「そもそもTODO化しない」事務処理能力ゼロのぼっち社長が実践するパフォーマンス最大化のための自動化術

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「二兎を追って二兎を得られる世の中を創る」というビジョンを掲げ、リクルートキャリア在籍中に株式会社HARES(ヘアーズ)を創業、そして2017年に独立し、複業研究家 / カタリストとして活躍する西村創一朗氏だ。

西村氏は、副業禁止の企業が9割以上であった2013年に複業をスタート。会社員×経営者の二足の草鞋を履く形で、仕事、子育て、社外活動などパラレルキャリアを実践し続け、現在は働き方改革の専門家として個人や企業向けのコンサルティングを行い、2018年には自身のナレッジをまとめた書籍『複業の教科書』を出版。

また、人・組織・事業のためのカタリスト(触媒)としても10以上のプロジェクトを推進・参画する他、HRマーケターとして企業の採用課題解決に取り組むなど、まさにパラレルキャリアの第一人者である。

そして「社員は雇用しない」というルールのもと、 “ぼっち社長” として様々なプロジェクトや案件に関わっている西村氏であるが、「自分は事務処理能力がゼロなので、いかに自動化するかを大切にしている」と語る。

そこで今回、西村氏に “ぼっち社長” やフリーランスは限られたリソースをいかに有効的に活用すべきか、また自動化のポイントや日々自動化のために活用しているツールについて語っていただいた。

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自分という限られたリソースしかないぼっち社長が大切にすべきは「自分にしかできないことは何か」を考え続けること

僕は会社員時代にHARESを立ち上げましたが、当初はHARESだけに専念して独立するつもりはありませんでした。しかし2016年に娘が生まれ、「娘と過ごす時間を最大化する」ために “育休的起業” を決意、娘が小学校に上がるまでの5年間という期間限定で、「スケール志向の事業はつくらない(あえて伸ばさない)」「社員を雇用しない」「資金調達はしない」というルールで独立しました。

それで “ぼっち社長” になったわけですが、リソースの最適配分というのが企業経営の基本であるのに対し、僕の場合は使えるリソースが自分しかいないんですよね。そのため、リソースが有限であるということと常に向き合い続けることがぼっち社長の宿命で、いかに無駄を徹底的に省くかが鍵となってきます。

そこで僕が取り組んでいるのが、ヒトがやらなくていいことはどんどん自動化していくということです。たとえば問い合わせメールに対しても、自動返信で対応したりテンプレを活用して返信したりと自動化できることは自動化させています。

複業研究家 / カタリスト 西村創一朗 氏

また、ヒトがやらなくてはいけないことはできるヒトに任せる、アウトソースすることも大切にしています。定例打ち合わせの議事録やアジェンダ作成、提案書作成など、ドキュメントまわりの作業業務は基本アウトソーシングをしているんですね。

提案書作成をどうやってアウトソーシングするのかと聞かれることもあるのですが、僕が考えて作業をお願いするというのではなく、目線を合わせて自分で考えて作業できるような信頼できる方をアサインし、お願いしています。

やはり餅は餅屋。たとえば大きい企業だとなぜか自前主義で、アウトソーシングせずに自社で採用しようとしがちですが、スタートアップであればスピード感を損なうよりも、その道のプロに任せ、共につくっていくという発想が広がっています。

ぼっち社長やフリーランスも同じで、必ずしもすべてを自分でやろうとしないというのは非常に大切な考え方です。自分という限られたリソースしかないからこそ、「自分だからこそできること」「自分にしかできないこと」は何かを常に考えることが重要なのです。

複数のプロジェクトや案件に関わっていると、TODOリストに書いているうちに他のタスクを忘れてしまうくらい、タスクが多くなりがちです。そのため、タスク過多でキャパオーバーになってしまい、結果やるべきことにリソースを集中できないといったことにならないよう、いかに自分でボールを持たないようにするか。

