「経営層に寄り添うこと」整えるだけでない、noteの組織成長を加速させるスタートアップ労務の考え方とは

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「スタートアップ労務は、会社のミッション実現のために行動すべき」

そう語るのは、note株式会社で初の労務担当として、ひとりで労務領域の立ち上げを進めてきた浦田彩未氏だ。

浦田氏は人材系企業を経て、クラウド名刺管理サービスのSansanへ1人目の労務担当として入社。数十名規模のフェーズから従業員数800名規模へと急速に成長していったSansanにてコーポレート部門の中心人物として関わる。

そして2019年にnote株式会社へ入社し、同じく数十名規模から現在150近くの組織へと成長しているnoteにて、労務という立場から組織成長を支えている “スタートアップ労務” である。

今回は労務担当としてスタートアップ企業に関わり続ける浦田氏に、スタートアップ労務だからこそ大切にしているマインドセットや苦悩、また労務領域の立ち上げ時に活用すべきツールについて語っていただいた。

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組織がどんどん変化していくスタートアップだからこそ、整える労務ではなく、成長を加速させる労務であること

スタートアップの労務の立ち上げフェーズで求められるのは、勤怠管理や給与計算、行政手続きといった、法令遵守のために求められる労務管理の土台づくりだけではありません

組織をさらにスケールさせていくため、またカルチャーを体現していくための制度づくりやルール整備など、労務系プロジェクトの推進というのもスタートアップ労務に求められます。

実際に私がnoteに入社した当時、社内に人事労務の専任がいなかったため、法令遵守のために対応しなければいけないことに追われ、メンバーの働き方をどうするか、より効率的な勤怠管理の方法をどうすか、また様々な手続きの電子化を進めるためのルールづくりなど、組織をスケールさせていくための労務系プロジェクトが滞留している状況でした。

そうした中で、スタートアップ労務として私が大切にしていたのが、会社のミッション実現のために労務として行動すべきことは何かを考え、経営者に寄り添った労務担当者であることです。

というのも、私はnoteのミッションに共感し、そのミッションを実現するためにジョインしています。そしてスピード感が求められるスタートアップであるからこそ、緊急性の高い労務領域の基礎固めだけにとらわれてしまい、ただ “整える” だけの労務になっていてはダメで、いかに会社の成長を加速させる労務であるかが重要であると考えます。

そこで、経営陣とのコミュニケーションの場を頻繁に設け、いま抱えている組織の課題観などをヒアリング。会話を重ねていくことで経営陣が目指す方向性や哲学を理解していくことから取り組んでいきました。

というのも初期のスタートアップであれば、はじめはアットホームな雰囲気で、よしなに進められることも多いでしょう。しかし人数が増え、組織として成長していくにつれて、整えていかなければいけないことも増えてきます。

そうしたときに労務担当者というのは、都度目の前の労務課題に対して「法令に遵守しなくては」と焦ってしまい、ただただ整えるという発想で仕事をしてしまいがちです。しかし、あらかじめ経営陣が目指す方向性を理解していれば、会社としてこういう働き方を目指すべき、そのためにこういう制度をつくるべきといったことがブレずに行動できるのです。

そして労務は失敗が許されないと思いがちですが、成長が早く、組織がどんどん変化していくスタートアップであるからこそ、失敗を恐れず、時に失敗をしてでも進めながら改善していき、組織としてあるべき姿を労務領域から実現していくという考えが大切でしょう。

ルールが増えることで “会社っぽくなった” という不満も。スタートアップ労務が直面しがちな3つの課題

会社の成長を加速させる労務であるべきだとお伝えしましたが、もちろんスタートアップ労務の立ち上げは課題が山積みです。中でも直面しがちなのが、次の3つです。

1つめが、単純にリソースが足りないという課題です。スタートアップであれば、労務担当者がひとりしかいない、もしくは他の業務と兼任しているというケースも珍しくありません。そのため、単純にやらなければいけないこと、会社としてやりたいことすべてを遂行させることは非常に困難です。

私の場合は経営陣へのヒアリングを通じて、労務としてやるべきことを直近3年間分のマイルストーンに落とし込みました。しかし、マイルストーンに落とし込んだとしても、途中でまた新しくやらなければいけないことが発生しがちです。はじめの1年半近くは、労務担当が私ひとりしかいなかったため、ひとりでは抱えきれない量の業務を受けてしまい、パンクしてしまいそうなこともありました。

