スコープマネジメントとは?目的やプロセス、成功のポイント

プロジェクトにおいてはタスクや作業範囲、成果物を十分に共有できていないために作業の遅延やコスト増加のリスクを被るケースが頻繁に起こることが課題です。

これらを防ぐにはプロジェクトのタスクを分解し、適切に割り当てることと、作業範囲の確定や成果物を定義することが重要であり、それらをコントロールする力も必要です。リスクを最小限に抑えて無駄のないプロジェクトを進め、顧客のニーズに沿った成果物を生み出すのに役立つのが「スコープマネジメント」です。 

スコープマネジメントとは、プロジェクトの目標や必要なタスクを定義することで、無駄なタスクの発生や作業漏れを防ぐ管理手法です。スコープマネジメントを用いることで、成果物やタスクの範囲が明確になり、ゴール達成までの過程で発生するブレを正しながら、完遂に導く事ができます。

本記事ではスコープマネジメントの意味や実施のプロセス、活用のポイントを解説します。また、プロジェクトの管理を効率的に行えるツールについても紹介するので、プロジェクトを推進する際はぜひ導入を検討してみましょう。

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スコープマネジメントとは

スコープマネジメントとは、成果物と必要なタスクを明確に定義し、環境や状況に応じて柔軟に変更するマネジメント手法です。

「scope」は「範囲」を意味する英単語であり、ビジネスの領域では「何をするのか」と「どこまで行うのか」という作業範囲を意味します。つまり、業務の「scope(範囲)」を設定し、必要に応じて「management(管理)」する手法がスコープマネジメントです。

プロジェクトを完遂するためには、たどりつくべきゴールを設定し、そこから逆算して目標達成までの道筋を明確にしなくてはなりません。こうしたプロジェクト管理における代表的な手法に「PMBOK(Project Management Body of Knowledge)」があります。

PMBOKとは、米国の「PMI(Project Management Institute)」という組織が定義したプロジェクト管理に関する知識体系です。

引用:プロジェクトマネジメントの知識集=PMBOKの考え方や活用方法!

PMBOKはプロジェクトマネジメントにおける世界標準と言われており、「5つのプロセス」と「10の知識領域」で構成されています。そして、10の知識領域の一つが「スコープ管理」であり、要約すると「要求事項から作業範囲と成果物を明確にする」といった意味合いで定義されています。このPMBOKにおける、スコープ管理に該当する管理手法がスコープマネジメントです。

プロダクトスコープとプロジェクトスコープ

スコープマネジメントには、2種類のスコープが存在します。プロジェクト全体で生み出されるサービスや文書などの成果物を指す「プロダクトスコープ」と、実行すべき作業内容を示す「プロジェクトスコープ」です。ここではそれぞれ詳しく説明していきます。

プロダクトスコープ

プロダクトスコープは、目標達成に向けて「何を作るのか」を定義するもので、「成果物スコープ」とも呼ばれます。成果物とは、最終的なゴールだけを意味するものではなく、プロジェクト全体を通して作る必要があるものすべてを指します。たとえば、システム開発の場合、最終的に納品するシステムやプログラムだけでなく、各段階で作成される仕様書や設計書、スケジュール管理表なども成果物です。

スコープマネジメントでは、まず開発すべきシステムやプログラム、仕様や機能要件といったプロダクトスコープを明確かつ詳細に定義し、関係者全員で共有しなくてはなりません。プロダクトスコープを定義・共有することで、達成に何が必要なのかを俯瞰的な視点から把握できるため、要件や仕様の抜け漏れを防止するとともに責任の所在を明確化できます。

また、プロダクトスコープを定義することで、業務状況の変化に対して柔軟に修正・変更できる点も大きなメリットです。システム開発の現場では、発注者からの要求で機能の追加や仕様の変更が生じるケースは珍しくありません。

プロダクトスコープが適切に設定されていれば、必要な成果物の全体像を可視化できるため、追加・変更に応じてスケジュールや優先順位の再設定が可能です。

プロジェクトスコープ

プロジェクトスコープは「作業スコープ」とも呼ばれる概念で、ゴールへたどりつくために「何を実行するのか」を定義したものです。

「システム開発」というゴールは一つでも、そのゴールへたどりつく道筋や実行すべきタスクは複数あります。プロジェクトを円滑に進めるためには、成果物を創出するために必要な作業を個別具体的に明確化しなくてはなりません。

システム開発の基本的な工程は「計画立案」→「要件定義」→「設計」→「事前テスト」→「開発」→「事後テスト」→「運用」というプロセスをたどり、さらに各工程にそれぞれ複数のタスクがあります。

たとえば、「要件定義書の作成」をプロダクトスコープと定義した場合、発注者へのヒアリングや機能要件・非機能要件の明確化、既存システムの現状分析や新システムの方針策定といったタスクが必要です。

