【初心者向】裁量労働制とは?対象業務やメリット・デメリットを解説

新型コロナウイルスの流行で多様な働き方が求められる中、労働時間を従業員が自由にコントロールできる制度「裁量労働制」に注目が集まっています。

裁量労働制は、労働時間を短縮して生産性を向上することを目的とした制度です。導入した場合は、みなし労働時間に基づく給与計算になり、基本的に残業代を算出する必要がなくなるため、労務管理者の負担も軽減されます。

本記事では、裁量労働制の導入目的や普及の背景から、導入のメリット・デメリット、制度の対象となる職種などについて解説します。ぜひ裁量労働制の導入検討にお役立てください。

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裁量労働制とはなにか

裁量労働制とは、労働時間を労働者の裁量に委ねる働き方のことで、実労働時間ではなく、あらかじめ取り決めてある「みなし労働時間」を労働時間とする制度です。

みなし労働時間が1日8時間に設定されている場合、実際の労働時間が8時間より長くても短くても関係なく8時間働いたとみなされます。企業側は残業代の支払いが減り、労働者側は業務が終われば短時間で退勤できる仕組みとなっており、業務効率化を促進する効果があります。

企業が裁量労働制を採用するには、使用者と労働者の間で労使協定を結び、労使委員会を設置して所定の項目について委員の4/5以上の賛成を得る必要があります。また、労働者保護の観点から、対象業務やみなし労働時間、有効期間、健康・福祉を確保する措置、苦情に関する措置などを事前に取り決めなければなりません。

労使協定や委員会での決議は、所轄の労働基準監督署に届け出る必要があり、使用者が一方的に裁量労働制を採用することはできません。

裁量労働制の導入目的、導入背景

裁量労働制を採用する大きな狙いには、仕事の進め方や労働時間を労働者の裁量に任せて自由に働ける環境を作ることで、個々の従業員が高いパフォーマンスを発揮できるようにすることがあります。

一般の職種では出勤時間と退勤時間が定められており、業務の進め方なども上司の指示に従うことがほとんどです。しかし、クリエイティブ職や研究職といった成果が出るまでに時間を要する職種の場合、勤務時間や業務遂行の手段が決まっていると、かえって生産性が悪くなることがあります。

また、外回りの営業担当者や新聞記者などは、取引先や取材現場に直行・直帰することも多く、常には上司の指揮監督が及ばないため、労働時間の算出が困難です。

裁量労働制は、職種ならではの時間の使い方や業務スタイルによって異なる、パフォーマンスを発揮しやすい環境を提供するための一種の働き方改革とも言えるでしょう。

裁量労働制の導入メリット・デメリット

画一的な規則に基づく働き方を見直し、自由で合理的な働き方を実現するために誕生した裁量労働制ですが、企業が裁量労働制を導入すると、どのようなメリット・デメリットがあるでしょうか。

裁量労働制のメリット

まず企業側のメリットは、人件費の管理がしやすくなることです。なぜなら、裁量労働制では原則として残業代が発生しません。従業員の給与は基本的にみなし労働時間に基づいて支払うことになるため、人件費の予測が立てやすくなるほか、給与計算も容易に行えるので労務管理者の負担も軽減されます。

一方、労働者にとっての主なメリットは、仕事の自由度が高まる点です。出退勤の時間を自分で決められるので、プライベートとの両立がしやすくなります。また、短時間で仕事を終えればその分早く帰れるというメリットもあります。

裁量労働制では原則として残業代が支給されないため、労働時間の長さは影響しません。早く帰れるかどうかは自分次第なので、生産性を高めるための自主的な創意工夫や、時間管理への意識向上などが期待できるでしょう。

裁量労働制のデメリット

企業視点では勤怠管理の難しさがネックとなります。なぜなら、基本的に残業代を支払う必要がないとはいえ、深夜労働や休日労働の割増賃金は支払う必要があるため、深夜や休日の労働時間を把握する必要があるからです。また、同じ社内でも、職種によって裁量労働制と、従来の固定労働制が混在している場合は、勤怠管理はさらに複雑になるでしょう。

さらに、従業員が自分の裁量で働くことから、全員がオフィスに集まる機会が少なく、会議やミーティングの設定が容易ではありません。それぞれが自分のスケジュールをきちんと共有することが求められます。

労働者側のデメリットは、仕事が立て込んだときや繁忙期に深夜まで働いたとしても残業代が支払われないことです。そういう制度だと理解していても、長時間労働が続けば「こんなに働いているのに」と不満を抱える人も出てくるでしょう。

