近年、将来的な採用を見据えた人材と継続的なコンタクトを取る「タレントプール」という新たな人材管理方法がトレンドとなっています。しかし、その必要性や具体的な構築法が分からず、頭を悩ませている担当者も少なくないようです。
タレントプールとは自社に合った候補者の情報を一元管理することです。入社が叶わなかった優秀な人材とのコンタクトを途切れさせないようにし、タイミングに合わせて求人案内を出すことで、機会損失を防ぎ採用に結びつけることができます。
本記事では採用活動の効率を上げるために押さえるべきポイントと、具体的な活用事例を紹介します。ぜひタレントプールを自社に導入すべきか検討してみましょう。
タレントプールとは
タレントプールとは、才能の意味を持つ「タレント」と、蓄積を意味する「プール」を合わせた言葉です。企業にとって有望な人材の情報を中長期的に管理するデータベースをタレントプールと呼びます。
タレントプールは、世界的な経営コンサルタント会社である「マッキンゼー・アンド・カンパニー」が2001年に発表した調査報告書の中で謳った考え方です。自社に興味を持つ候補者の情報を一元管理して、自社への潜在的な転職層の確保につなげます。
タレントプールは、企業側と候補者側の「タイミングの不一致」により採用に至らなかったようなケースに対しても有効であり、タレントプールを活用してコミュニケーションを継続しておけば、お互いのタイミングがマッチしたときに、素早く採用へとつなげられます。具体的なケースは下記のとおりです。
- 採用したい人材が複数名いるが、採用枠が少ないため採用できない。
- 即入社してほしい企業側の希望に対して、候補者の調整がつかず採用に至らなかった。
- 採用したい人材がいても、その候補者にふさわしいポジションがない。
タレントプールを構築するメリット
タレントプールの構築により、採用活動におけるさまざまな効率化が期待できます。具体的なメリットは以下4つです。
- 過去に不採用になった人材や内定を辞退した人材への再アプローチ
- 採用プロセスの効率化
- コストの削減
- ミスマッチの防止
過去に不採用になった人材や内定を辞退した人材への再アプローチ
タレントプールを導入すると、採用を辞退されたり、スキル不足で採用しなかった人材と関係を維持できます。コミュニケーションがいつでも取れる状態にあれば、条件がマッチしたタイミングで採用したい人材に再アプローチをかけたり、スキルや経験が身についた後に改めて自社へ取り込んだりすることが可能です。
例えば、転勤のある部署で「スキルは申し分ないものの家庭の事情で全国転勤はNG、残念ながら採用に至らなかった」という候補者がいたとします。これまでの採用方法では、この時点で企業と候補者の関係性は終わっていましたが、タレントプールではここから将来的に再アプローチするために、関係性を継続します。
双方のタイミングがマッチするまでに要する期間は、長期にわたる場合がほとんどです。良好なコミュニケーション関係をいかに維持するかが、メリットを得るための大切な鍵となります。
採用プロセスの効率化
企業が採用活動を行う際のプロセスは「採用計画の策定(求める人物像の設定)→募集(求人広告の出向、人材紹介サービスへの依頼、自社の採用サイト・SNSの運用、説明会の開催など)→選抜(書類選考・面接)」といった流れが一般的です。
しかし、ポジションに空きが出るたびに、このようなプロセスを踏むとなると、リソースに大きな負荷がかかります。特に、採用した人材がなかなか定着しないとなれば、コスト面での負担も懸念されます。
このようなケースにも、タレントプールは有用です。ポジションに空きが出たタイミングでデータベースから適した人材を見つけ出し、スカウトするまでの一連の作業を円滑に進められます。
コストの削減
タレントプールの導入は、採用活動にかかるコスト削減につながります。なぜなら、データベースを活用することで、新たに候補者を探すためのコストが不要となるからです。
従来の採用活動では、求人広告費や人材紹介サービスの費用、採用サイトの設置費用といったさまざまな経費が必要です。また、急な休職・離職者が出れば、これらのプロセスをこなさなくてはならない人事担当者の負担も大きくなってしまいます。