この工程毎に必要なタスクを一つひとつ細分化し、具体的な言語や数値として落とし込んだものがプロジェクトスコープです。プロダクトスコープが「ゴール」を定義するものであるならば、プロジェクトスコープはそのゴールに至る「プロセス」を明確化する概念といえます。

このように必要な作業を過不足なく抽出し、チームが実施すべきアクションを作業単位に細分化する管理手法を「プロジェクトスコープマネジメント」と呼びます。

スコープマネジメント実施プロセス

プロセス作業内容成果物ポイント
計画を作成定義や方向性を固めた上で、スコープマネジメント計画書を作る。スコープマネジメント計画書プロダクトスコープとプロジェクトスコープそれぞれをどのように定義・コントロールするかを文書化することが重要。
定義づけ要求事項文書を基にスコープを定義する。スコープ記述書要求事項文書にはプロジェクトの前提条件、仕様や機能、タスク等が記してある。スコープの定義はステークホルダーの要求事項や意見と一致させる必要がある。
妥当性の確認定義したスコープを各方面で確認する。妥当性のあるスコープの確立発注者やスポンサーなどが定義したスコープを確認する段階。認められなかった場合は、修正・変更を実施。
コントロールの実施スコープコントロールを行う。再定義していくプロセス。進捗状況に応じて、スコープを修正・変更・追加・削除する。

スコープマネジメントを実際の業務領域に落とし込むためには、以下4つのプロセスが必要です。

  1. スコープ計画を作成する
  2. スコープの定義をする
  3. スコープ妥当性を確認する
  4. スコープコントロールを行う

1.スコープ計画を作成する

スコープの定義やマネジメントの方向性を具体化し、スコープマネジメント計画書にまとめるステップです。スコープマネジメント計画書とは、ステークホルダーの要求を整理し、どのようにプロダクトスコープとプロジェクトスコープを定義・コントロールしていくのかという方針を文書化した資料を指します。

スコープを定義する前に、まずは成果物の量や品質、その達成に必要なタスクなどをすべて把握しなくてはなりません。このプロセスを踏まなければスコープが曖昧になるため、予算や工数、スケジュール管理などの見積もりに差異が生じ、プロジェクトの進捗に多大な影響を及ぼします。

スコープの曖昧性を排除するためにも、まずは成果物や作業範囲をどのように管理するかを計画書に落とし込む必要があるのです。

2.スコープの定義をする

計画策定後は、ステークホルダーの要求事項を踏まえた上でスコープを定義します。プロジェクトの目的や前提条件などを明文化したプロジェクト憲章と、仕様や機能、タスクなどを記した要求事項文書をもとにスコープを定義し、スコープ記述書に落とし込みます。

この記述書は、後にプロジェクトスコープをさらに分解し、タスクの洗い出しを行う「WBS(Work Breakdown Structure)を作る段階においても基礎となるものです。

スコープの定義によってプロジェクトの成否が大きく左右されるため、スコープマネジメントにおける最も重要なプロセスと言っても過言ではありません。そのため、スコープはチーム単独で定義するのではなく、すべての利害関係者と意見を一致させ、共有する必要があります。

こちらの記事をチェック
WBSとは?目的や作成方法、WBSを利用すべきタイミング

3.スコープ妥当性を確認する

発注者やスポンサーなどのステークホルダーが、明確に定義したスコープを確認するステップです。システム開発であれば、要件定義書やテスト計画書、仕様書や設計書など、各工程におけるすべての成果物に対して、要求事項や品質基準を満たしているかを検査します。

妥当性が認められなかった場合は、ステークホルダーの意見をもとに修正・変更を実施しなくてはなりません。

プロジェクトは自社の経営層や各部門はもとより、発注者やスポンサー、金融機関や取引先など多くの関係者によって構成されています。そして、プロジェクトの成功とは、これらすべての関係者に満足と利益をもたらすことといえます。そのためには、計画初期の段階において、すべての関係者がスコープの妥当性を確認・共有する必要があるのです。

4.スコープコントロールを行う

スコープコントロールとは、業務を進める上で何らかの問題が顕在化した場合に、状況に応じて適宜スコープを修正・変更・追加・削除するプロセスを指します。プロジェクトが当初の計画通りに進むケースは稀であり、多くの場合はスケジュールの遅滞や追加発注など不測の事態が発生します。

たとえば、システムのプログラム設計を一部アウトソーシングしていると仮定し、外注先が納期の延期を申し出た場合、そのシステムに関わるすべてのスコープを修正・変更しなくてはなりません。このように、スコープの状況を監視し、差異や変更が生じた場合、必要に応じて再定義するプロセスがスコープコントロールです。

スコープマネジメントのポイント

スコープマネジメントを実施する上で重要となるのが以下4つのポイントです。

  • ステークホルダーの要求には優先順位をつける
  • タスクの分解はモレなくダブりなく
  • 関係者全員が成果物を共有する
  • マネジメントの負担を抑えるためにツールを利用する