また、能力があり短時間で成果を出せる人であればよいですが、そうでない人にとっては長時間労働が慢性化し、うつ病などのメンタル不調や過労死など深刻な事態に発展する恐れもあります。

裁量労働制の導入事例

裁量労働制を検討するのであれば、他の企業の導入事例が参考になるかもしれません。以下では、裁量労働制を採用している3つの企業の事例をご紹介します。

事例1. コニカミノルタのケース

多様な働き方に対応するという課題があった電気機器メーカーのコニカミノルタでは、「イノベーションコース」と呼ばれる企画型裁量労働制を採用しました。

同社事例の特徴は、全社的に導入するのではなく選択制としている点です。裁量労働制については、長時間労働を助長するリスクなども指摘されていますが、ITツールを積極的に取り入れて従業員の労務状況を可視化することで、従業員の2/3が選択を希望するなど社内でも一定の評価を獲得しています。

事例2. ネスレ日本のケース

労働時間ではなく成果に対して報酬を支払う制度「ホワイトカラーエグゼンプション」のコンセプトを取り入れるべく、2011年ごろから働き方改革を推し進めてきたのがネスレ日本です。

ジョブスクリプションや評価制度の見直し、在宅勤務の実施、裁量労働制の導入といった一連の取り組みの結果、2017年には2010年比で従業員1人あたりの売上高32%増、利益81%増、平均残業時間84%減という着実な成果を挙げています。

事例3. トヨタ自動車のケース

日本を代表する自動車メーカー・トヨタは2017年、事務や研究開発に従事する主任級の従業員を対象に、自由な働き方の実現と「脱時間給」を狙いとした新制度を導入しました。

同社ではもともと一部の管理職に対して裁量労働制を適用していましたが、この新制度ではより成果重視の働き方を推進することを狙いとしました。

残業時間に関係なく毎月45時間分の残業代を支給し、45時間を超えた分も支払うことを発表。実質的には一定額の残業代が保証される固定残業制に近い制度ではあるものの、賃金は労働時間の対価であるという考えを払拭し、Googleなど異業種との競争激化を視野に生産性の向上を目指しています。

裁量労働制が適用できる職種

裁量労働制は、どんな職種にも適用できるわけではありません。対象となる職種や業務によって専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制という2種類の制度があります。

「専門業務型裁量労働制」に該当する職種

専門業務とは、研究者や編集者、コピーライター、映像制作者、弁護士や公認会計士などの士業など、名前の通り専門的な技術と知識を必要とする職業のことです。

専門業務型裁量労働制の対象業務には以下の19種類が定められています。

  1. 新商品や新技術の研究開発、人文科学、自然科学に関する研究
  2. 情報処理システムの分析、設計
  3. 新聞や雑誌の取材・編集、放送番組の取材・編集
  4. 衣服、室内装飾、工業製品、広告などのデザイナー
  5. 放送番組や映画のプロデューサー、ディレクター
  6. コピーライター
  7. システムコンサルタント
  8. インテリアコーディネーター
  9. ゲーム用ソフトウェアの開発
  10. 証券アナリスト
  11. 金融工学などの知識を用いた金融商品の開発
  12. 大学における教授研究(主として研究に従事するものに限る)
  13. 公認会計士
  14. 弁護士
  15. 建築士(一級建築士、二級建築士、木造建築士)
  16. 不動産鑑定士
  17. 弁理士
  18. 税理士
  19. 中小企業診断士

参照元:東京労働局「労働基準監督署 専門業務型裁量労働制の適正な導入のために」

「企画業務型裁量労働制」に該当する職種

基本的には、経営企画や人事・労務、財務・経理、広報、営業といった部署の業務のうち、調査や分析、計画の策定、企画の立案を行う業務全般が対象です。

専門業務型裁量労働制のように具体的な対象職種が明示されていないことから、制度の濫用を防ぐため、導入には専門業務型裁量労働制より複雑な手続きが必要となります。

裁量労働制と他制度との違い

労働時間を自分でコントロールできるという共通点から、裁量労働制と合わせて語られることの多い制度に「事業場外みなし労働時間制」と「フレックスタイム制」があります。この二つの制度と裁量労働制はなにが違うのでしょうか。

事業場外みなし労働時間制との違い

事業場外みなし労働時間制とは、外回りの営業など、会社の外で業務に当たるために、管理者による労働時間の把握が困難な職種に対して適用される制度です。会社の外で働いていても管理者が同行する場合には適用外となります。