たとえば、僕の場合は打ち合わせの後には必ず30分、タスク消化のための時間を設けており、TODOリスト化するのではなく、打ち合わせ後すぐにタスクを消化するようにしたり、自分で手を動かさずに済むよう自動化させるだとか、アウトソーシングするなど、そもそもTODO化しないといった発想が大切だなと感じています。

自分のパフォーマンスを最大化させる環境をデザインできなければ、疲弊して仕事が「こなし仕事」になってしまう

ぼっち社長やフリーランスに成り立ての人が陥りがちなのが、自分がやらなくてもいいことを自分でやってしまうことだと思います。僕自身、過去にリソース配分を間違えてしまい、自分のキャパシティを超えた業務量を抱え、結果的にメンタル面で弱ってしまったことが何度かありました。

特に会社員から独立すると、いままでバックオフィスがいたり、部下やアシスタントがいたりして、自分のミッションに集中できる環境があったのが、全部を自分でやらないといけない環境へと一変します。

そこでセルフマネジメントという言葉を勘違いして、自分ひとりでなんとかしようとしてしまうケースが多い。そして独立直後はご祝儀発注のような形で案件が多かったりするのに対し、すべて自分でやろうとしてしまうがゆえにパフォーマンスが低下し、案件をただ “こなす” だけになり、クライアントが離れていってしまうといったケースは少なくはないように見受けられます。

しかし、会社にバックオフィスなど間接部門があるように、ぼっち社長やフリーランスであっても、実はツールや業務アシスタントサービスなどを活用することで自分のミッションに集中できる環境はつくれるんですね。

そのため、何が自分のやるべきことで何をやるべきでないかを見極め、あらゆる外部リソースやツールを活用して、いかに自分のパフォーマンスを最大化させるための環境をデザインできるかが重要であると思います。

そしてツールは気分によってパフォーマンスが変わるということはありませんが、アウトソーシングする場合は「誰に依頼するか」という人選が非常に大切です。

ヒトに依存しないような業務であれば業務アシスタントサービスに依頼してもよいでしょうが、ビジネス成果に関わるような業務は、ちゃんとしたアウトプットが期待できる方に依頼しないと、指示出しや修正など想定以上のコミュニケーションが発生し、「アウトソーシングしたのに余計に手間が発生してしまった」ということになりかねません。

そこで僕の場合はスキルだけでなく、人柄面も大事にして人選するよう心がけており、基本的には人づてに紹介してもらっています。そしてスキルフィットではなく、バリューフィットでアウトソーシングパートナーをアサインしています。

また実力があるにも関わらず、自分を安売りしてしまい、単価の安い仕事を多く抱えてしまって疲弊してしまうといったケースもあるでしょう。しかし、どれだけアウトプットの質が良かったとしても、発注者側から値上がりを提案するということはほぼありません。

そのため、安売りをしないということがまず大事ですし、単価感が見合う案件をいかに生み出すかという発想も非常に重要です。

「案件発生までの流れも自動化する」ぼっち社長が実際に取り組む3つの自動化とは

では、僕自身がパフォーマンスを最大化するために、具体的に取り組んでいる3つの自動化をご紹介いたします。

1つめは、バックオフィス業務の自動化です。特にぼっち社長が必ず頭を抱えるのは月末の請求管理でしょう。僕の場合はメディア運営をしているので、ライターの方含め、毎月10〜20名近い方へ仕事を発注しています。

そして月末になるとそれぞれが何件納品していて、送られてきた請求書の件数や金額が間違っていないか目視で確認したりと、人力での請求管理は非常に手間がかかっていました。

そこで僕は発注から納品、検収、請求までを発注管理ツールを活用して行っています。検収が終わったものは自動でカウントされ、請求書が自動生成、受注者側にはツール上で請求書の内容を確認してもらって問題なければクリックして請求管理が終了と、請求管理にほぼ工数をかけずに済んでいます。