ステークホルダーの要求には優先順位をつける

業務を進める上で、コストの増加やスケジュールの遅延などの問題が顕在化した場合、優先順位を設定して対応する必要があります。

重要なのは、ステークホルダーに対してどのような基準で優先順位を設定するかの合意を得ることです。そのため、重要度と緊急度のマトリクスを用いてスコープに優先順位を設定し、対外的に影響を与える重要度の高い要素から優先的に取り組むといった判断基準の明確化が求められます。

タスクの分解はモレなくダブりなく

プロジェクトの失敗を招く要因の一つとして挙げられるのが、タスク分解の曖昧性です。プロジェクトを円滑に進めるためには、成果物を具体的に定義し、目的の達成に必要な作業範囲を明確にしなくてはなりません。

これらが曖昧だと、各工程にタスク漏れや担当者の重複が発生してしまい、結果としてプロジェクトの管理に遅滞を招きます。そのため、プロジェクトの達成に必要なタスクを網羅的に分解していかなければなりません。

関係者全員が成果物を共有する

プロジェクトの成功とは、ステークホルダーに利益をもたらすことであり、そのためには利害関係者全員が成果物を共有する必要があります。発注者と受注者の双方でスコープを確認できる共通の成果物があれば、何らかの問題が生じた場合でも柔軟にスコープコントロールの実施が可能です。

たとえば、機能要件と非機能要件の一覧を記した文書を情報共有ツールを活用して共有することで、双方がプロジェクトにおけるスコープの認識を共有でき、情報漏れや認識のずれを防ぐことができます。

マネジメントの負担を抑えるためにツールを利用する

プロジェクトを成功に導くためには、プロジェクト計画書に基づいてすべての業務を滞りなく進めなくてはなりません。しかし、プロジェクトの膨大な情報量を手作業でマネジメントするのは非常に困難です。重要な場面においてヒューマンエラーが発生する可能性が排除できない点も見落とせません。システム連携や自動化が進めば、それらのリスクは低下します。

そこでおすすめしたいのが、プロジェクト管理ツールの導入です。プロジェクト管理ツールは、タスク管理機能やスケジュール管理機能、情報共有機能など、プロジェクト管理の効率化に特化したソリューションです。プロジェクトを円滑に進められるようになり生産性向上にもつながるため、導入を検討する価値は十分にあります。

スコープマネジメントにおすすめのプロジェクト管理ツール

スコープマネジメントをより効率化させていくには、プロジェクト管理ツールを上手く活用していくことが求められます。プロジェクト管理ツールはスコープ計画の作成やスコープのコントロールにおいて大いに役立つでしょう。

ここでは、スコープマネジメントにおすすめのプロジェクト管理ツールを3つ紹介していきます。

Backlog

Backlogは、株式会社ヌーラボが提供するプロジェクト管理ツールです。プロジェクト管理に必要な機能が1つにまとめられており、プロジェクトの計画や人員リソース、プロジェクトの進捗をBacklog上で一括管理できます。

特に進捗管理方法が豊富で、ガントチャートやバーンダウンチャート、Gitネットでワークなど状況に合わせて使用可能です。

さらに、バグ管理やバージョン管理機能も備わっており、Backlog単品で業種を横断した管理が実現できます。

Asana

Asanaは、Asana Japan株式会社が提供するプロジェクト管理ツールです。主な機能として、プロジェクトの開始から終わりまでを時系列で整理するタイムライン機能や、プロジェクトの進捗状況やメンバーのリソース状況を一目で確認できる機能などが挙げられます。

また、Asanaは企業の下層部から出た課題を起点とするボトムアップ型のプロジェクトにも活用できるため、企業や組織の課題解決にも役立ちます。

Redmine

Redmineは、ファーエンドテクノロジー株式会社が提供するプロジェクト管理ツールです。完全無料であるにも関わらず、有料ツールの機能と比べても遜色ありません。

ソースコードが公開されているため自社サーバーに実装もできますが、もしサーバー管理をしたくない場合には有料版も用意されています。

タスクの情報をチケットとして作成し、担当者・期限・詳細説明など1つのタスクに関する情報を細かく設定することでタスクの細分化が図れます。

また、チケットには更新されると該当者に通知される機能や優先度や期限などでソートできる機能もあることから、タスクの見落としを防止できるでしょう。

まとめ

スコープマネジメントは、プロジェクトの成果物や作業範囲を明確化するとともに、必要に応じて柔軟に変更し、完遂できるように管理するマネジメント手法の一つです。「何をするのか」と「どこまで行うのか」を明確に定義するプロセスであり、プロジェクト全体の成功と失敗に大きな影響を及ぼします。

スコープマネジメントを最適化できれば、関係者全員がプロジェクトを俯瞰的な視点から捉えられるため、問題発生時においても柔軟かつ的確な軌道修正が可能です。ぜひ本記事を参考にしてスコープマネジメントに取り組んでみてください。