人材確保までに時間を要してしまえば、社内の生産性低下や残業の増加も考えられます。タレントプールで採用活動を効率化すれば、あらゆるコスト削減に期待が持てるのです。
ミスマッチの防止
採用のミスマッチ防止にも役立ちます。なぜなら、事前に候補となる人材とコミュニケーションが十分に取れていることで相互理解が深まり、入社してから業務内容などにミスマッチを感じる可能性が減るとみられているからです。
採用した人材が早期離職してしまえば、企業は再び採用コストを費やさなければなりません。早期離職の原因としてよく挙げられるのが「期待していた業務内容と違う」「入社前と働いてみてからの労働条件にギャップがあった」などです。
タレントプールの構築の流れと方法
タレントプールの構築は、以下のステップで進めます。各段階のポイントをしっかりと押さえて、実践に活かしてください。
- 採用したい人材の定義
- 母集団の形成
- データベースの作成
- 定期的なコミュニケーション
- タイミングを図ってスカウト
- データベースを更新し続ける
- コミュニケーションを定期的にとり続ける
採用したい人材の定義する
タレントプールの構築で最も大事なのが、採用したい人材の定義です。どのような人材が必要なのか、自社の事業への適性があるのはどういった人物なのかを明確にします。この過程で欲しい人材像を見誤ると、今後の採用活動に大きな影響が出るおそれがあります。
母集団を形成する
自社にマッチする人材をSNSなどあらゆるタッチポイントから集め、母集団を形成します。企業の説明会などのイベント開催や、コーポレートサイト、SNSなどを使ってタレントプールを実施していることを伝え、自社に興味を持ってくれる人材を広く募ると効果的です。
母集団からデータベースを作成する
母集団からデータベースを作成します。その際、タレントプール機能を搭載したシステムを活用すると便利です。昨今、人材情報の管理を目的としたさまざまなサービスが提供されています。
候補者のデータを一元管理して、必要な人材へダイレクトにアクセスできたり、情報を細かく分類して見える化につなげたりできるツールは、採用活動の効率化に大きく貢献します。
なおタレントプールはプライベートな情報を扱うため、セキュリティ性への配慮が十分になされたツールを選択することが大切です。候補者が安心して登録できる環境を整備してください。
定期的なコミュニケーションをとる
データベースに登録されている候補者に対して、企業からコミュニケーションを継続し相互理解を深めるための定期的なアプローチを行います。SNSやメールマガジン、イベントへの招待など、さまざまな手法により候補者との接点を創出します。
タイミングを図ってスカウトする
人材を必要とするタイミングが訪れたら、蓄積されたデータの中から最も適している人材をスカウトします。候補者にとって転職を考えるタイミングであったり、長年のコンタクトで業務内容に魅力を感じていたりすれば、スカウトを承諾してもらえる可能性が高まります。
タレントプールの活用のポイント
タレントプールを活用してスムーズな採用を実現させるために、押さえておきたいポイントが2つあります。
データベースを更新し続ける
自社の事業内容や経営戦略の方向性によって、必要とする人材も変化するものです。そのため、プールした候補者とコミュニケーションを取りつつも、採用したい人材の定義に候補者の情報を照らし合わせて、アップデートを行います。
また、候補者側が一定の期間が経っても自社に興味を持てないままであったり、将来的に採用できそうになかったりする場合は、データベースから外すことも必要です。将来的に採用可能な人材にピンポイントかつ効率的に働きかけが行えるように、情報を更新し続けることが重要なのです。
コミュニケーションを定期的にとり続ける
候補者と定期的にコミュニケーションを取り続けることが大切です。候補者の近況が把握できるようにメールやSNSなど定期的にやり取りできる関係性を作っておくことが大切です。接点があることで、必要な時にタイミングを逃さずコンタクトを取ることができます。候補者の都合を考えない一方的なアプローチは、不信感を招く恐れもあります。業界や自社に関する有益な情報を発信して、自社とつながるメリットを感じてもらえるような内容を意識しましょう。タレントプールには、自社からのアプローチに対して、どのような反応があったのかも蓄積するようにしてください。
