかし発信側になると、そうした受け手視点の感覚を忘れてしまいがちなんですよね。結果、何か情報発信するというときに、「とりあえず、手軽に始められるnoteで発信しよう」といった具合に、発信側の都合に合わせたタッチポイントの設計をしてしまうといったことが往々にして起こりえます。

上述の通り、コンテンツはつくるだけでなくデリバリーまで考えなくては、どんな素晴らしい意見であっても届きません。自身の受け手としての視点、感覚を忘れずに発信を行うことが大切なのです。

構造化や思考の整理に活用する3つのツール

このように独自の視点で発信していくためには、物事を構造化させていったり、思考を整理していく習慣をつけることが重要です。そこで私が日々構造化や思考の整理に使っているドキュメントツールや情報発信ツールが、次の3つです。

01. Evernote

もともと使っていたということもありますが、Evernoteはマークダウン記法で入力できるため、メモを効率よく取れることが気に入って、いまでも活用しているツールです。

主に何かしらのニュースに関するメモ書きとして使っており、リサーチや構造化して気づいていったこと、またコメンテーターとして話すことなどを書き溜めていっています。

共有リンク機能があるため、外部の方にもリンク1つ送れば共有できるというのも、気に入っている点です。

02. esa

esa(エサ)は社内wikiツールで、キャスターで私が管掌している事業部だと議事録や打ち合わせメモ、また各マニュアルなど、ドキュメント化して残しておきたい情報をすべてesaに残しています。

事業の方向性などの情報も、生煮えの状態であってもesaにまとめていますし、何か検討していることがあれば、その検討している背景から検討事項に至るまで、すべてをesaに掲載しています。

esaが良いのは、Evernote同様、マークダウン記法で記述ができること。マークダウンに慣れ親しんでいる方にとっては、非常に使いやすいツールであるでしょう。

03. YOUTRUST

YOUTRUSTはキャリアSNSなのですが、ツイート以上、note以下の文量の発信に最適なツールでと思います。たとえば長い文章を書くのは、正直情報を付け加えていけば文量は長くなっていくので簡単なんですよね。

それよりも、伝えたいことを短くまとめることのほうが難しくて、ちゃんと事象を理解して、構造化しないと、伝わる文章にはなりません。YOUTRUSTはビジネス寄りのコミュニケーションをする場なので、そうした構造化や思考を整理して、自社の魅力をどう伝えるかというトレーニングに最適なツールです。

編集後記:コミュニケーションOSが「話す・聞く」から「書く・読む」へと変化するいま、構造化は必須のビジネススキル

自社や自身のブランディングのために、TwitterやFacebookなどのSNSやnoteなどで情報発信を行う企業や人は確実に増えている。しかし、情報過多の昨今においては石倉氏が語るように、感想と意見を区別し、独自視点での発信でなければ、ありきたりな発信になってしまい、読み手の心に残らず、ブランディングに寄与することはないだろう。

今回、石倉氏のお話を伺い、自分の意見を言うには、調べる、そして考えるという行為が含まれるということが特に印象的であった。感想ではなく意見を述べられるようにするためにも、事象についてリサーチし、構造化するというステップを踏むことの重要性をあらためて感じさせられた。

最後に石倉氏はこう語る。

「いまは、コミュニケーションのOSが 『話す・聞く』から、『書く・読む』に変わっているんですね。そのため、読まれる文章を書くためには、ちゃんと考えて、事象を構造化して理解するというスキルはもはや必須

さらにそうした構造化するスキルは、文章だけでなくビジネスにおいても重要です。他社のビジネスを構造化して理解することができれば、そのビジネスの課題に気づくことができ、それを踏まえてどう応用していくかといったことが考えられるからです。

私はこれまで様々な事象について、なぜそうなっているのかをロジックツリーに落とし込んで構造化する癖をつけてきました。構造化は訓練していけば身につきますから、ぜひロジックツリーに落とし込む癖づけをしてみてください」

石倉 秀明
株式会社キャスター

キャスター取締役CRO(Chief Remotework Officer)800名以上ほぼ全員がリモートワークの会社を経営。 著書3冊→http://amzn.to/3wn3lh1 | FNN系列「Live News α」レギュラーコメンテーターetc

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