2つめがリソース不足の原因にもなりうる、経営層との温度観、捉え方の違いです。労務としては緊急性の高い給与計算や勤怠管理を整備していきたいと思っていますが、経営層は会社が目指す方向性を見据えた組織づくりをしていきたいと考えています。

たとえば実際にあった例としては、noteではコロナ禍前のまだリモートワークのルールがないタイミングで、「ルールがまだないけど、リモートワーク勤務やフレックス制を導入したい」といった話が経営層からありました。

そうした緊急性は低いけれども会社として実現したいことに対して、労務担当者はいかに優先順位を決めていくかが重要です。優先順位をつけて進めなければ、結果的に業務量過多でパンクしてしまうということになりかねません。

最後に3つめが、 “会社っぽくなる” ことで生まれるメンバーからの不満です。特にIPOを目指す企業であれば適切な内部統制に対応すべく、勤怠管理ひとつとっても、メンバーに守ってもらいたい新しいルールが生まれていきます。

そうすると、ルールがガチガチに定まっていなかった、組織規模がまだ大きくない時期からいるメンバーからは、「会社っぽくなってきて面倒」といった不満が生まれ、終いには退職者が出てしまうといったことは往々にして起こりえるのです。

組織のルールは経営層からのメッセージ。労務はその背景をしっかりと全社に伝えることが重要

では、これらの課題を解決するために、スタートアップ労務はどういったことをケアしながら進めていくべきなのでしょうか。

まずリソース不足という課題に課題しては、積極的に社内外のリソースを巻き込むことです。労務担当者からすると、本業があるメンバーを巻き込んではいけないという感覚があるでしょう。実際に私自身もそう思っていたこともありました。

しかし、自分だけのリソースだけでどうにかしようとすると、計画を遅らせることになり、労務が会社が成長していく上でのボトルネックになってしまいかねません。

そのため、社労士の方に相談してみたり、社内のエンジニアにこの部分を自動化できないかなどと相談してみるなど、自分以外のリソースを活用するという発想が非常に大切です。

実際、過去にメンバーの打刻漏れを私が目視で確認して報告するといったことをしていたのですが、社内のエンジニアに相談したところ、打刻漏れを自動で集計してくれるプログラムを組んでもらい、業務量の削減ができたことがありました。

そして経営層との温度感、捉え方の違いに関しては、時に第三者を交えるなどして、様々な角度から客観的に課題把握、優先順位決めを行うことです。

たとえば人数規模が小さいときは、ルールで解決したいと思っている課題が個人の問題なのか、組織の課題なのかが見えづらいことがあります。また会社組織として解決すべきことか、点で解決すべきなのか、今やるべきかどうかなどを冷静に見極めることが大切です。

しかし労務担当が感じている課題感や危機感が経営層に伝わらないこともあるため、違った角度から冷静に意見を言ってもらうために、社外の方や法務担当など、第三者を交えて議論することで、客観的な判断ができるようになります。

最後に、ルールが増えることによるメンバーからの不満を解決するためには、なぜやるのかをシンプルに伝えることが大切です。やはり理由を伝えずに、ただ「ルールだから守ってください」と言われたら、私でも嫌だなと思います。

いま会社はこういうフェーズで、このルールを守ることで会社はこう成長していけるのだと、そのルールが必要な背景をしっかりと伝えること。そしてみんなで一緒に会社をつくっているのだという認識をいかに持ってもらえるかが重要です。

また、組織のルールというのは経営層からメンバーへのメッセージにもなりえます。たとえばリモート勤務のルールづくりにおいても、性善説に立つのか性悪説に立つのかでルールは異なってきます。

そして「本当に働いているかどうかわからないから」ということで厳しいルールにしてしまった結果、社員にとっては「自分たちは会社から信頼されていないんだ」と思われてしまうことにもなりかねません。

だからこそ組織のルールをつくっていく労務担当者には、いかに経営層の考えをメッセージとしてルールに落とし込み、そして全社にそのルールの背景を伝えるかが非常に求められるのです。

スタートアップ労務の立ち上げ時に活用する3つのツール

スタートアップ労務の仕事は、単純に業務量が多いだけでなく、重要度の高い内容のものも多くあります。そのため、基礎業務だけでリソース不足になってしまっては、会社の成長に合わせた動きができません。いかにツールを使って自動化していくかが大切です。