タレントプールを構築できるサービス
採用管理システム
採用管理システムは、求人サイトごとの応募状況や応募者の個人情報、選考の進捗、採用担当者の評価など、採用活動における情報管理全般をサポートするツールです。
採用管理システムを利用し続けることで求職者・採用者の情報が有益なデータとして蓄積されていきます。これらのデータはタレントプールを構築する際に役立つでしょう。
HRMOS採用
株式会社ビズリーチが提供する「HRMOS」は、採用に関する包括的なサポート体制が整っているシステムで、企業の採用活動を強化してくれるツールです。採用に関するデータの見える化を実行して戦略的な採用活動へとつなげます。
求人票の作成や面接の日程調整をはじめ、人材紹介会社とのやり取り、候補者の選考ステータスも含めた一元管理を実現するだけでなく、採用活動の課題抽出にも有用です。
Talentio
履歴書データや求人媒体との連携など、手間のかかる作業を自動化する「Talentio」は、採用コストの削減に有用なツールです。タレントプールにも活用でき、面接日程を調節する際には日程調整用のURLを候補者に送り、日程を選択してもらうだけで完了するなど、あらゆる手間を削減してくれます。
中途採用の活発化により、一貫したステップでの採用が困難なケースにも対応している柔軟性が魅力です。
HERP Hire
200社以上の企業が導入している「HERP Hire」は、採用管理の負担低減を実現してくれるシステムです。約20の求人媒体と連携が可能で、応募情報の自動取り込みにより、情報入力の手間を削減します。候補者の情報共有はもちろん、面接日程の調整も簡単に行えるため、採用業務の効率化が実現します。
また、採用成果のレポートを職種別で行うなど、採用にかかわるメンバー全体のコミュニケーションを円滑にしてくれます。
タレントマネジメントシステム
タレントマネジメントシステムとは、従業員の個人情報・スキル・経験などの人材データを一元管理し、戦略的な人材育成や人材配置に活かすためのツールです。
タレントプールの元となるデータベースもタレントマネジメントシステムで作成できます。候補者のデータを一元管理して、必要な人材へダイレクトにアクセスしたり情報を細かく分類して見える化につなげたりと、非常に便利なツールです。
カオナビ
カオナビは、株式会社カオナビが提供するタレントマネジメントシステムです。タレントマネジメントシステムの中でも大きなシェアを誇っており、2,000社以上の導入実績があります。
受賞歴や研修履歴、資格の有無、年次、役職などのスキルだけでなく性格診断・ストレスチェック・モチベーションなどの数多くの項目における社員の情報を簡単に整理できます。そうすることでパフォーマンスの高いメンバーの可視化ができ、効果的な人員配置を簡単に行えます。
また、 管理職候補者リストや新規プロジェクトメンバーなど、自社オリジナルのカテゴリーごとにリストも作成できるため、配置管理や後継者管理が容易です。
Workday ヒューマン キャピタル マネジメント
Workday ヒューマン キャピタル マネジメントは、ワークデイ株式会社が提供するタレントマネジメントシステムです。大きな特徴として、独自の機械学習システムによって各従業員のスキルを自動で判別できることが挙げられます。
さらに、業務において将来必要となるスキルを見出だすこともできるため、不足しているスキルも把握することが可能です。
従業員のデータをレポーティング・分析することで、組織のニーズに合ったスキルや構成、パフォーマンス、人財獲得、ダイバーシティなどの情報データをグラフで可視化できます。企業にとって最適な人員配置が可能なツールといえるでしょう。
タレントパレット
タレントパレットは、株式会社プラスアルファ・コンサルティングが提供するタレントマネジメントシステムです。
従業員のデータを顔写真で一覧にできる点が大きな特徴で、顔写真をクリックするだけでスキルや経歴、勤怠などのあらゆる人事データを閲覧することができます。
データを元にドラッグ&ドロップで異動シミュレーションや後継者人材の選抜を行うことが簡単にできるため、初めてタレントマネジメントシステムを導入する会社にもおすすめです。
人事評価システム
