効果的な人事評価シートの書き方|ポイントと8職種の記入例

人事評価を適正に行うためのツールである「人事評価シート」ですが、何をどう書いたらいいのか、活用に困るケースも多くみられます。

人事評価シートは「業績評価」「能力評価」「情意評価」の3つの項目で構成されており、それぞれ具体的な数字を用いて客観的に評価するのがポイントで、課題や改善策を示すことで適切な評価が可能になります。

本記事では、人事評価シートの目的や評価項目を具体的に説明します。また、営業から技術職まで、「上司」「部下」に分けて、記入サンプルを紹介しているので、ぜひ公正公平な人事評価ができるよう参考にしてください。

人事評価シートの目的

人事評価シートとは、社員の評価を数値化・言語化したものです。製造業からIT業、事務職から営業職、公務員、保育士、介護士まで、いかなる業種や職種でも活用できます。人事評価シートの目的には、以下のようなものが挙げられます。

従業員の評価を適切に行うため

人事評価シートでは、評価基準や方法が可視化されるので、適切な人事評価が行えます。対象や基準が不明確だと、評価そのものが曖昧になり、評価者(上司)によって結果が大きく異なってしまうという問題が発生するおそれがあります。

公平な人事評価を示すため

人事評価シートには、評価項目や方法が定められているので、公平に従業員の能力や意欲を評価できます。評価方法が曖昧な場合は、社員に不公平感が生まれ、モチベーションの低下につながってしまいます。

社員の目標達成意欲を向上させるため

評価項目が明確に言語化・数値化されている人事評価シートは、社員が目標を達成するためのガイドラインにもなります。評価される側(部下)は、何をどう達成すれば高く評価されるのかを把握しやすくなるので、モチベーションがアップします。

人事評価シートの評価項目

人事評価シートは、「業績」「能力」「情意」の3項目で構成されています。各項目の評価方法と評価の具体的な記入例は、以下のとおりです。

業績評価

業績評価は、「社員が数値目標をどの程度達成できたか」を示す指標です。数値化できるので、客観性と公平性が保てるというメリットがあります。また、結果だけではなく、業務のプロセスも評価の対象になります。

【記入例】
  • 売上目標に対し、120%の実績を残した。
  • 大口案件を受注し、会社全体の評価を高めた。

能力評価

能力評価は、「社員がどれだけの職務能力を身につけ、それを発揮できているか」を示す指標です。数値では測れない能力を評価できます。

【記入例】
  • 業務トラブルに適切に対応し、リスクを未然に防いだ。
  • エコ推進運動でリーダー的役割を果たした。

情意評価

情意評価とは、「社員の意欲や勤務態度」に関する基準です。業績や能力では測れない社員の適性や潜在能力の評価を行います。ただ、定量的な評価は難しい項目とも言われています。

【記入例】
  • スキルがなく経験が浅いが、成長の余地があるので今後に期待できる。
  • 自社ビル周辺の清掃活動に積極的に参加し、地域貢献に努めた。

人事評価シートを書くうえでおさえておくべきポイント

自己評価において、どう書けば正当な評価を得られるか理解しておく必要があります。的確な評価を受けるためのポイントは以下4つです。

  • 具体的な数字を用いる
  • 客観的な視点で評価する
  • 失敗や課題を報告する
  • 改善策を記述する

具体的な数字を用いる

業績は、数字を用いて具体的に報告しましょう。「がんばった」「うまくいった」「よくなった」「無理だった」といった主観的な表現では、評価者を納得させることができません。

例えば、個人目標について「達成できた」で終わらせるのではなく、数字を用いて「売上目標に対し120%を達成」などと具体的に明記します。数値化が難しい目標でも「業務効率が〇〇%アップした」「定期引き上げ率が〇%に向上した」など、可能な限り数値で表しましょう。なお、文体は常体(だ・である調)を用い、シンプルで簡潔な文章にまとめます。

客観的な視点で評価する

自分に対する評価には、常に客観性が求められます。評価基準が「自分自身」では、説得力に欠けてしまうからです。「自分なりによくできたので、A評価をつけた」ではなく「自分の〇〇な行動により、周囲が□□に変化した」のように、客観的な事実による裏付けを示しましょう。

失敗や課題を報告する

評価記入シートは、よい結果だけを書くツールではありません。失敗点や課題も報告します。「クレームを受けた」「契約を取れなかった」で終わらせるのではなく、失敗を成功のもとにするために、原因を分析して次につなげる姿勢を示せば、分析能力や成長意欲があると評価されます。

改善策を記述する

人事評価シートは、「○○だった」という単なる「振り返りシート」でも「結果レポート」でもありません。業務を分析し、良かった点をさらに伸ばすアクションを示し、未達成の点は改善策を提示しましょう。そうすることで、意欲の高さも評価されます。