従来であれば、請求書の内容が間違っていたら受注者側に「請求書間違ってますよ」と連絡し、つくり直してもらい、PDFにしてまた再送してもらうなど、受注者側も手間が発生していましたが、ツールで自動化してしまえば発注者側も受注者側もラクになるんですよね。

また、クライアントに請求書を送る場合、企業によっては「郵送してください」と言われるケースがあります。わざわざ印刷して、送付状つけてと手間がかかるわけですが、請求書作成ツールであればワンクリックで郵送に対応してくれるサービスもあります。月末のそうした請求書まわりの業務はどんどん自動化していくべきでしょう。

続いて2つめが、テンプレによるテキスト入力の自動化です。たとえばGoogleドキュメントなどでアジェンダであったり、議事録であったりを作成されている方は多いと思うのですが、毎回同じ見出しを入力したり、過去のドキュメントを複製して内容だけ消して、といったことって地味に手間がかかるんですよね。

そこで二度起こりそうなことはすべてツールを使ってテンプレート化するということを心がけており、二回目以降は自動でテキストが入力されている状態からスタートできるようにしています。

冒頭でも触れましたが、問い合わせ対応もゼロからテキストを入力して返信するのではなく、ツールを使ってテンプレートテキストで自動返信対応。また自ら返信する場合も、返信テンプレートをあらかじめ用意しておくことで、メール対応の効率化を図っています。

そして最後に3つめが、案件発生までの流れを自動化することです。ぼっち社長やフリーランスは営業も自ら行わなければなりません。しかし自らやるべき領域で高いパフォーマンスを発揮するためには、営業に時間を割くよりも、そもそもでたくさん問い合わせが来るような、自ら営業せずとも自動的に発注が来る流れをつくることが大切であると考えています。

そのためにやるべきことはいくつかありますが、まずは自分が何者で、どういったことができるのかといったことをLPにまとめることをオススメしています。自分自身の棚卸しにもなりますし、LPをつくりSNSなどを活用して自動的に仕事がくる流れができれば、単価感の見合う仕事だけを受けたり、自身の単価感を上げていくこともでき、疲弊することのない自分のパフォーマンスを最大化できる環境構築が実現できるでしょう。

ぼっち社長が自動化のために活用する3つのツール

様々な業務を自動化するためには、ツール選定は非常に重要です。いろいろなツールを多用してしまうと、何をどのツールで管理していたか自分でもわからなくなってしまったり、効率化のためにツールを使っているはずが複数ツールをまたぐことで逆に作業が煩雑化してしまうといった “ツール分散問題” が必ず発生してしまいます。

そこで、僕の場合はなるべく1つのツールで完結できるようなものを重視しており、実際に活用しているのが下記3つのサービスです。

01. Notion

数年前まではドキュメント系ツールと言えばEvernoteという感じがあったと思うのですが、1つのツールで完結させようと思うと、Evernoteは拡張性があまりないことが懸念点でした。そこで現在、僕が使っているのがNotionというサービスです。

Notionは単純なドキュメントツールとしてはもちろん、様々な外部ツールとAPI連携ができるため、ダッシュボードとして活用することができます。そのため、僕の場合はTODO管理やカレンダー管理、また名簿管理などもNotionで行っており、日々の業務はNotionではじまり、Notionで終わるというくらいに愛用しています。

そして自動化という観点での最大のメリットは、テンプレート機能です。上述の通り、アジェンダや議事録などはあらかじめテンプレをつくっておくことで、無駄なテキスト入力を省くことができます。

また、実際に使っていただくとわかるのですが、テキストがブロックになっており、カーソルをあわせて選択してコピーして、といったことをせずとも、ドラッグアンドドロップで操作できるといったUI/UXが非常に優れていることも特徴です。

02. pasture

毎月の請求管理を自動化しているとお話しましたが、フリーランスへの発注から請求までを一元管理するツールとして実際に活用しているのが、pastureというサービスです。

