「社員の心理的安全性の確保する」多くの部署に入り自走する組織を作り続ける立役者のチーム作り
「営業からマーケティング、システム的な課題から採用まで、会社を成長させていく上で解決しないといけない組織課題は、なんでも対処してきた」
そう語るのは、家事代行サービスの先駆けであり、業界最大手の株式会社ベアーズにて取締役を務める片切真人氏だ。
今年創業23年目を迎えるベアーズは、家事代行サービスのパイオニアであり、従業員数500名以上、登録スタッフ数16,000人超、サービス提供数は累計250万サービスを超える、業界のリーディングカンパニー。高い品質で国から認証を受け、国家戦略特区で外国人家事支援人材も受け入れている。
そんなベアーズに片切氏は社員が10名にも満たない時期に入社し、全国に支社をかまえる規模となった現在のベアーズの成長に貢献。さらには家事代行サービスの他、ベビーシッターサービスや高齢者支援サービスなど、ベアーズの様々な事業展開を推進してきた片切氏であるが、彼の業務範囲は非常に幅広い。
営業から開発、そしてバックオフィスに至るまで部門問わず、課題感のある部門に参画し、組織の立て直し、そして目標に対して組織が自走していくための仕組みづくりを行ってきたという。
そこで今回は、チームビルディングの立役者としてベアーズの成長を支えてきた片切氏に、組織の立て直しで大切にしていることやマネジメントのポイント、またそうした自走する組織へと推進していく上で活用しているツールについて、語っていただいた。
組織の立て直しでまず大事にすべきは、メンバーの心理的安全性の確保である
私はチームビルディングをやろうというよりも、隣りの部署が何か課題を抱えているのを発見したら、自分だったらこう解決していくだろうと考え、準備をしちゃうんですね。そして、いざ課題解決を任されたら、考えていたことや準備していたことを実行する、というのをやっていて。なので会社が成長するためであれば、なんでもするというのが私のスタンスです。
そして組織の立て直しを行い、戦略が勝手に動いていくような、自走する組織になったら私の役目は終わりだと思っているので、そこで私は離れて、また別の部門に入っていくというのを繰り返しています。
そんな私がいろいろな部門を見てきてわかったことは、うまくいっていないチームや組織が抱える課題というのは、多くは「人をしっかりと見る」ということができていないことに要因があるということです。
そこで私が組織の立て直しを進めていく上でまずメンバーに指示することは、Googleカレンダーにきちんと予定を入力してもらうこと。そうすると予定がぎっしりと埋まっていて休みが取れていないメンバーや、キャパオーバーになっていそうなメンバーというのが浮き彫りになっていきます。
そうしたメンバーに対して、まずはしっかりと休みをとるよう声がけをしたり、タスク分散できないか調整していくんですね。
なぜそんなことを最初にするかと言うと、大抵の場合は新しいリーダーが入ってくると、メンバーというのは「気合が足りない、もっと頑張れ」といったことを言われるんじゃないかと不安に思っているですよ。
そこで、私の場合は真逆の行動をとっていて、まずはちゃんと休ませる。またキャパオーバーになっていないかをチェックしたりして、「この人の下では生きていけそうだ」と思ってもらえるよう、心理的安全性の確保をすることを重視しています。
心理的安全性の確保ができなければ、リーダーへの不信感が拭えていない状態ですから、どんなに組織を立て直していこうと頑張ってもうまくいかないんですよね。
また恐怖訴求でのマネジメントは、短期的な成果を出すことには効果があるかもしれませんが、長期的に成果を出し続けることはできません。よいパフォーマンスを出し続けるためには、メンバーの心理的安全性が確保され、生き生きと働ける環境をつくることが大前提として重要だなと思っています。
「バランスのとれた目標設定が、組織の自信に繋がっていく」気づかぬうちに組織崩壊させないために
うまくいっていない組織の課題の多くは、「人をしっかりと見る」というのができていないことに要因があるとお伝えしましたが、それはすなわち「マネジメントの基本は1対1である」ということを理解していないことでもあります。
優秀な人材を集めて組織をつくり、仕組みをつくれば組織は勝手に機能すると思っていると、必ずと言っていいほど組織の崩壊が起こります。しかも、組織というのは見えにくいところからヒビ割れしていくので、組織崩壊が気づかないうちに進んでいるということは珍しくありません。
特にバックオフィス系の部門は、いつの間にか溺れているというケースが多くあります。というのもバックオフィスは会社の中でも日の目を浴びづらく、コストセンターとみられやすく、マネジメントしようにも「頑張れ」と鼓舞するだけになりがちです。
結果、キャパオーバーになってしまい、給与ミスなどのトラブルが発生したり、ストレス過多で退職してしまうなど、組織として機能していない状況になるのです。
そういったことを避けるためにも、リーダーはやはり人をしっかりと見ることを大切にしなければなりません。一人ひとりに対して、どういったことに悩んでいるのか、困っていることはないかを把握することが重要です。