職種ごとの人事評価シート記入例

人事評価シートに書く内容が的確でなければ、適正な評価は得られません。人事評価シートは業種・職種によって内容や注目すべきポイントが異なります。職種ごとの人事評価シート記入例を紹介するので、ぜひ参考にしてください。

営業

営業は、最も「数字」が問われる職種の1つです。同時に、業務を数値化しやすい職種ともいえます。上司・部下の記入例は以下の通りです。

【上司】

売上アップのための施策を講じ、売上前年比10%増を達成したことは大きな成果といえる。チームリーダーとして若手やベテランを巻き込み、チーム内の協調性・連帯感を生みだしたことも大いに評価できる。

【部下】

売上前年比10%増を達成できた。成績上位者のスキルを共有する機会を設けたことが、売上増につながったと分析する。リーダーとして積極的に挨拶や声かけをしたことが、働きやすい職場づくりにつながった。

【ポイント】

営業の場合、目標達成率と達成するためにおこしたアクションなどを具体的に書きましょう。上司には強い客観性と一貫性のある評価が必要です。数字に表れにくい業務にも適切な評価をするため、日頃から部下の様子に目を配る姿勢が求められます。

販売・サービス

販売・サービス業は日々顧客に接する職種です。売上以上に顧客対応が重視されます。

【上司】

お客様をクロージングまで笑顔で接し、言葉遣いは適切で、身だしなみも常に整っており、サービス業の自覚が感じられる。他のメンバーと協力しつつリーダーシップを発揮し、繁忙期でも業務をよく回している。今後もこの調子で続けてほしい。

【部下】

お客様に気持ちよく利用してもらえるよう、来店時に笑顔でご挨拶している。また、オーダーや会計時も笑顔で対応し、聞き取りやすい声で接客できていると思う。ランチやディナー時などの忙しい時間帯は、他のメンバーに声をかけつつ、率先して動くことで、オペレーションをスムーズに回すことを第一に考えている。

【ポイント】

顧客対応や身だしなみ、オペレーションなど、社内だけでなく社外の人にも常に見られていることが多いため、振る舞い方を含む多くのことが評価対象です。顧客対応や円滑な業務のために意識していることを具体的に書きましょう。評価者は、広範囲の評価項目に目を配る必要があります。

ITエンジニア

システム設計や運用保守など、ITに関わるさまざまな知識や技術が求められます。加えて他部署との連携など、コミュニケーションスキルも必要です。

【上司】

今期設計完了のシステムにおいて、ツールを作成し作業効率を約20%向上させたことは評価に値する。今後もタスク全体を見ながら業務を遂行してほしい。また、部署間のコミュニケーション不足を解決するためのアプリ導入は、他部署と協力しながら、ぜひ早期に実現してほしい。

【部下】

今期が納期だったシステムにおいて、効率的に作業を進めるためツールを作成した。その結果、作業効率が20%アップし、設計工程に余裕も生まれて余剰時間を確保できた。

一方、他部署との連携がスムーズにいかず、トラブルが生まれた。問題解決のため、来期からチャットアプリを使用した連絡にシフトすることを計画している。

【ポイント】

技術や知識での貢献だけでなく、他部署との連携についても積極的かつ具体的に明記しましょう。上司には部下のスキルを客観的に評価できる力量が求められます。また、専門分野以外に視野を広げるよう、促すことも必要です。

ものづくりエンジニア

ものづくりエンジニアは、技術でいかに業績に貢献できたが問われます。各種コストの削減や製品のクオリティ向上などを数値化しましょう。

【上司】

商品Aの生産コスト10%削減という目標に対し、設計から生産工程での無駄をなくすことで、期末には11%のコスト削減という成果を導き出した。働き方の見直しを図ったことも評価できる。来期は作業効率をアップさせて、迅速な新商品開発に貢献してほしい。

【部下】

生産ラインが増えた商品Aの設計について見直しを行い、無駄をなくしたことで工程を1割カット、納期も3%短縮させ、11%のコストダウンを実現した。

また、チーム内の役割分担を見直し、効率よく作業を進められるように配置転換を実施している。来期の作業効率アップが期待できる。

【ポイント】

単に何かを「作った」ではなく、生産性向上や費用削減にどのようにつながったのかを具体的に述べることが高評価につながります。

事務

売上に直接関わらない事務職は、成果を数値化しにくい職種です。通常業務のなかで工夫・改善・努力したことを客観視し、言葉にしましょう。マニュアル制作なども評価の対象です。