対法人の受発注ツールはいろいろあるのですが、pastureはフリーランスに特化した発注ツールで、原稿やデザインなどの納品物のやり取りもpasture上で行うことができ、誰に何を依頼していて、それぞれがどういった進捗具合かといったフリーランス管理としても重宝しています。

有料ツールではありますが、発注件数が月間10件以上、もしくは10人以上への発注するような場合であれば、発注・請求管理を人力でやるのは手間がかかりますから、月額使用料を払ってでもpastureを使ったほうがいいと思います。

03. formrun

問い合わせや注文対応の自動化として活用しているのが、formrunというフォームツールです。一般的なメールソフトだと、それぞれのメールのやり取りがどういったステータスなのかが見えづらく、メールソフトで管理しようと思うと自分でタグ付けやフォルダ分けといった作業が必要です。

しかしformrunはカンバン形式で管理できるため、それぞれのコミュニケーションがどういったステータスであるのかがひと目で分かる一覧性の高さが特徴です。そのため、CRMツールとしても重宝しています。

またメールテンプレートを用意でき、変数機能で返信先の方のお名前や情報を自動入力することもできるため、コミュニケーションにおける工数削減が可能です。問い合わせ対応が多く、管理が煩雑化して困っているぼっち社長やフリーランスには、ぜひオススメしたいツールです。

編集後記:多くのことは自動化できる時代だからこそ、「自動化できないか」と思考する習慣が重要である

“自分だからこそやるべきこと” ではないことでも、「これくらいなら、自分でやってしまおう」とちょっとした作業を自ら行うぼっち社長やフリーランスは多いだろう。しかし、一つひとつはそこまで時間がかからない業務であっても、月間で振り返ると多くの工数を割いてしまい、本来フォーカスすべきことに100%リソースを費やせていないというケースは珍しくない。

西村氏の言う通り、ぼっち社長やフリーランスは使えるリソースが自分しかいないからこそ、自分がやらなくてもよい業務をいかに自動化させたり、アウトソーシングしたりするかといった発想が非常に重要だ。

西村氏は最後にこう語る。

「いまはいろいろなサービスが世の中にはあって、あったらいいなと思うサービスって大体もうあるんですよ。そのため、こんなこと自動化できないかなと思ったら、まずは調べてみること。そうすると、ピンポイントで自動化できるツールがあったり、使い方次第で自動化できるといったツールはたくさん出てきます。

しかし、自動化するという発想がなければ、いつまで経ってもその業務は自分の手から離れません。そのため、常に自動化できないかと思考する習慣付けが大事だなと思います。
また、美味しいレストランを探そうと思ったら、グルメに詳しい人に聞くのがてっとり早いのと同じで、身の回りにいるツールに詳しい人に相談してみるのも大切。実際に使った使用感であったり、効果的な使い方を聞くことで、より効率よくツールを使いこなすことができ、最終的に自分のパフォーマンスを最大化できる環境づくりに繋げていくことできると思っています」

西村 創一朗
株式会社HARES

複業研究家/HRマーケター。『複業の教科書』の著者。1988年神奈川県生まれ。大学卒業後、2011年に新卒でリクルートキャリアに入社後、法人営業・新規事業開発・人事採用を歴任。本業の傍ら2015年に株式会社HARESを創業し、仕事、子育て、社外活動などパラレルキャリアの実践者として活動を続けた後、2017年1月に独立。独立後は複業研究家として、働き方改革の専門家として個人・企業向けにコンサルティングを行う。講演・セミナー実績多数。LinkedIn認定インフルエンサー。Anker公式アンバサダー。 2017年9月〜2018年3月「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」(経済産業省)委員を務めた。プライベートでは12歳長男、9歳次男、4歳長女の3児の父、NPO法人ファザーリングジャパンにて最年少理事を務める。

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