あらかじめ「みなし労働時間」を設定しておく点は同じですが、裁量労働制では対象職種が法令で定められているのに対し、事業場外みなし労働時間制では「会社以外で仕事をする職種」を対象としている点で異なります。

フレックスタイム制度との違い

フレックスタイム制は、一定の期間(3ヶ月が上限)についてあらかじめ総労働時間が定められており、その範囲内であれば1日の始業・終業時間を労働者が自分で決められる制度です。

企業によっては1日の中で必ず出勤していなければならない「コアタイム」を設ける場合もありますが、その前後の時間の使い方は労働者に委ねられます。

コアタイムがある分、裁量労働制よりも時間の自由度は限られるものの、時間外労働についての規定は固定時間制と同じです。定められた総労働時間を超えて働いた時間は時間外労働として扱われ、残業代も発生します。

また、裁量労働制では実際の労働時間がみなし労働時間を下回っても給与額に変わりはありませんが、フレックスタイム制では一定期間の実働時間があらかじめ定められた総労働時間に満たなかった場合、給与が減額されるか、もしくは労働時間を翌月に繰り越すことも可能です。

裁量労働制における問題と勤怠管理の重要性

裁量労働制では、勤怠管理はより一層重要になるといえます。なぜなら、労働時間や残業などの扱いが通常の固定労働制とは異なるため、残業代や深夜・休日労働の割増料金を正確に算出するのに注意を要するからです。

また、従業員の労働時間の自由度が高い裁量労働制では、勤務実態が把握しにくく、適正に運用されないと長時間労働などの問題も招きやすい傾向があります。

そのため企業側は勤怠管理に力を入れて、給与の支払いや長時間労働などに関する問題防止に努めなければなりません。法令違反や給与計算時の混乱を回避するためにも、法令による規定を正しく理解しておくことが大切です。

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36協定との関係性

1日8時間、週40時間という法定労働時間を超えて従業員を働かせる場合には、使用者と労働組合による36協定の締結が必要です。裁量労働制を導入する場合でも、みなし労働時間が法定労働時間を超える場合には36協定を結ばなければなりません。

労働時間の扱い

裁量労働制の労働時間は、あらかじめ定められたみなし労働時間を基準とします。実際の労働時間がみなし労働時間に満たなくても、支払われる給与は変わりません。

時間外労働、残業代の扱い

裁量労働制には原則として時間外労働という概念がありません。しかし、みなし労働時間を法定労働時間の1日8時間以上に設定している場合、8時間を超えて従業員を働かせた時間分については割増賃金が発生し、残業代の支払いが必要です。

みなし労働時間が10時間であれば、2時間分を残業代として支払うことになります。また、裁量労働制でも残業時間の上限は通常の労働体制と同様の週45時間までと定められています。

なお、36協定に抵触しないようにみなし労働時間を設定すると、1日10時間が実質的な上限です。残業時間を給与計算に反映しなかったり、残業時間の上限を超えて従業員を働かせたりした場合は法令違反となります。

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休日出勤の扱い

裁量労働制にも休日出勤の割増賃金規定は適用されます。労働基準法では、使用者に対し少なくとも毎週1日、もしくは4週を通して4日以上の休日を労働者に与えることが義務付けられています。

この法定休日に従業員を働かせた場合は割増賃金を支払わなければなりません。なお、週休2日制であれば、そのうち1日が法定休日、もう1日は企業が独自に設定する所定休日です。

割増賃金率は法定休日に出勤した場合が35%以上、所定休日に出勤した場合が25%以上と、それぞれ異なることに注意しましょう。

深夜労働の扱い

休日出勤と同じく、裁量労働制でも深夜労働に対する割増賃金の支払いは免除されません。

深夜労働に当たるのは夜10時から翌朝の5時の深夜帯における勤務で、この時間分について割増賃金の支払いが生じます。

働き方にあった評価制度

裁量労働制は、労働時間の総量やプロセスではなく、成果を評価して給与を支払う仕組みです。労働時間を短くすることで従業員の生産性を高める目的があります。

ここでプロセスを評価対象に含めると、本来の狙い通りに制度が機能しなくなる場合があるので注意を要します。裁量労働制を採用する場合は、制度に見合った評価制度を整えることが重要です。

まとめ

裁量労働制は、クリエイティブ職や企画職など、労働時間や仕事の進め方を規定しない方が業務効率の向上につながる職種に対して適用される制度です。

自由度の高い働き方ができる一方、長時間労働のリスクもあるため、裁量労働制を導入することで生産性の向上を図る場合には注意が必要です。

導入に際しては法令上の規定をしっかりと押さえ、残業代の未払いが生じないよう注意しましょう。