【上司】

引き継ぎマニュアルの作成によって、引き継ぎにかかる期間を短縮した点が素晴らしい。今後も積極的に業務効率改善に取り組むことを期待する。

【部下】

3名の新規採用予定があったため、引き継ぎ業務をマニュアル化した。従来1週間かかっていた業務の引き継ぎが3日で完了し、業務が効率化された。

【ポイント】

大きな成果でなくても達成したことを客観的な視点で報告することが重要です。また、事務職は他部署に比べ成果の測定が難しいため、評価者は普段から部下の業務態度をよく見ておく必要があります。

マーケティング

リサーチから販売促進、広告まで担当するマーケティング職には、論理的思考や交渉力が必須です。数値化が難しい点も多いため、能力・業績・情意をバランスよく盛り込みましょう。

【上司】

先入観にとらわれず、顧客が何を求めているかを詳細に分析したことが、成果につながった。分析力、プレゼン能力に優れているので、講習会参加以後は、スキルの共有化に努め、さらに企画採用率のアップにつなげてほしい。

【部下】

若い男性がメインターゲットの商品が、リサーチにより女子高生などの若い女性から支持されていることが判明したため、若い女性に向けたプロモーションを企画。具体的なデータをもとにプレゼンを重ね、採用にいたった。結果的に女性ユーザーが30%増加、売上20%増を実現した。

プレゼンのスキルを高めるための講習に参加し、企画採用率5%増を達成した。

【ポイント】

業績を可視化できない点もありますが、数値を多用して具体性を持たせ、業務プロセスを報告しましょう。

クリエイティブ

デザイナー・編集などのクリエイティブ職は、自身のスキルが重視され、個人プレーが多いのが特徴です。また、目標を数値化しにくい職種でもあります。

【上司】

担当しているWebサイト開発では、他のメンバーと連携をとり、自身が苦手とするデザインへのアドバイスを積極的にもらう姿が多く見受けられた。新しい技術に関してキャッチアップする姿勢は評価できる。また、納期を確実に守っている点も素晴らしい。

【部下】

他にはないサイトデザインにするためには客観的な視点が必要と考え、他部署から積極的にアドバイスをもらった。納期がすべてなので、遅延が生じないよう進捗状況の確認を週1から週2に増やし、フォローしている。

【ポイント】

クリエイティブ職は個人のスキルに注目しがちですが、周囲と協調する姿勢も評価対象です。上司が部下のスキル以外の点を評価することで、よりハイレベルな人材への成長を促せます。

コンサルタント

コンサルタントは、顧客の課題解決を担う職種です。論理的な思考とコミュニケーション能力が求められます。

【上司】

顧客からの指摘を受け止め改善を重ねたことが、最終的に顧客の売上目標達成に結び付いており、大いに評価できる。しかし、顧客に対し、時として強い口調が目立ち、尊大な印象を与えることがある。穏やかに相手を納得させるスキルを習得すれば、さらなる成長が期待できる。

【部下】

顧客から売上挽回のための新製品開発戦略の依頼を受け、マーケティングや分析を行い、複数プランを提案したが、コンセプトと予算の折り合いがつかなかった。再度ヒアリングを行ったうえで代替案を提出したところ採用に至った。プロジェクトの成果としては、ノルマに対し20%増の売上を達成できた。

【ポイント】

顧客の満足度をいかに高めることができたか、問題が生じた場合は、いかに克服したかを記載しましょう。上司は数値化された成果だけでなく、仕事に取り組む姿勢も評価します。

適正な人事評価におすすめのツール

人の手で人事評価を効率良く公平公正に行うことには限界があります。そんなときはツールを上手く活用するとよいでしょう。

ここでは、適正な人事評価におすすめのツールを3種類紹介していきます。

人事評価システム

人事評価サービスは、人事評価シートの活用をサポートするツールで、導入すれば人事評価業務をスムーズに進められます。

HRMOS評価

「HRMOS評価」は、株式会社ビズリーチが提供するクラウド型人事評価システムです。役割や役職に応じて評価シートを細かくカスタマイズできるため、MBOやコンピテンシー評価といった評価方法にも対応できます。

P-TH

AJS株式会社が提供する「P-TH」は、オンプレミス型の人事評価システムです。ウェブやExcelと連動できるため、利用に慣れたインターフェイスのままで人事評価業務を遂行でき、導入もスムーズに進みます。

モノドンver.5

「モノドンver.5」は、株式会社くじらシステム開発が提供するパッケージ型人事評価システムです。あらかじめ評価シートが実装されているので、フォーマットを作成する手間がかかりません。過去のデータもすぐに参照できるため、評価業務自体の効率アップも期待できます。

タレントマネジメントシステム

人事評価システムが従業員に対する人事評価を適正に行い人事業務を効率化するツールであるのに対し、タレントマネジメントシステムは企業の経営戦略や事業計画を実現するための人材開発を効果的に行うツールです。