そのため、私はメンバーの日報は必ず目を通すようにしています。ただ、進捗報告やタスク報告だけになってしまうと、よい報告ばかりが出てきがちなため、メンバーとの1on1を欠かさず行うことも大切です。
そして目標設定がうまくいっていない組織というのも、多く見受けられます。組織立て直しの際にリーダーは高い目標を掲げがちですが、目標を目標として機能させるためには、「自分たちならやれる!」と奮起し、達成することで自信に繋がるような、バランスのとれた目標設定が重要です。
以前、元日本ラグビー監督のエディー・ジョーンズさんの本を読んだのですが、そこには「昔の日本人選手は、心のどこかで体の大きさが違うから外国人選手には勝てるわけないと思っていた」といったことが書かれていて。そのため、いくら綿密な戦略を立てて、練習方法を変えたりしても、はじめから諦めていたら意味がないと。
そこでまずは、高すぎず低すぎない目標設定を行い、達成感とともに「自分たちはやれるんだ」という自信をつけていくことを大切にしたそうです。その結果、みなさんご存知の通り、2019年のラグビーW杯で日本代表はベスト8進出という大躍進を遂げたわけです。
これはビジネス組織でも同じで、メンバーに自信がなければ、何か施策を実行しようにも実行力が伴いません。営業組織であれば、自信がないと「どうせ売れないんだろうな」と消極的な行動になってしまいがちです。
また、組織に自信がない状態で懇親会をやったりしても、一時的にモチベーションがあがるだけで、根本的な解決には繋がりません。そこで私は半年近く費やし、適切な目標を設定して自信をつけるということを行います。
特にいまのコロナ禍では、外的要因で目標達成できない状態が続いてしまいがちです。そうしたときは、あらためて適切な目標設定を行い、自信を失わないようケアしなければなりません。
このように、マネジメントの基本は1on1であることを理解し、人をしっかりと見ること。そして適切な目標設定を行い、組織に自信がついていくこと。それができれば、メンバーは「こういったことをやっていいですか?」など、戦略さえ示せば主体的に動いてくれるような自走する組織へと進化していくのです。
自走する組織へと導くために実践する3つの取り組みとは
では、私が自走する組織へと立て直しを行う際に、具体的に取り組むことが下記の3つです。
1つめは、さきほども少し触れましたが、毎日メンバーの日報に目を通すことです。いま私の部下は100名ちょっといますが、毎朝1時間近くかけて全員分の日報を読んでいます。やはりリーダーは「自分が部下のことを一番見ている」と自信を持って言えるくらいでないといけないなと思うんですね。
仮にそこを効率化させようとして、会議で報告するような仕組みにしてしまうと、本質的な課題が把握できなかったり、部下は恐縮してしまって良い報告ばかりになってしまったりするため、必ず日報に目を通すことが大切だなと。
そして日報を書く習慣がない場合は、まずは日報をみんなが書く仕組みをつくることが重要です。またメンバーの日報にフィードバックすることも重要で。
そのため各メンバーの上長には、部下の日報に必ずフィードバックすることを徹底させています。また日報をあまり書かないメンバーや内容が薄いメンバーには、返信する形で書く流れをつくったり、声掛けして日報を書くように促したりと、日報は本当に大事にしていますね。
2つめは、メンバー同士で切磋琢磨する仕組みをつくることです。たとえば営業部門であれば、毎日自動でSlackに営業ランキングが送られるようにしていたり、クライアントとの商談後に商談成果と一言をSlackに全社員に発信するようにしていたりするんですね。
そして、そうした発信に対してスタンプやコメントを返したりとリアクションがあることで、盛り上がっていきますし、「あいつが頑張ってるから俺も頑張ろう」と切磋琢磨していくようになります。
なお営業ランキングにおいては、よくある棒グラフでTOPと最下位がひと目でわかるようなものではなく、上位にフォーカスを当てた見せ方が重要だと思っていて。というのも、最下位のメンバーに対して「お前はダメだ」ということを伝えたいわけではないんですね。
なぜなら、最下位のメンバーは言われなくても自分が最下位だと分かってますから、すでに落ち込んでるじゃないですか。それをわざわざ傷口をえぐるようなことをする必要はなくて、TOP3とかを大きく見せて、あとはチラッと載っているくらいのバランスにしたりすることが大切だなと。
そして3つめは、メンバーの情報のインプット量を増やすことです。情報量が多ければ、アイデアの種になりますし、気になる情報があると興味が湧いて、勝手にいろいろ調べたり考えたりしますよね。そうした思考の連鎖は、必ず仕事にも活きてきますし、何よりビジネスマンとして個々の成長に繋がるもの。
また、情報量の違いで仕事の質は変わり、個々人の視座が高くなるなというのを感じていて。当然、知っていることが増えれば、できることも増え、自信に繋がっていきますから、自走する組織づくりにおいてインプットを増やすということは大切です。