人事評価システムとは、目標設定や自己評価、上長からのフィードバックなど、一連の人事評価プロセスで生じるデータを管理します。
エクセルや紙ベースで発生していた手間がなくなり、各従業員の評価データがシステム上に集約されるので、データの集計や分析も短時間で処理が可能です。
タレントプールを作成する際、人事評価システムに蓄積された人材データも大いに活用できます。
HRMOS評価
HRMOS評価は、株式会社ビズリーチが提供する人事評価システムです。従業員の過去から現在に至るまでのデータはもちろん、目標の変更履歴やメンバーとのコミュニケーション履歴といった情報も一元管理できるため、スムーズに評価業務を行えます。
また、カスタマイズの柔軟性にも長けており、役割や役職に応じて評価シートを細かく設計し、MBOやコンピテンシー評価などの様々な種類の評価に対応可能です。
導入後に何かわからないことがあれば、問い合わせ窓口から運営会社に直接相談できるため、初めて人事評価システムを導入する会社にもおすすめです。
MINAGINE 人事評価システム
MINAGINE 人事評価システムは、株式会社ミナジンが提供する人事評価システムです。社員数100名以下の中小企業に特化したシステムで、オンプレミスのように自社でサーバー運用する必要がありません。
システム導入のみであれば最短3日で完了する点も魅力です。また、評価結果においては人事担当者による評価調整を行った後にクラウドにボタンをクリックするだけでデータを蓄積できます。
また、CSV出力機能も搭載しておりExcelやGoogleスプレッドシートといった外部サービスにも対応可能です。さらにPDF化にも対応しているため、面接時にプリントアウトして持参することもできます。
WiMS/SaaS人事考課システム
WiMS/SaaS人事考課システムは、株式会社ソリューション・アンド・テクノロジーが提供する人事評価システムです。クラウド上で人事評価を完結させることができます。
評価シートはクラウド上で対象者に自動配布され、進捗に関してもリアルタイムで可視化が可能です。
また、評価を行った対象者の結果から評価傾向値を確認できることから、偏った評定を防止にもつながります。評価者が入力した評定値は、係数をもとに相対評価・絶対評価といったそれぞれの集計方法に基づき自動集計されます。より正当な評価結果を取得することで、従業員のモチベーションアップが期待できるでしょう。
タレントプール活用の事例
実際に、採用活動でタレントプールを活用している企業の事例をご紹介します。自社の課題と照らし合わせながら、参考にしてみてください。
LUSH
バスボムなど入浴剤で人気のナチュラルコスメブランド「LUSH」は、ビジネス利用に特化したSNS「LinkedIn」を活用して、募集中のポジションを一覧にして候補者を募る方法を採用しており、製品やブランドに関するニュースを発信しています。
同社は、化粧品のテストのための動物実験の反対や先住民族の権利、テキサス州の中絶禁止法への反対など、企業としての見解・理念が明確に伝わるメッセージを発信しています。
スキルだけを重視せず、そのような企業理念に共感した候補者を募集することで、企業にマッチした人材の獲得につなげているようです。
DELL
世界最大級のコンピューターテクノロジー企業「DELL」は、公式サイトからタレントプールの候補者を募っています。エントリー方法はメールアドレス、電話番号、スキルに関するレジュメなどをアップロードするというシンプルなものです。
2030年までに、購入された全ての製品の再利用とリサイクルを行うことや、多様性やユニークな視点を大切にするといった企業としてのスタンスを発信して、自社の理念にマッチする候補者を集めています。
まとめ
自社で長く活躍してくれる人材を採用するために、タレントプールの活用は有効です。タレントプールは、企業が候補者と長期的なコミュニケーションを取ることにより、スピーディーな採用だけでなく、雇用のミスマッチ防止など、企業の採用活動において大きなメリットをもたらしてくれます。
ただ単に導入しただけでは、タレントプールの導入効果は最大化できません。定期的なアプローチの継続や常にデータベースを更新するなど、必要なポイントを押さえながら、適切な改善と運用に取り組みましょう。