よって、人事評価システムと併用することで、人事評価で収集したデータを元に「人材の配置をシミュレートする」「次世代のリーダー候補をピックアップして育成計画を策定する」といった施策ができます。

人材の育成という面では、人事評価システムと同時に導入しておきたいシステムといえるでしょう。

カオナビ

カオナビは、株式会社カオナビが提供するタレントマネジメントシステムです。タレントマネジメントシステムの中でも大きなシェアを誇っており、2,000社以上の導入実績があります。

受賞歴や研修履歴、資格の有無、年次、役職などのスキルだけでなく性格診断・ストレスチェック・モチベーションなどの数多くの項目における社員の情報を簡単に整理できます。そうすることでパフォーマンスの高いメンバーの可視化ができ、効果的な人員配置を簡単に行えます。

また、 管理職候補者リストや新規プロジェクトメンバーなど、自社オリジナルのカテゴリーごとにリストも作成できるため、配置管理や後継者管理が容易です。

Workday ヒューマン キャピタル マネジメント

Workday ヒューマン キャピタル マネジメントは、ワークデイ株式会社が提供するタレントマネジメントシステムです。大きな特徴として、独自の機械学習システムによって各従業員のスキルを自動で判別できることが挙げられます。

さらに、業務において将来必要となるスキルを見出だすこともできるため、不足しているスキルも把握することが可能です。

従業員のデータをレポーティング・分析することで、組織のニーズに合ったスキルや構成、パフォーマンス、人財獲得、ダイバーシティなどの情報データをグラフで可視化できます。企業にとって最適な人員配置が可能なツールといえるでしょう。

タレントパレット

タレントパレットは、株式会社プラスアルファ・コンサルティングが提供するタレントマネジメントシステムです。

従業員のデータを顔写真で一覧にできる点が大きな特徴で、顔写真をクリックするだけでスキルや経歴、勤怠などのあらゆる人事データを閲覧することができます。

データを元にドラッグ&ドロップで異動シミュレーションや後継者人材の選抜を行うことが簡単にできるため、初めてタレントマネジメントシステムを導入する会社にもおすすめです。

採用管理システム

採用管理システムは、求人サイトごとの応募状況や応募者の個人情報、選考の進捗、採用担当者の評価など、採用活動における情報管理全般をサポートするツールです。

採用管理システムには採用活動に関する全ての情報が集約されており、利用し続けることで情報が有益なデータとして蓄積されていきます。蓄積されたデータはこれからの採用活動はもちろん、新入社員を人事評価するためのツールとしても活用可能です。

Talentio

Talentioは、株式会社タレンティオが提供する採用管理システム(ATS)です。

Talentioは履歴書のデータ取得やオファーレターの作成といった手間のかかる作業を自動化することで作業コストの削減を図ることができます。

また、Talentioでは獲得した求職者のデータをMAツールである「Marketo Engage」と連携することで、応募者との最適なコミュニケーションを行い、良好な関係性を実現します。

中途採用の活発化や求職者の減少で採用が難しくなっている昨今でも、柔軟に対応できるツールです。

バイトルマスター

バイトルマスターは、ディップ株式会社が提供する採用管理システム(ATS)です。

バイトルマスター最大の特徴は、複数の求人媒体にまたがる応募者の情報を1つのデータベースに集約し一元管理できることです。バイトルマスターのIDとPWだけですべての応募情報を管理します。

面倒な面接の日程調整においては、面接自動予約機能でタイミングを選ばずスピーディーに面接予約が可能です。採用担当者の作業コストの大幅カットが実現します。

求人に対してもデータベースに集約された情報から効果分析を行い、各求人媒体の掲載効果の把握が容易いです。課題が数値化されることから費用対効果の低い求人媒体に対しても効果的に対策を練ることができます。

HRMOS採用

HRMOS採用は、株式会社ビズリーチが提供する採用管理システム(ATS)です。求人票の作成や面接の日程調整、人材紹介会社とのやり取り、候補者の選考ステータス管理など、採用に必要な業務をツール1つで一元管理できます。

導入後は対面でのサポートはもちろん、各企業にとって最適な運用方法の提案といった協力なサポート体制が魅力です。ベンチャー企業から上場企業まで様々な業種で導入されており、それぞれのノウハウを提供・共有することで、社内の採用を強化していきます。

まとめ

人事評価は処遇を決めるだけでなく、人材育成を図る目的をもつので、評価する側・される側のいずれにとっても非常に重要です。適正な人事評価を行うためのツールが「人事評価シート」であり、人事評価という曖昧さが残りやすい業務を数値や言葉で可視化して、適正な評価を下すことができます。

評価される側も自分のすべきことが明確になるので、自らに対する評価を納得して受け入れることができます。結果として企業としての競争力強化にもつながるので、人事評価シートの活用をぜひご検討ください。