そこで平日は毎朝欠かさずに、私が気になったニュースをSlackに配信しています。内容も経済から新サービスのリリース情報、IPO銘柄や医療など様々。基本的にはいくつかのキーワードでGoogleアラートを設定していて、そこからピックアップして配信しています。
また社内には営業のプロやマーケティングのプロなど、各領域のプロがいますから、そうしたメンバーを巻き込んだ勉強会も定期的に開催したりもしています。
組織を立て直し、仕組み化を行う上で活用する3つのツール
私の仕事の半分は自信をつけさせること、そして日報の仕組みをつくり、切磋琢磨できる仕組みをつくり、情報共有の仕組みをつくることだと思っています。
そこで私がそれぞれの仕組みづくりを行う際に、どのようなツールを使っているのかをご紹介します。
01. Google スプレッドシート
様々な日報ツールが世の中にはありますが、日報を書く仕組みがそもそもない場合は、まずは費用をかけずに、無料ではじめられるツールでもよいと思っています。実際、私はスプレッドシートを用いて、メンバーには日報を書いてもらっているんですね。
また日報ツールによっては書いて終わりで、過去に自分が記入した日報を振り返りやすいような、一覧性のあるUIになっていないケースも多くあります。しかしスプレッドシートであれば、私はタブごとに各メンバーの1ヶ月分の日報が書けるようにしているため、自分のタブを開けば、その月の過去の日報が振り返られるようにもなっています。
なお、シートタイトルを「日報」としてしまうと、日報文化が定着していない組織では精神的プレッシャーがあるため、私は「キャッチボールシート」と名付けて管理しています。
02. Slack(スラック)
過去にも様々なチャットツールを利用したことがありますが、Slackの利点は様々なツール等と連携できること、そしてリアクションが簡単にできることです。そのため、切磋琢磨する仕組み、情報共有する仕組みづくりとして、Slackは非常に重宝しているツールです。
たとえば先ほど触れたデイリーで配信している営業ランキングも、自社の基幹システムと連携し、Slackへ自動配信をしています。そうすることで、わざわざメンバーが自ら営業ランキングを見に行くなどといった労力をかけずに、自分たちの営業成績を把握することができます。
またカスタマーサクセスツールとして導入しているZendeskもSlackと連携しており、顧客対応で期日が迫っているタスクを自動でSlackに通知させるなどの使い方もしています。
03. Zoomミーティング
昨今のコロナ禍により、打ち合わせをリモートでやることが一般的になりましたが、私たちはこれまで会議室を押さえて開催していた社内勉強会もリモートで開催するようになりました。その際に利用しているのが、Web会議ツールのZoomミーティング(以下、Zoom)です。
たとえば「商品の販売テクニック」や「企画のつくり方」といった様々なテーマで勉強会を開催しているのですが、Zoomでは配信内容を録画できるため、リアルタイムに参加できないメンバーも、録画データを閲覧し、キャッチアップできることが利点です。
さらにリモート参加となったことで、勉強会に参加する心理的ハードルも下がり、他部署からの参加メンバーも増えているんですね。結果的に社内のノウハウシェアが加速し、一部のメンバーたちだけのノウハウだったのが、いまは全社のスタンダードになったりといったことが起きています。
他のビデオ会議ツールもたくさんありますが、Zoomが一番安定した配信が可能だなと感じています。アフターコロナでも、Zoomは使い続けたいツールです。
編集後記:大切なのは仕組み化によって、より個々人を見れるようにすることである
チームビルディングの仕組み化と聞くと、「いかに効率良く組織をつくっていくか」という発想をしてしまう人もいるかもしれない。しかし、片切氏のお話を聞いていて印象的だったのは、全員の日報を読んだり、1on1を大切にしたりと、時間をかけてでも一人ひとりをしっかりと見るということだった。
片切氏は最後にこう語った。
「ブレてはいけないのは、仕組み化して何もしないではなく、仕組み化して、より個々人を見れるようにすることです。真摯に向き合っていた社員が辞めてしまい、心が折れてしまったことも過去にはありました。そこで社員とドライに向き合い、効率よくマネジメントしようとしたこともあったのですが、やっぱりうまくいかないんですよね。
1対1で向き合ってマネジメントをするということは諦めてはいけないことなんだなと。人をしっかりと見てマネジメントするということ自体は仕組み化してはいけないんです。愚直にやるしかない。
だからこそ、スケジュール調整だったり、情報共有だったりの “マネジメント外活動” を仕組み化して効率よく行うことで、よりマネジメントに時間を割けるようにすることが大切なのだと思います」
株式会社ベアーズの取締役です。 セールスやって人材教育やってマーケティングやってカスタマーサポートやってHRやってシステム開発やったり好奇心を大切に生きてきた結果ポリバレント性がウリになりました。