また組織としての新たなルールを設けたときに、やはり本業があるメンバーに負荷がかからないよう、できるだけ簡単にするか、またメンバーに対しても業務フローを自動化できないかと考えることも重要です。

そこで私がスタートアップ労務領域での立ち上げ時に活用するツールが次の3つです。

01. SmartHR

労務管理システムであるSmartHRでは、入社手続きに必要な情報を社員が直接入力できたり、社会保険・雇用保険などの手続きがペーパーレスで、かつ1クリックで電子申請ができるなど、労務管理が非常に効率よく行えることが特徴です。

またスマホにも対応しているため、申請側のメンバーにとっても利便性が高く、申請を後回ししてしまったり、優れたUIにより入力ミスが減らせるなど、管理者側、申請側ともに便利なツールです。

そして労務担当者にとっては、法令に遵守するかどうかを調べて、対応するといったことが必要ですが、SmartHRでは法令に遵守する形ですでに様々なフォーマットが用意されているため、属人化しない業務プロセスの構築が可能であることも嬉しいポイントです。

02. ジョブカン勤怠管理

noteでは、勤怠管理ツールとしてジョブカン勤怠管理を活用しているのですが、最大の利点がビジネスチャットツールであるSlackと連携させ、Slack上から特定のテキストを入力することで打刻ができることです。

業務ではSlackを必ず使いますから、Slack上で打刻できることでメンバーはわざわざ勤怠管理のための画面を開くといったことをせずに済みますので、打刻漏れを減らすことができ、未打刻の場合でもSlackにアラートが飛ぶようになっていたりと、メンバーにも負荷のない勤怠管理が実現できます。

設定もシンプルで、余計な難しい機能もないため、非常に導入しやすいツールです。

03. クラウド会計freee

労務なのに会計システム?と思われた方もいるかもしれませんが、noteでは結婚のお祝い金申請や休職、雇用条件の変更の申請など、様々な申請をクラウド会計freeeの「各種申請」というワークフローを活用しています。

たとえばIPO準備のためには内部統制としてワークフローを整えることが求められますが、そのためにわざわざツールを導入することはコストがかかり、また社員に新たな業務フローを浸透させるための教育コストもかかってしまいます。

そのため、もともと自社で導入しているシステムで人事労務系のワークフローを乗せられないかという発想が大切で、クラウド会計freeeでは金銭に関係ないワークフローもつくることができるため、非常に重宝しています。

編集後記:正解がなく、相談相手もいないスタートアップ労務は非常に孤独なポジションである

スタートアップで働く魅力のひとつに、その企業の働き方含めたカルチャーへの共感が挙げられるだろう。しかし組織がスケールしていくことが前提のスタートアップであるからこそ、成長ステージに応じて内部統制の強化が求められ、働き方のルールやワークフローの見直しが発生し、メンバーからの不満が生じてしまうケースは珍しくない。

浦田氏のお話を伺い、スタートアップ企業の労務担当者に求められるのは、労務管理の整備だけでなく、「いかにスタートアップの一員として、会社の成長を加速させるか」という視点を持つことであると強く感じさせられた。

最後に浦田氏はこう語る。

「スタートアップの労務担当は、組織が大きくなるまではひとりで担当するケースが多いと思います。一方で労務担当の仕事というのは企業フェーズによっても違いますし、組織文化によっても違うため、正解がなく、相談する相手もいない。スタートアップ労務は非常に孤独なポジションなんですよね。

そして、何かできないことがあったときに自分の力不足なのではと自責してしまいがちですが、他のスタートアップ労務の話を聞くと、どの組織も同じことに困っているのだなと安心できたりもします。

私も前職の現労務担当の方に連絡したり、知り合いの会社の労務担当者を紹介いただいたりして相談させてもらうこともあるのですが、非常に助かっています。そのため、もしひとりで不安を抱えている労務担当の方がいれば、ぜひ気軽にご連絡ください。他の労務担当の方も交えて、ぜひZoomなどで雑談しましょう!」

浦田 彩未
note株式会社

スタートアップ企業の人事労務。 1985年北海道生まれ。2008年大学卒業後、人材アウトソーシングサービスの法人営業、職業コーディネーター等の一連の現場実務を経験。新規事業の立ち上げも行い、メインサービスに拡大。 その後、2012年〜Sansanの創業・成長フェーズ、グローバル展開までの労務領域に6年半携わる。 2019年noteに人事労務としてジョイン。社外ではスタートアップ企業での労務アドバイザーとして活動。

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